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境井仁の『ツシマ』誉高き配信 抄訳

米LA在住の俳優ダイスケ・ツジ氏が渡英とコミコン初参加を控え、多忙を極めていた2020年11月23日(日本標準時)。対馬の冥人・境井仁氏が13世紀の日本国(ひのもとのくに)から馳せ参じ、代打として初のゲームプレイ配信に臨む運びとあいなった。時折中身がはみ出ているような気がするやもしれませんが、中の人などいない前提で以下に配信のハイライトを訳して参ります。配信アーカイブはこちら。
(ゲーム本編の時代設定は建前上鎌倉時代ですが、実際には戦国〜江戸時代の文化・風俗が基準になっていたりするサムライ・ファンタジー的ゲームなため、度量衡や時制など江戸期を参考にしている場合があります)


◆口上の段: 勇み足の冥人

(配信開始前のWelcome画面が切り替わらないうちから、朗々と名乗りをあげる声がする)

俺は境井仁と申す。これなるはわが初の「はいしん」である! ……して、いかがすれば良いのだ。ボタンか何か押す手筈なのか? 何を──ほう、おそらくこれだな? しばし待たれい。

(冥人の面頬姿の境井仁登場)

これで始まったのか? 民草の姿が見えるぞ、大したものだな。俺は境井仁。これより「はいしん」とやらをお送りする。この頃の童どもがそのように呼ぶものらしいな。よき日和だ。

此度はダイスケ・ツジの「ちゃんねる」にまかり越した。彼奴めは目下忙しいとか。何でも──何事だ!? (サブスクライブの通知エフェクトに目を留めて) 竜三! もはや俺の友ではない。今度は狐ちゃんではないか! うむ、後を追わねばなるまい。なぜこの狐は立ち止まっておるのだ? その場で足踏みしておるぞ。(チアーの狐ちゃんエフェクトが画面から消え、盛んにあたりを見回す) 撫でさせてもくれぬとは。おおまた現れたぞ! 狐よ、俺を神社まで導いてくれ。狐というものは俺の傍から離れぬなぁ。聞いた話では──(再び現れる竜三のサブスク通知)黙れ竜三! 聞いた話では、俺の物語が巷で大評判、大人気の「びでおげーむ」となったらしい。いかほど事実に即した出来か、ひとつ遊んでやろうと思っておったのだ。(レイド通知のおさるパペットが表示される。背後にはゲームのジャケットと同様のポスターが) 面妖な、何だと言うのだこの猿は! しかし俺の絵姿はなかなかの出来だぞ。

ともあれ、「びでおげーむ」で俺を演じている役者が目下忙殺されておってな。本日は参上が叶わぬと、俺に名代を頼んで参ったのだ。この帳面を残して行ったのだが、ここに記してあることを言付けねばならぬと申しつかったゆえ言うぞ。彼奴は二十日ほど町を留守にするそうだ。ゆえにこれより七日の間「はいしん」は休止すると。どうやら別の役者仕事を片付けねばならぬらしいが、知ったことか! 連日連夜の蒙古討伐に比べれば取るにも足りぬ! ……話を戻すと、留守にするゆえ「はいしん」はせぬが、皆に伝えておいて欲しいことがあるようだ。霜月の二十四日に「ごーるでん・じょいすてぃっく・あわーず」(日本時間11月25日午前6時)、同二十八日には「えむしーえぬ 紐育こみこん」が控えておる。こちらは次の土曜だな。「めたばーす」なる呼び名らしいが、万事が万事、何のことやらとんと見当がつかぬ。彼奴が言うには「こみっく・こんべんしょん」なるものらしいぞ。銭を出せば一対一での語らいができる「みーとあんどぐりーと」や、個人的な「びでお」をこしらえさせたり、花押をしたためさせることも叶うとか。彼奴の値も安いな。「とろい・べーかー」の百三十五どるに比べて、たった六十どるだそうだ。いたく安い役者であるらしい。何、手頃だと言っておるまでのことよ。(フォロー通知のサムズアップ仁が表示される) おお、俺ではないか。否、あれは彼奴か? 見分けがつかぬぞ。さて、あとは「げーむあわーず」とやらもあるらしい。何でも賞に「のみねーと」された由。すべては俺のおかげだな。俺の物語なのだから、俺が俺を演じてもよさそうなものだが──まあよい。こちらは師走の十日、昼の九つ半(日本時間12月11日午前9時)に執り行われるそうだ。あれこれ「のみねーと」されておるからには、この「げーむ」の人気も大したものなのだろうな。まだ「とうひょう」ができるそうだから皆の者もやってみるがよい。

さて、あらゆるものが初見だらけだな。日ごろは1274年、封建時代の日本におるゆえ、(画面を指差して)これらが何やら皆目わからぬし、「ぷれいすてーしょん」なるものも知らぬ。だが人斬りの心得ならばあるぞ。俺のただひとつの取り柄ゆえな。まあ何とかなるであろう。不得手なのはな、このからくりに音声を乗せる術を解き明かすことだ。諸々しっちゃかめっちゃかになった折には、「げーむ」を『龍が如く 零』に切り替えざるを得ぬようになるやもしれぬが、そちらもまた良い「げーむ」だと聞いておる。だが万事首尾よく進むよう、何とか切り抜けたいものだ。


◆贔屓もてなしの段: 三分を長く感じる冥人

それにしてもこの面頬、いたく重いな。少々軽くなるよう、たかに耳の周りにかけるものを拵えてもらいたいものだ。面頬を取り替える前に言うが、この「げーむ」が世に出てからというもの、あまたの民草が俺に様々な言葉を言うよう請うてくるようになってな。何ゆえかは知らぬ。「げーむ」の中で俺にあたる登場人物が言っておる台詞なのだろう。して、常日頃の俺は、余人に操られることをよしとせぬ。伯父の志村殿とて俺に指図はせぬのだぞ。しかしながら、此度は「はいしん」であるし。「いんたらくてぃぶ」な代物である上は、これより三分間のみ、俺が申すべき言葉を指示することを赦そう。……まったくこの面頬ときたら始末におえぬ、しばし待たれよ……よし。

ではこれより刻限を計り始めるぞ。さあ、俺が申し述べるべき言葉を言うがよい。ほう、愛らしいではないか。(チャット欄のエモートを眺めて。以下、英語と日本語でランダムに、リクエストも普通のコメントもまとめて読み上げる) 「あげあげはいぷ」? 「カッコいい」 、「誉は浜で死にました」 、「仁ゆなフォーエバー」、「ゲームの中の仁ほど落ち着いた声じゃないんだぁ」あ? (うっかり素で笑ってしまい、気を取り直して気色ばむ) ああ!! 落ち着いてなどおらぬわぁッ!! 「はいしん」というものはなぁ、やたら気疲れするのだぞッ!! 「私に誉はありません」、 「対馬のために」、「アーカイブ楽しみに学校行ってきま〜す」、「またつまらぬものをきってさまった」……「しまった」ですね(笑)。「ゆな、俺と夫婦(めおと)になってくれぬか」 、「竜三との友情は終わった。今は典雄がわが刎頚の友だ」、「我こそは対馬の冥人」……我が人生最長の三分だな。「ゴースト・オブ・ツシマが今年のGOTYだ、以上」、「ファッキュー志村殿」、「彼女を殴ってなんかいなあああい。あ、やあマーク」(筆者注:カルト映画『ザ・ルーム』の有名な台詞。以前、配信後おまけコーナーで唐突に場面再現が始まったことがある)、「地の利を得たぞ!」(『スターウォーズ』シリーズ中のオビ=ワンによる迷言として知られる一言)……よし、三分たったな? 以上だ! いや、もうひとつ行くか。「そちらカニカーニですか?」(『スポンジ・ボブ』に登場するハンバーガーレストランで、ボブの勤め先。件の台詞は後に続く「ちがうよ! パトリックだよ!」とともにミームになっている)。以上で終わりだ。おお、下を見てみるとまだ山のようにあるではないか。南無三。

たしかに俺の声は、この面頬をつけているといささか峻烈な調子になるな。よってつけかえよう。こちらを見るでない! 煙玉バーン!
(が、つけかえた布マスクに合わせてマイクの設定を変えると音がこもってしまったため、結局素顔で進めることに) これが俺の面だ! 俺は境井仁! 隠すものなどない!


◆奇譚の段: 喜怒哀楽の冥人

(『Legends』のロビー画面を開いて)

いざ参らん!! 「ごーすと・おぶ・つしま」初ぷれい!! 名作だと聞いておるぞ。あー……どの役目で遊ぶべきか。狩人とはより多くの敵を殺さねばならぬものらしいな。あれはゆななのか? 巴なのか? ようわからぬ。どれで遊ぶべきか、心が定まらぬなぁ。ここは刺客で──否、侍で参ろう。(ゲーム本編の)幕開けは侍として始めたわけだしな。よかろう。さて、どのような仕組みになっておるのだ? (参加クエスト選択画面に推移) 「かんぜんじょうほうかいじ」すると、少々腕を磨こうかと思うてな。やり遂げられるものと踏んで、百鬼奇譚に出かけてみたのだ。週替わりの新たな百鬼が来ておったようなのだが並大抵の難しさではなくてな、牢人としての外は勝つことができなんだ。ゆえにここは手心を加えて、黄金で参ることにいたそう。……こう、何やらおかしな塩梅になったとしてもだな、俺の所為ではないぞ。

ああ、それとだ。誰もが遊べるとの由、この「はいしん」を見ておる者で「ぷれい」したい者がおれば、今なら合流が叶うやもしれぬぞ。首尾よう相見えたら、ともに語らいながら戦いを切り抜けようではないか。

(即興奇譚黄金、「勝負の行方」開始。マッチメイクの相手はもちろんランダムに選ばれたプレイヤーである。残念ながら相手の音声は配信には乗らなかったのだが、以下、状況をかいつまんで抜粋)む。これが俺の「ぷれいやー」としての名か? 珍妙な名だ。どのように動かすのだ? 「勝負の行方」か。勝負なら心得たものだぞ!

(敵を闇討ちしながら)俺は侍ながら、恥を知らぬ。刺客の戦術を用いても、為すべきを為すまでよ。

(「血吸いの剣」発動時のセリフ「太刀のサビになるが良い!」を聞いて) む? 伯父上の声のように聞こえるが。

(死んで救援を待つ状態になって、相方プレイヤーに) こちらは後で良い。我が身をいとうのだ、死ぬでないぞ。(ダメージを受ける様を見て)なんと! 俺がついておるぞ!

(今度は相方が死亡) む! 友が助けを求めておる。いま参るぞ。……よし、では奴輩(やつばら)めを蹴散らしてくれよう!

(軍船の甲板上に死霊兵がうようよしている場面で) こやつら、いかさまを働いておるも同然ではないか? 姿が見えぬ。おのれらは冥人(ゴースト)ではない。いや、幽霊(ゴースト)ではあるのだろうが。俺こそが冥人(ゴースト)よ!

(鉤縄を使いながら) 礼を言うぞ、たかよ。そなた〜を忘れまい〜、そなた〜も俺を忘れずいてくれるか〜♪(曲はサラ・マクラクラン「I Will Rember You」、死者を追悼する場面でよく使われる)

(クリア後の結果表示画面で) 感謝するぞ、友よ。そなたは心強い味方であった。達者でな。むう! ろくな武具がないではないか! そなたが良き武具を手に入れておることを願っておるぞ。さらばだ!

(次の奇譚は「蘇る死人」、弓取でプレイ) またもや死霊か。俺に言わせればまがいものの死霊(ゴースト)だがな!

(辛抱強く行善の巻物を探す冥人) どうなっておるのだ行善は、巻物を残らず失くしてしまうとは。とっとと寄越すがいい。

(話しかけているうちに、先方のプレイヤーがボイチャをオンにしたようだ。視聴者には彼の音声が聞こえないのだが、色々と気遣いをしてくれている様子で、境井仁の表情も和んでいる) ……む? いやいや、それはそなたではなく俺の責だ。退屈な「はいしん」になっていたとしたら、その科はひとえに俺にある。それにな、退屈などではないぞ。実に楽しい時間を過ごさせてもらっている。……そう己に厳しくせずとも(笑)。

(そして、話しているうちに先方はあることに気づいたようだ) 誰だと? 俺がそうだと言うのか? そうだ、俺が境井仁だ。……ああ、そうだな。おっと。よいのだ。蒙古どもが来おった。奴輩めが加勢に参るとは皮肉なものよ。何、構いはせぬ。余分に手柄を挙げられるというもの。(相手が正体をさとったとわかった瞬間、満面の笑みになる冥人だった)

(共闘しながら世間話中) 実のところ、俺はよう牢人で遊んでおるのだ。そなたの贔屓は弓取りか? ……ほう、刺客か。善き哉。……ああ、竜三との因縁があったゆえ、かほどまで牢人贔屓でなければ良かったものをと思うほどでな。だが犬を呼べるであろう? そうなのだ。犬を撫でてやれるという、その一儀において好んでおる。

(闇討ち威力アップ狙いで、「矢形の霧」の装備ガチャを回そうとする冥人。ただし誉はガチャ一回分しかない) 武運を祈ってくれ。へぁっ! ファッキュー!(見事ハズレだしファッキューとか言ってしまっている。粛々と技能だけを好みの内容に変え、ガチャ終了) 時として、事の成り行きとはかようなものよな。「びでおげーむ」に人生訓を指南されるもまた一興。すなわち「一か八かの博打に出れば、負ける」。

(難易度を百鬼に上げての挑戦に見事成功し、ロビーでまったり) ではこのあたりで軽く一息入れるとしよう。その後は九死でもやるか。とはいえ百鬼九死ではないぞ。あのようなものは馬鹿げておる。(フレンドのオンライン状況を確認した後) よし。皆の者も楽しみ、かつ「げーむ」で遊んでくれるよう望むぞ。あるいは俺と相見えることもあろう。さてサクっと一休みさせてもらうぞ、小便せねばならぬでな。境井仁とて時には小便へ参るのだ。ではさらば、じき戻る。


◆小休止の段: 親フラの冥人

(休憩中画面から通常の配信画面に戻ると、自分が素顔のままだったことに気づき) おっと、面頬はいずこか。これはしたり! そなたら、見なかったことにせい。俺は冥人ゆえな。さて「はいしん」とはこんなものか? 蒙古討伐に比べれば物の数にも入らぬではないか。

ところで「れいしずむ」というのは何の謂なのだ? 俺の蒙古どもへの振る舞いが「れいしすと」だと言われたのだが、1274年の日本(ひのもと)の人間ゆえ意味合いがようわからぬ。俺はただ、蒙古は死に値する犬どもだと申したにすぎぬぞ。それが「れいしすと」と? 合点がゆかぬなぁ。まあよい、皆の者はどうか?(チャット欄を読み上げ)「あまり誉高い仰りようではないかと」? ではどうだ、「蒙古」を「侵略者」、あるいは「入植者」に変えるというのは。「あらゆる侵略者は犬どもで死に値する」では? 「 ゲーム中の蒙古はロボットです」? さようか。では「あらゆるロボットは犬どもで死に値する」でどうだ、これでもまだ「れいしすと」か? ……ただ「れいしずむ」は良くないことと聞いておる。皆の者は「れいしすと」にはなってくれるなよ。俺にしても同様だがな。あらゆる蒙古を一絡げに犬どもと断じるべきではなかったやもしれぬ。

さて。『ごーすと・おぶ・つしま』(本編)も遊んでみたのだが、言うなれば「大まかに実際の出来事に基づいた」物語だなあれは。事実通りではなかったぞ。何しろあのような幕切れはな──あの終わらせ方はいかがなものか。我らの身に起こったこととはかけ離れておるぞ? まあまこと天晴れな出来ではあったがな。実際の出来事を脚色したに過ぎん。(深いため息。チャット欄を見て、) 何が「ノー」だ。「イエス」であろうが! さらに言えば、もっとこうアレぞ。銭の見返りなんぞがあってしかるべきではないか、俺の物語なのだからして。俺を演じた役者は、俺の懐に入ってよい分の銭までせしめたのだろう? 如何なものであろうな。

(ふとあらぬ方にこうべを巡らし、何かを気にしている模様) すまぬが今──あちらに伯父上がおわしてな。伯父上は「びでおげーむ」に理解がおありではないゆえ、俺に……今「びでおげーむ」で遊ぶことを頭ごなしに咎め立てされておる。……私はやめませぬぞ、伯父上! したいようにさせていただく! 私の人生です。(画面に向き直って) 面目ない。邪魔立てが入らねば良いのだが。


◆百鬼九死の段: 誉はガチャで死にました

先程は確かに馬鹿げているから百鬼はやらぬと申したが──馬鹿げて難しいと思わぬか!? 今ここにいる者でやり遂げた者は? (チャット欄に「2、3回ならあります」という視聴者が) おお、そなたはやり遂げたか。

……これ、そこなearlofsummitchとやら。(チャット欄にいた典雄役アール・キムが、不意に呼びかけられて「はい、境井様」と応じる) その名には見覚えがあるぞ。そなたも役者であろう。いま「ぴーえすふぉー」の近くにおるか? (返事は「いいえ」。フレンドのオンライン状況一覧を開いて) なにゆえ知己がひとりも「おん」ではないのだ。そなたはダイスケの友なのか? この中におるのか。俺と「ぷれい」すべきではないか。(「杉寺での務めを果たしておるところでして」とアール。他のフレンドも軒並みオフラインになっている) 俺の知己ならばいまプレイするのだ。誰もおらんのか(笑)。まあ俺ではなく、ダイスケの知己だな。ダイスケの知己だが今『れじぇんず』は遊んでおらぬと。よかろう! では独りで征くさ、常のごとくにな! 対馬の地での俺に加勢など不要! earlofsummitchが申し訳なさげにしておる。良いのだ。行くぞ!

(役目は牢人、野良で百鬼九死開始。マッチメイク成立後に共闘相手たちに挨拶しつつ) 「かんぜんじょうほうかいじ」しておくと、ただ今「はいしん」をさせてもらっておる。また、百鬼九死はいまだ制覇したためしがない。だが先入観を持たんでもらいたい! 一所懸命に力を尽くしてはおるのだ。

(最初に拠点を制圧しながら) ちなみに俺のイッヌには癒しの力を持たせてある。……これイッヌよ、そちらへ参るな。我らの傍らにおれ。(ヒーリングイッヌは牢人の護符に「鎮魂」技能付加で使用可能となるが、自己判断で動き回るので、時折明後日の方向へ行く)

(画面上部の表示をチラ見しつつ) 百鬼でのボーナス目標なぞ誰がやるのだろうな……。

(最初の敵将ウェーブをクリア) やったな! このチームを信じておるぞ。なぁに、あとたった……20ウェーブしのぎきれば良いのだ。確かそうだな? あと20ウェーブ。何奴が拵えたのだこの「げーむ」は。

(ウェーブ終わりにヒーリングイッヌを召喚して) おのおの方、イッヌを撫でるが良いぞ。

(11ウェーブ目、あえなく失敗) 不覚! ええい、なにゆえこうも手強い!? ……おのおの方と轡を並べての武者働き、この身の誉でござった。が、百鬼九死はやはり馬鹿げておるな。すさまじく馬鹿げておる……11までこぎ着けたは大手柄ぞ。礼を言おう、達者でな。(ロビーに戻った後) なにゆえこうまで難しいのだ。うぬぬ……歯応えがあって然るべきなのではあろうが、歯応えがあり過ぎるわぁッ!

(「こういう配信って日常茶飯事になりそうな感じなんですか?」という質問がチャット欄から) 否だ。日常茶飯事にはならぬ。俺は境井仁ぞ、「はいしん」に割く暇はない。「はいしん」は役者にやらせておけ。俺には倒すべきロボットどもがおるでな。

(気を取り直し、再度武具改良ガチャに挑戦) 「飛び道具による気力回復量」が欲しゅうてな、武具の改良を回し続けておるのだが一向に出て来んのだ。この手の「げーむ」の手口はわかっておる、博打につぎ込むよう仕向けておるのだろう。それでいて絶対に──否、絶対などと申してはいかんな。とにかく誉不足なのだ。今も200しかない。武具改良に溶かしてしもうて、誉がほぼ余っとらん。誉がない。ないのだ。(粛々と武具を破棄して、問題の「遠距離の護符」の特殊効果を狙い) ……よし。ではもう一度回してみようではないか。出てもらいたいのは「飛道具の威力」、「飛道具による気力回復」。なにとぞ! あるいは「引き絞り速さ」な。参る。フン!(だがハズレ) ファッキュー! 「矢を構える速さ」と「引き絞り速さ」でどうせよと? 威力と気力にかすってもおらぬではないかッ! (チャット欄を見て) 「武具回しのハイクでも詠めば、うまくいくかも」? よかろう。……「欲しき物……寄越せ阿呆ロボ……一か八」。気力回復をくれ。名句ができたぞ。口出し無用、名句といったら名句なのだ。(筆者補足: この後もう一度ハイクを詠んで武具ガチャを回したら、本当に「気力回復」が出ていた)


◆小休止の段2: 親フラの果てに

(休憩中画面の向こうで、声だけがする) ……いいえ伯父上、いまだ「ぷれい」いたしておりまする。そろそろ三時間が経たんとしておるは承知の上。小便に参っただけです。(そして、トイレ帰りと思われる休憩あけ近くになって再び) いま少し「ぷれい」します、伯父上。……宜しいではありませぬか、束の間のことですぞ。もう幾分か「ぷれい」させていただく。貴方は伯父上ではあっても、わが父上ではござりますまい! いちいち指図は無用! ……わかり申した、いま少し遊んだのち、終いにいたしますので。

(休憩あけ、何ごともなかったように) よくぞ戻った。境井仁だ。俺を演じたダイスケ・ツジは多忙ゆえ、俺がまかり越しておる。俺は「げーむ」名人ぞ、実生活で殺生の心得があるゆえな。(ゲームの人殺しは)本物の殺生とは雲泥の差があるが。

ときにだ。今の世で人を殺めるのは御法度なのか? 亜米利加で左様な仕儀となっておるのか、それとも日本でも同様なのか。邦の諸法度を知っておきたいのだ。(「ってかどこでもそうじゃないですかね、たぶん」とチャット欄から返事)……左様か。では面と向かってはどうなのだ。侍の流儀で正々堂々となら殺めて構わぬか? (視聴者「お気の毒ですが2020年では、殺人はどこでも違法となっております」) 「どこでも違法」とな、侍ならばいかがするのだ? あるいは果たし合いならばどうだ。試合場はあるのか。行司役がおるような試合場ならば、あるいは話は別では? ……例外はないと申すか。 ほう、「じこぼうえい」とな? ……相手方が襲いかかってくれば、殺めてしまって構わぬのか。


何、職につかねばならんゆえ訊いてみたまで。俺に心得があると言うたら、せいぜい人斬りぐらいのものゆえな……。人斬りがまかりならぬなら、いかがいたせば良いのだろう……。いっそ折り紙か? そのようななりわいに世人は銭を払うものなのか? 笛ならば少々吹けるぞ。笛ではないな、何という呼び名だったか……後はな、乗馬の心得もある。馬に乗ることで銭は出るのか? (競馬のジョッキー、ミュージシャン、俳人、ヒットマンなど、視聴者からのさまざまな就職口候補が上がってくるのを見て) ……ありがたいことだ。礼を言うぞ。そなたら、よう俺の意を汲んでくれるのだなぁ。まことに助かっておるぞ、士気も上がるというものだ。「ぱーそなる・とれいなー」も良いではないか、そそられるぞ。殺生のコツならば伝授できよう。しかし近頃の世人は殺生をする折、何と言ったか……「銃」なるものを使うと聞いておるぞ。左様、近頃は「銃」を使うと。何やらイカサマめいておらぬか? 俺にはイカサマも同様に思えるぞ。やはり殺しは太刀か小刀であろう。……いかにもしかり、「銃」には誉がない。てつはうならば別だが。閃光玉などな。左様、俺には「銃」のあしらいはわからぬやも──否、やはりいざとなれば疑いなく扱いを会得するであろうな。入り用とあらばどのようなことでも果たす、それが俺の身上だ。

しからば「ぷれい」を続けますぞ、伯父上! いま一度「みっしょん」を果たしたらそれで終いだ。そなたらに観せるのもそこまでだぞ。いざ舞い戻らん。


◆終幕の段: 配信のラスボスも

(フレンドがいれば大禍をやるのもやぶさかではないが時間が足りないとして、最後の1回に無事クリアしたのは黄金九死。なのだが、集中してほぼ無言になっていたので最後部分のみ訳す) よし。これにて終いだ! まことのいくさとは大違いぞ! 歓談と参ろう。そなたらはどうか知らぬが、俺は愉快なひとときを過ごさせてもろうた。

視聴に礼を言おう。初の試みであったし、俺はいささか──む、どうなっておるのだ。今動かしたは俺か?(画面の位置やサウンドを調整しつつ) またか。いや、なるほど心得たぞ。……此度が境井仁、初の配信であった。もっともなことながら、こういったボタンなぞわからぬことだらけであったな。何なのだこれは。何がどう──まあ良い。『ごーすと・おぶ・つしま』で俺を演じておる役者ダイスケ・ツジだが、この度……(手元のノートを覗きこみながら)「こみっく・こんべんしょん」とやらに顔を出しよるらしい。霜月二十八日の土曜、「おんらいん・こんべんしょん」なるものだとか。彼奴にまみえたくばまみえるが良いぞ。左様な趣味があるのならだがな。何となれば、正真正銘の境井仁は俺だ。彼奴めはむしろ俺のなりすましであろう。なりすましに相まみえんと言うならそうするが良い。己の銭は好きに使え。えー。後は彼奴の花押なぞも求められるらしいがよう分からぬし、知ったことではない。俺が境井仁ぞ。……何やら俺は名乗りを上げてばかりおるな。あたかも本物と信じてもらえぬがゆえ、言い張っておるような気さえするぞ(笑)

これにて境井仁の「はいしん」は終いだ。どうやらしのぎきったな、(ゲーム内で)ようくたばりはしたが。まあ俺の科ではない。否。俺の責だ、ただ未熟であったまで。研鑽を重ね、腕を上げてみせよう。よし。境井仁、通信終了。さらば。達者でな。……「『だんでぃー』な……週末を」……? 彼奴めに左様申せと言付かっておったのだが、愚にもつかぬ。俺は「だんでぃー」なぞではない。ではな。境井仁、通信終了。

(配信のエンディング画面の向こうで、また声だけがする) 切り上げましたぞ、伯父上。相済みました。……貴方のアパートで暮らしておるからといって言いなりにはなりませぬ。……「げーむ」に誉などないとは何たる仰りようか。誉ならばあり申す! 私の気は110。とりもなおさず、あまたの誉を得ておるようなもの。……宜しいですか、私は懸命に精進して参ったのです。弓取のランクは36、ここまでいかほどの時がかかったことか。伯父上にはお分かりにならぬのだ! 冥人の道などお分かりになっておらぬ。ジーザス。ジーザスというのはアレです。何かです。ファッキュー伯父上。(独り言を呟くように)……殺しておくべきであった。殺しておけば……。何ゆえだ……何ゆえあの時生かしたいなどと思うたのか……とんだ仕損じであった……。


◆おまけの段: ホームはcameo?

(個人的に見聞きした範囲での偏見なのだが、「正真正銘の境井仁」のホームはむしろcameoで、今回の配信はゲームのガチファン向けTwitch出張版といった趣を感じる。2020年11月末現在、ダイスケ・ツジのcameoページで依頼者の了承のもと公開されている動画をひとつ紹介してみる)

レイレイよ、こちらは境井仁だ。本日、俺は悲しみにくれておる……。何ゆえか知りたいか? そなたがまだ『Ghost of Tsushima』をクリアしておらぬからだッ! いや怒ってはおらん。悲しいのだ。そなたの友、サルタンはクリアしておるぞ。しかも100%、つまりはトロコンを達成済ということだ! だというのにレイレイ、そなたは……。いかがしたと申すのだ? 元は『Ghost of Tsushima』にアゲアゲだったというではないか! 何かあったのか!? いまだ堪能しておる最中なのか、あるいは気に入りすぎて終わらせたくなくなってしまったのか、そこらへんはわからぬが! 天に誓って申しておくと、あれはまことの名作ゲームぞ! 物語も素晴らしい! ネタバレ禁止で言えば何やかんや起こりよる! 俺も喜怒哀楽あるひとりの人間だが、こんなとてつもない感動に見舞われたためしはなかったぞ……! かほどまでの、かつてない悲しみはッ……! にもかかわらず、そなたがいまだゲームをクリアしておらぬという一儀は、レイレイ……おお、レイレイよ……(痛恨のおももちで悲しみに耐えつつ) なんか別のものに気を取られてしもうたか? ネトフリで一気見でもしておるのだろうか? 何が問題なのだ、一体何がぁあ(涙声)。戻ってこいレイレイ、俺のもとへ戻って参るのだ。そして『Ghost of Tsushima』を終わらせるのだ! 俺の物語をしまいまでやり遂げてくれ! そして達成度100%までやりこみ、トロコンを成し遂げよ! 俺のためではなく、そなた自身のために。信じておるぞ。そなたならばできる。ではな。煙玉バーン、さらばだ〜。

(素に切り替わって) やあレイレイ、調子はどう? 僕はダイスケ・ツジ、『Ghost of Tsushima』で境井仁を演じている俳優です。境井仁からのメッセージを楽しんでくれたら嬉しいです。仁は一言一句、本気で言っておりますんでね(笑)。メッセージのリクエストはお友達のサルタンから貰いました。彼の心配ももっともで、君は気が散りやすいタイプという話ですね。他の映画とか、テレビ番組とか──他のゲームとかもかな。(不意に真顔で)別のゲームに行っちゃってるんですか? ……僕ヤキモチ焼くタイプじゃないんですけど、なんかこう、ちょっと傷つきますよね。『Ghost of Tsushima』をプレイしていながら、別のゲームをやり始めちゃったんだとしたら。ま、いいっちゃいいんですよ。僕も気にしませんし。レイレイ、君は何でもやりたいゲームをやればいいし、見たい映画を見るべきですから。……でもですよぉ? 言うだけ言っとくとね、ぼかあ君の『Ghost of Tsushima』クリアを応援してます。だってむっちゃいいゲームですもん。いいゲームだし、ストーリーもいいし(笑)。僕も出てますしね、ってそこが君にとって見所になるかどうかはわからないですけど。それはともかく、僕も実はこれから自分でプレイしようとしてるところなんです。冗談じゃなく。僕はいまPWOゲーマーになってまして、Twitchで配信もしているので、日本の視聴者向けにクロサワモード、日本語音声でプレイしてみようと思って。すごく楽しめるゲームだから、オススメしますよ。自分が出てるからじゃなく、Sucker Punchが本当にいい仕事をしてくれてますから。(後略)