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応募作品⑤『LESSON』

※これは、ツカノマレーベル主催:朗読企画「こんな夢を見た。」2020 short short story に2019年に応募したものです。NOTEに掲載するにあたり気がついた分については、多少修正や加筆しております。 

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『 LESSON 』


 こんな夢をみた。

 幼馴染のようなどこか懐かしさを感じさせる見ず知らずの人と対話をする夢だ。それが、不思議なことにどこの誰だかは全くわからない。頭から足元まで全体のシルエットはハッキリとわかるが、顔は口元だけがうっすらわかる程度。髪は長くワンピースを着ているように見えたからおそらく女性だと思う。
 そんな彼女と出会ったのは、ボクがよく散歩する公園の広場でぼーっとしていた時だ。 彼女に道を訪ねられたことから摩訶不思議な対話がはじまった。何が摩訶不思議なのかというと、ボクの過去のトラウマが自己解決され癒されることになったからだ。誰にも話したことのなかったずっと胸の奥よりももっと深い場所にしまっていた黒くて醜い塊。その塊が小さくなっていくビジョンまでみえたほどだったからだ。

 彼女が何気なく質問してくることに、ただ僕は答えていく。そして、彼女はボクの答にこう答える

『何故、あなたはそう思ったの?』

 〝何故?〟という言葉がまるで呪文でもあるかのような2文字からのはじまり。彼女からのシンプルな繰り返しの〝問〟に僕はどんどん引き込まれていった。そしてその問に答えていくことで、自身のこれまでに解決できなかった心の葛藤やモヤモヤを吐き出すことにもなり、それが自身の答になっていくといったふうだ。 
 長年自問自答しても自己解決できなかったことが不思議と面白いことに少しずつ解き放たれていく。いつの頃からか握りしめたままでいた〝罪悪感〟を自分以外の誰かに開示することになったのだから…。まぁ夢の中だから自分の頭の中だけで起こった出来事になるのだから、彼女はもう一人のボクであるのかもしれないのだけれど…。
 ただ、疑似的にでも、ずっと握りしめていたものを自分以外の誰かに開示できたことで、心底安堵している自分に気いた。そして、彼女と他愛のない会話をしながら、涙がこぼれていることに気がついたところで目が覚めた。
 目覚めたと同時に胸があたたかく、今までに感じたことのない幸せな気持ちで身体中がいっぱい満たされたようだった。ただ、残念なのは、彼女の顔は最後までわからずじまい。それに、対話している時の彼女の口元の動きと声色だけで、彼女の心の動きを知るほかなかったのだが、彼女自身のことは全くといいっていいほどわからなかった。

『〝名前くらい聞いとけばよかったかな…?〟っていうか夢だし。何言ってんだオレ…。あーでも、また、今夜も彼女が夢に出てきてくれないだろうか?』

 そんなことを思いながら朝の支度をし、夢のような時間から日常の世界を思い出すかのように、僕はいつものように玄関の扉を空け家を出た。


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