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【映画】「THE FIRST SLAM DUNK」の魅力を8項目で語りまくる

現在、映画『THE FIRST SLAM DUNK』が絶賛復活上映中!

ずっと前から書こう、書こうと思っていたのになんとなくタイミングを損ねて先延ばしにしていたから、復活上映という波に乗って『THE FIRST SLAM DUNK』の良さを思う存分書きまくる。

因みに、私はスラムダンク世代ではない。原作を初めて読んだのは2010年頃。中学生でバスケ部に入部した私は、周りがミニバス経験者だったからひとりだけ"シロート"だった。

そしたら当時の顧問の先生に「スラムダンクを読みな」と言われた。「ドリブル練習しろ」とか「走れ」とかじゃなく「スラムダンクを読みな」。すごいなと思う。だって結果的にどんな言葉よりも私に火をつけることになったんだから。

それで誕生日に全巻買ってもらったスラムダンク。1巻を読んだが最後、ページをめくる手が止められなくて、どんどんスラムダンクの世界に引き摺り込まれていった。まんまと自分を花道に重ねて、次の日から先輩の練習を見ながらやるキソ練習も花道の気分で頑張ったし、レイアップを庶民シュートと呼び、ミドルシュートを合宿シュートと呼んだ。フェイクを入れる時には「ほっ!」って言った。当時の日記を見ると、毎日のようにスラムダンクのことが書いてある。

と、こんな感じで出会ったからスラムダンクは漫画だけで楽しみ、アニメは見ていなかった。だから2022年12月に『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されて、大きなスクリーンで初めて動く彼らを見た時、「やっと会えた」という感覚に陥った。漫画のページをめくりながら自分の脳内で動かしていた彼らが、自ら動いて喋り、バスケをしている。それは本当に、本当に不思議な感覚で。懐かしいような、それでいて新鮮なような、言葉にならない幸福感に包まれた。

前置きが長くなってしまったけれど、その「言葉にならない」ほどの感動を「言葉にする」べく、この作品の良いところってなんだろう?って考えたみたのが、この記事。書けば書くほどに溢れてきてだいぶ色々詰め込んでしまったけれど、やっぱりスラムダンクは最高だと再認識した。もっともっとスラムダンクが好きになる映画だった。

誕生日プレゼントでもらったスラムダンクにハマってる当時の日記

かっこよすぎるオープニング映像 「井上監督の揺るぎない拘り」

まず、公開早々話題になっていたオープニング映像。真っ白な画面に、井上氏が一人一人手書きで選手を描いていくアニメーションだ。書き終わった選手から動き出して歩いていく映像は、漫画の世界から選手たちが飛び出してきたようで、誰しもが「ついにきた!」と感動したのではないだろうか。大好きな彼らに魂が吹き込まれる瞬間を収めたオープニングに全身鳥肌がたったのを覚えている。

そんなかっこいい映像にあてたオープニング曲は、井上氏がファンだというThe Birthdayの「LOVE ROCKETS」。湘北高校のちょっとワルい雰囲気にマッチする渋く尖った楽曲で、オープニングの素晴らしさに磨きをかけていた。この曲について井上氏は「イントロで各パートが一つ一つ重なっていくように」とリクエストをしたらしい。その通りに最初はベース、次にドラム、そこにギターが重なって最後にボーカルが乗っていく構成。この楽曲展開が湘北高校のメンバーが一人ずつ増えていく映像に合っていて、それはもうとにかく、かっこよかった。

演出を担当した宮原直樹氏の話によると「オープニングは(井上氏が)最初からこうしたいと、揺るぎがなかった」とのこと。ただ、歩き方が違う5人がそれぞれ歩いてきて綺麗にピタッと止まるというアニメーションは「1〜2ヶ月じゃできない」ほど至難の業だったそうだ。それでも井上氏の揺るぎないこだわりもあり、あの最強オープニングが完成したらしい。

宮城、三井、赤木、流川、桜木の5人が揃って「神奈川県代表 湘北高等学校」という字がどデカく出ると、次に映ったのは階段を上から降りてくる5人。靴、足、お腹と徐々にその姿が見えていき、ユニフォームの胸に書いてある「山王工高」を見た時はまた震え上がった。なぜなら、公開当時は映画の内容が全く明かされていなかったからだ。ここで初めて「山王戦なのか……!」と知った時の衝撃は一生忘れられない。

リアルすぎる『映像』 沢北に抜かれる擬似体験?

そして本編映像へ。最初に言いたい魅力はなんといっても「映像」の凄さだ。

「リアルなバスケの動きを表現する。これは希望ではなく、義務」とインタビューで語った井上氏。今回の映像制作には実際の人の動きをデジタル化する技術、モーションキャプチャを駆使したそうだ。しかし、それでも迫力が足りないと感じ、井上氏が自らの手ですべてに修正を施したとのこと。ボールをキャッチした時の重心の位置やボールと手の関係性、手足の角度など一つ一つを丁寧に修正。その結果、違和感を一瞬も感じることなく、もはや実写と思えるくらいのリアルな映像に仕上がっている。本当にのめりこめる映像だった。

個人的に「特にこのシーンでリアルさを感じた!」というのを……100個くらいある中から頑張って4つに絞って紹介!しようと思う。

◾️ 試合開始〜奇襲までの山王DFの圧
試合開始のジャンプボールに赤木が勝ち、宮城が最初のオフェンスを始めるシーン。ここでは「山王のディフェンスのプレッシャー」が画面越しに伝わってくる映像技術に圧倒された。

ドリブルをする宮城をマークしているのは高校No.1ガード・深津。宮城目線の映像になるたびに画面いっぱいに深津が映る。この一瞬だけで「うわ、近い」と感じて、深津がいかに距離を詰めたディフェンスをしているのかが伝わってくるのだ。

さらに深津の奥にぼやけた花道が一瞬見えるが「絶対にパス出せない」って思ってしまう。「ヘイ!」ってパスを求められても、目の前には鏡写しのように自分と同じ動きをする深津がいるから。そして「仕方ないから1本落ち着いて攻めよう」って思った瞬間には既に横から一ノ倉が出てきていてボールを取られてしまう。思わず「あっ」と声を上げてしまうスピード感。少しの隙も許さないディフェンスに試合開始早々「王者山王」の強さをみせつけられた。

そして、宮城がなんとか一ノ倉からボールを奪い返し、もう一度攻めようと思った時に立ちはだかる河田。自分の視界が河田のデカすぎる影で暗くなるほどの威圧感だ。それに負けじと宮城は低いドリブルで抜いていく。ディフェンスとは基本的に「守り」だが、山王のディフェンスは「攻め」てくるような気迫を感じて、少しの隙でも見せたら終わりだ……なんて考えてる時点でもう、自分がコートの上にいるような臨場感にまんまとやられているというわけだ。

◾️ 深津のポストアップ、フィジカルが強い!
試合開始すぐと、試合時間残り2分を切ったところの二箇所で深津が宮城との身長差をついたポストでのプレーを見せる。

ポストでプレーするためにはいいポジショニングをするための”縄張り争い”が必要不可欠。もちろん接触は避けられない。そんなポストプレーで、深津よりも小柄な宮城は必死に体を張って止めようとするが、深津はびくともしないのだ。相当フィジカルが強いことが伝わってくる。深津は涼しい顔でドリブルをしながら背中で宮城のことを押し退け、いとも簡単にゴールへ向かう。接触の時に起こる体の振動や飛び散る汗、宮城の苦しい表情と深津の涼しい顔などが、リアルにぶつかっている感覚をこちらへ伝えてくれる演出だ。

◾️ 赤木のトラベリング
後半、赤木が河田との1on1でトラベリングを吹かれるシーン。これがとってもリアルだ。「ドリブルより先に軸足が離れた」だけのトラベリング。バスケ経験者なら誰しも一度はやったことがあると思う。絶妙だけど確かにトラベリングだなって頷ける映像。これはかなり細かい描写だと思う。そして河田に躊躇してる心情がプレーにも出てしまっていることがよく伝わる映像だ。

◾️ 沢北のドライブ、もはや疑似体験
序盤、沢北がドライブで流川を抜き、12点目をとるシーン。映像はディフェンスの流川目線で画面いっぱいに沢北の顔が映る。(とってもかっこいい)。そしてどアップの沢北の目が一瞬左に動く。眼球だけがトン、と左に。それに釣られて自分の意識も若干左にいった瞬間、右側を素早くドリブルで抜き去られるのだ。初めてこのシーンを見た時、もはや疑似体験だなと思った。抜かれた瞬間に体がヒュンってなる感覚がした(『ハイキュー!!』鴎台戦で、星海のスパイクを月島が”ブロックアウト避け”した時に、日向と宇内さんが「ヒュン」ってなったみたいな)。平面的な映像でここまで立体的な体感になれるのは本当にすごいなと感動した。

古舘春一/集英社 漫画 「ハイキュー!!」 より引用
古舘春一/集英社 漫画 「ハイキュー!!」 より引用

『音響』 能代工業のOBが参加

この作品のリアルさには『映像』だけでなく『音響』にも工夫が施されている。

映画開始数秒で驚いたのは、最初の公園でのシーン。ソウタとリョータが公園で1on1をしているわけだが、外用ボールが地面を跳ねる乾いた音、シュートしたボールがリングにガンッと当たって落ちる音、それを両手で取った時のパン、と響く音がとってもリアルだ。まぁ実際にその音を使ったというのだから当たり前かもしれないが、体育館とは全く違う外用ボールの跳ねる音が耳に入った時、一番に「この映画の音響はめちゃくちゃこだわってるだろうな」と察した。

そして試合中の応援の声。強豪チームならではのメガホンを通した声の分厚さも、ペットボトルを使った騒々しい音も本当にそのまんま。ちなみにこの応援については「バスケットボール音響監修/声優」として(山王高校のモデルである)能代工業高校のOB、新岡潤が参加し、実際に能代工業でやっていた応援を吹き込んでいるとのこと。そりゃああんな”嫌な”圧になるわけだ。どこまでもリアルを求めた制作に改めて感嘆とする。

会場全てを掌握するような応援。一気に自分たちがアウェイに感じる応援。それらの再現度が素晴らしいのはもちろんのこと、更にそれが宮城視点になった時に少し遠のいて聞こえて、その分心臓の音が聞こえてるという演出もとても臨場感がある。自分がコートに立っている感覚になれる。

バスケという競技視点でみる『名プレー』集

これまでに挙げたリアルな映像と音響効果も相まって『THE FIRST SLAM DUNK』は、ほぼリアルな試合観戦をしているようなものだ。しかもその試合はインターハイ。つまり全国の猛者が集まる試合なので言わずもがな名プレー祭りだ。その度に思わず「ナイッシュー!」とか「ナイスプレー!」とか叫んでしまうほどに。そこで実際、思わず声が出てしまったプレーを厳選して紹介しようと思う。

◾️ 松本&深津&沢北のパス回し
後半開始早々、山王は湘北に”伝家の宝刀”であるゾーンプレスを仕掛ける。湘北はまんまと攻めあぐね、ミスを連発していた。

なかでも宮城が苦し紛れにパスを出したシーン。このパスを松本がカットすると、そのままミドルシュートへ……と思いきや、チェックにきた宮城を交わすようにシュートフェイクに変えて深津にパス。その深津を止めようと必死に飛んだ三井をさらに騙して、深津は背中側から沢北にパス。結局沢北が軽々とノーマークでシュートを決めた。翻弄される湘北と、素早い連携で簡単に点を取ってくる山王のパス回しから力の差をすごく感じる。松本がシュートフェイクした時点で「うわっ」って頭を抱えたのに、深津がさらに背中側から沢北にパスをした時にはもう、顔を覆いたくなった。

◾️ 宮城が赤木にナイスパス
後半、三井がバテながらも3Pシュートを立て続けに決めていた場面。もう歩けないだろう、というくらいバテバテなのに連続で3Pシュートを決める三井の姿はとても不気味だったのだろう。山王も三井への意識が強くなっていた。

そんな中、三井は赤木のスクリーンを使ってまたもやフリーになる。誰もが全員「三井!」と思っただろう。しかし宮城は(きっと)その瞬間を冷静に見ていた。宮城は、三井ではなくゴールの真下にいる赤木に鋭いパスを出したのだ。裏をかくこのパスに思わず「うわっ、ナイスパス!」と叫んだ。その流れで決めた赤木の名物・ゴリラダンクは試合の勢いを持ってくる最高のプレーになったし、このワンプレーだけでなく前後の流れを俯瞰的に見た宮城のパスに拍手喝采!映画で明かされた過去回想で赤木が先輩に「宮城はパスができます」と言っていたのを思い出す。最高に気持ち良いプレーだった。

◾️ 流川にパスの選択肢が生まれると……
後半、沢北との1on1を通じてようやくパスを出すようになった流川。流川がちょっとフェイントを入れて沢北を抜き、シュートにいったかと思いきやコーナーにいる三井にパス。三井のスリーを警戒して、必死にチェックに入った松本をいなすように、三井はボールをキャッチすることなくそのまま即座に赤木にパスをした。そして赤木もキャッチするや否やゴール正面に体を入れて、見事きっちりシュート。見事な素早い連携に何度もリピートしたくなる名プレーだ。やはり流川にパスの選択肢が生まれるとチームプレーの幅が広がるんだと実感した。

一言に3時間。『声優陣の名台詞』

今回の映画において、1990年代に放送されていた当時のアニメと声優が総入れ替えになったことが話題にあがった。やはり多くの人に愛された作品だからこそ、様々な意見が飛び交った。

どちらが良い・悪いという話ではなく、今作品の声優について思ったことは、映像・音響と同様に「とにかくリアルである」ということだ。実際、声優陣のインタビューでも、とにかくやりすぎないことを求められて逆に苦戦したという話があった。それくらい、男子高校生が試合中に交わすリアルなボリューム感が求められたそうだ。そうして完成した声は、まるで自分が試合の中に潜んで盗み聞きをしている感覚にさえなれるようなリアルさがあった。

特に驚いたエピソードは一言に3時間かけたという話。その一言とは「返せ」の3文字だ。これは試合残り数秒の緊迫した場面で、花道が取ったルーズボールを沢北に奪われたところで放つ言葉。試合展開も相まって屈指の名シーンであるが、それでもたった3文字に3時間は凄すぎる。花道の声を担当した木村昴は「声優としてどうしても”かーえーせー!!”とやりたくなってしまう」「だけどそうじゃない。どれだけ、普通の高校生がボールを取る時に(言う)リアルな息遣いでできるかを追求した」とコメントしている。

他にも、バテている三井が息絶え絶えに話すところや、流川が静かに沢北に呟くところなど、どれも実際の試合中にあり得る温度感だ。それでいてアニメーション作品としてのバランスも取れていて、声の演技って本当にすごい。一貫してリアルさを追求したからこそ、あんなに手に汗握る試合になるのだろう。

初めて明かされた宮城リョータの過去

今作最大の特徴は宮城リョータが主人公なことだ。井上氏は映画を制作するにあたって「原作をなぞって同じものを作るのではなく、新しい視点でやりたかった」と語っている。そこで「原作で書き足りていない感覚があった」という宮城が主人公になったそうだ。(PG目線で試合を書きたいという理由もあったらしい)

確かに言われてみれば(本当に言われてみればだけど)原作の宮城に対する深掘りは少なかったかもしれない。主人公の花道はもちろんのこと、同級生の流川も必然的に描かれることが多くなるし、三井も過去や葛藤が細かく描かれているし、赤木はチームのキャプテンとして湘北に賭ける想いが描かれていた。それらと比べると、確かに宮城は描写が少なかったようにも感じる。

そこで初めて明かされた宮城の背景は、もう、あんまりにも繊細だった。触れたらすぐ壊れる脆いガラスのようだ。

沖縄に住んでいた宮城一家。お父さんが亡くなり、喪失感に苛まれる母を支えようと兄のソータは”家族のキャプテン”になった。バスケも上手くて堂々としていて、リョータにとってソータはどれだけ大きな存在だっただろうか。「1on1しよう!」って言ってたのに友達と釣りに行ってしまったソータに「約束してたじゃん、バカ!」って気持ちになっちゃうのもわかるし「もう帰ってくるな!」って言いたくなるのもわかる。

でもそれで兄は本当に帰らぬ人となった。
母はもっと落ち込んで、バスケをするリョータにソータを重ねて。そのこと(重ねていること)もリョータはきっとわかっていて。別に言葉では何も語れていないのに、宮城家を流れる空気がいつも痛々しくて、苦しかった。

特にインターハイ前日・リョータの誕生日の時は、同じリビングにいるのに母とリョータは直接話すことなく、2人の会話を妹のアンナが繋いでいた。しかも母が洗い物を終えてこれからケーキを食べ始めようとする時に、リョータはちょうど食べ終わって席を立つもんだから目も合わせていない。ずっとずっと、心の距離が遠いままだった。

宮城の背景を知ることで泣けるあの名シーン

リョータは、インターハイ前日の夜(自分とソータの誕生日の日に)母に手紙を書く。最初に書いた言葉は「生きているのが俺ですみませ」まで。そこまで書いてくしゃくしゃに丸めて捨てて、書き直した。

翌日、母は机の上に置かれた手紙を見つけた。書き直された最初の言葉は「いつも迷惑かけてごめん」に変わっていた。そして最後の方に書かれたのは「ソーちゃんのいない世界で、バスケだけが生きる支えだった。続けさせてくれてありがとう」という精一杯の言葉。それを読んで顔を膝に埋めた母はこれまでのリョータのことを思い出し、遂に広島の試合会場へ向かう。

母が試合会場に到着した時、試合は残り時間2分を切っていた。ちょうど、山王が再びゾーンプレスを仕掛ける絶望的なシーン。沢北と深津が2人で宮城のことを止めにかかった。あまりにも厳しいディフェンスに宮城がコートから出てしまいそうなくらい追いやられていく姿が、苦しくてたまらない。そんなリョータの姿を見た母は思わず手すりをぎゅっと握りしめ「行け……」と呟く。もう一度大きく息を吸い込み、母が叫ぶかと思ったところでマネージャーの彩子が「行け!リョータ!」と叫んだ。

そうして宮城が「ドリブルこそ、チビの生きる道なんだよ」とあの名言を心の中で唱え、見事なドリブルワークでほんの少しの隙を作る。その瞬間が、沢北と深津の背中側から宮城の鋭い目が二人の隙間に見える、というなんともかっこいい演出で映し出されており、めちゃくちゃかっこいい。

そして二人の隙間を一気にドリブルで突破!そこで主題歌・10-FEETの「第ゼロ感」が爆音で流れる。このコンボにはブワッと涙が溢れた。おそらくこの映画の名シーンはどこ?と街角インタビューをしたら、ほとんどの人がこのシーンを選ぶだろう。

原作においてももちろん名場面ではあるが、やはり宮城リョータの17年と40分を掛け合わせたときこのシーンは本当に一番の名シーンになったと思う。お母さんの気持ち、家族を繋いでくれた妹、心の支えだったソータ。そして生きる支えだったバスケ。そんな17年と、大好きな彩子さんと尊敬する安西先生、なんだかんだ大好きであろう湘北のメンバーと共に戦った40分。それら全て含めて、ゾーンプレスを突破するこのシーンの感動に磨きがかかるのだ。

そして山王戦終了後。神奈川に帰ってきたリョータは家の近くの海辺で母と(おそらくたまたま)会う。そして母と一定の距離を置いて座り、それを見た母が「山王ってどうだった?」と聞く。きっと見に行ったことは言ってないんだろう。それにリョータは「強かった」といい、少しの間を置いて、「怖かった」という言葉を付け足した。やっと、リョータが母に平気なフリをしないで話た瞬間だと思った。そしえ初めて母との心の距離が縮まった気がした。母もきっとそう思ったのだろう。リョータに歩み寄り、正面に立って腕をゆすって「おかえり」と伝えた。この時ようやく2人が目を合わせて話してくれて、山王戦がこんな影響ももたらしていたのかと心が温かくなった。

めいいっぱい、平気なフリをしていたリョータ

原作の宮城に対する印象は「やんちゃ」で「バスケがめっちゃ上手い」選手。尖っている部分もありつつガードとして冷静さも持ち合わせている感じで、割と肝は座ってる印象だった。でも(映画と原作を織り交ぜて考えるなら)それらのイメージは全て「めいいっぱい、平気なフリ」をしていたんだな、と思った。

これは亡くなったソータが言っていた言葉。「俺だっていつもそうよ。心臓バクバク。だから、めいいっぱい平気なフリをする!」と公園で1on1をしている時に言っていた。

きっとリョータはその言葉をすごく大事にしていたんだと思う。中学生で転校した時の挨拶もスカして強がっていたし、それで目をつけられて殴られても、一人で部屋で寝っ転がっていた。きっと家族にも誰にも話さなかったんだろう。

高校生になって、三井軍団に屋上に呼び出された時も「不良漫画かよ、本当にあんだ。こういうの」って余裕そうに言いながら小刻みに震えた手をポケットに入れていた。ケンカが終わったあとも血だらけで寝そべり、雪がひらひらと落ちてくる曇天の空を見ながら「心臓、バクバクだったな」とひとり呟いていた。

ヤンチャで肝が据わっているように見えた宮城も「そう見えていた」だけで、本当はずっと平気なフリをしていただけだった。でもその"フリ"が、自分が持っている以上の力を出す時だってあったはずだし、その姿に頼っている人だっていると思う。実際にマネージャーの彩子でさえ(心臓バクバクだ、という宮城に対して)「え、うそ?知らなかった。いつも余裕に見えてるよ」と言っている。その"平気なフリ"こそが、チームの切込隊長として道を切り開いてきた。

ソータが立つはずだった舞台で、宮城はその言葉を思い出していた。

試合時間残り2分強。花道が机に突っ込みながらルーズボールを追いかけたことで、会場中が湘北応援ムードになったとき。その勢いに乗るように湘北のメンバーは前のめりになっていた。しかし宮城はそこで一旦ボールを片手で抱えてフゥーと深く息を吐き、「落ち着こう」というジェスチャーをして間を作った。そして「よーし、1本!」と仕切り直す。漫画では小さな一コマで「よーし、1本!」と言っているだけだが、映画ではこの後、大きな心臓の音と共に「キツくても、心臓バクバクでも、めいっぱい平気なフリをする」と心の中で呟いている。ソータの言葉がずっとリョータの心の中で生き続け、チームにとって頼れる選手となった。間違いなくあの時、ソータも一緒に山王と戦っていたんだと思う。

"遠い星の少年は、その腕に約束の飾り"

初めてみる『THE FIRST』SLAM DUNK

タイトルにつけられた『THE FIRST』という意味は、色々な意味が含まれているそうだ。私はてっきり、宮城リョータのポジションが1番(PG)だからかな?と思っていた。色々な意味が含まれている、というからそれもひとつあるかもしれない。けれど、ひとつ、「初めて見るようなスラムダンク」になってほしいという想いがあったことが語られている。

たまに、「あー、今の記憶全部ゼロにしてもう一回読み直したい、見直したい」と思うことがある。それが叶ったみたいな感覚だった。もちろん原作の内容は全て頭に残っているけれど、それでもあの映像、音響、声、動き、新たなリョータの17年を上乗せした40分を通してみたあのスラムダンクは、全部初めてみるスラムダンクだった。

完結というものがどうしても付き物な漫画の世界で、同じ作品でまた新たなスラムダンクの世界を見れたことの喜びよ。そして映画で初めて明かされた宮城リョータのその後。まさかの展開に最後の最後までサプライズ満載だった。

井上先生、本当にありがとう。

スラムダンクは、いつまでも私の心を熱くしてくれる作品だ。


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