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恋愛は「国民の総意」の制外的領域

憲法第1条の「誤解」

秋篠宮家の眞子内親王と小室圭が年内(2021年)に結婚すると言われています。結婚内定会見から実に4年後の成婚、という事です。これに関して「結婚反対」「国民の総意ではない」といった意見が散見されますが、見当外れであると言わざるを得ません。憲法第24条において、婚姻(ここでは「男女」の結婚を指す)は「両性の合意のみ」に基づいて成立する旨が規定されています。これは皇族かどうかに関係ありません。つまり婚姻に関して全くの赤の他人による干渉は認められません。これは市民だろうが皇族だろうが差異はありません(尤も皇族の婚姻について制約がないわけではありません。後述)。
「国民の総意ではない」という意見は憲法第1条を根拠にしたものと考えられますが、以下、条文を見てみます。

第1条:天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

「日本国民の総意に基く」の主語は「この(→天皇の)地位」です。つまり天皇以外の皇族については憲法を見る限り「日本国民の総意」は及ばないという事になります。当然、今回の婚姻についても「日本国民の総意」は及ばないわけです。「天皇∈皇族」であるにもかかわらず「天皇=皇族」と認識している者が少なくないようです。そもそも日本国憲法において「天皇以外の皇族」についてはほとんど規定がありません(第8条の「皇室財産」くらい)。詳細は「皇室典範」に規定されているので、以下で検討します。

皇室典範における婚姻の「桎梏」

皇室典範とは、天皇及び皇族の地位や制約について規定したものです。大日本帝国憲法時代の「『旧』皇室典範」は憲法と同格の「家憲」でしたが、「『現』皇室典範」は法律であり、民法や刑法等と同様、通常の法改正手続によって改正可能です。ここで、皇族の婚姻についての代表的な規定を見てみます。

第10条:立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第12条:皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。

まず、婚姻に条件が課されているのは皇族男子のみです。それも「国民の総意」ではなく「皇室会議」を経る事が唯一の条件であり、したがって、眞子内親王の婚姻については本人の意思で決める事であり、いち市民に皇族の婚姻について取り決める権利はありません。
そして第12条の規定により、眞子内親王は皇族でない小室圭と婚姻した事で皇族の身分を離れる事になります。小室圭が皇族入りするわけではありません。
皇室典範に規定がない場合、民法の規定が参照されます(民法を婚姻についての「一般法」とした場合、皇室典範は「特別法」となります)。

「他者の婚姻」に異を唱えられるか

結論を先に言えば、異を唱える事はできません。民法の規定を見てみます。

第742条:婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
第1項:人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
第2項:当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。
第743条:婚姻は、次条から第747条までの規定によらなければ、取り消すことができない。
第744条
第1項:第731条から第736条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。
第2項:第732条又は第733条の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消しを請求することができる。

民法における「無効」と「取消」について検討します。

無効:誰からでも、いつまでも主張できる。初めからなかったものとされる。
取消:取消権者(意思表示をした者及び代理人、承継人)のみ、一定期間に限り主張できる。将来に向かって効力を失う。

尤も、ここでの「無効」と「取消」は「財産法上」における概念であり、家族法に全てそのまま適用されるというわけではありません。たとえば「無効」について、婚姻においては「利害関係者」であれば主張できるとされています(逆に言えば「利害関係者以外の赤の他人」は主張できないという事になります)。よって、眞子内親王と小室圭の婚姻について赤の他人が無効を主張する事はできません。そもそも当事者に婚姻意思がある時点でできるわけがありませんが。
そして、婚姻の取消ですが、第743条により法定されています(不適齢、再婚禁止期間内の婚姻、瑕疵ある意思表示)。そして取消権者は無効の場合より更に限定されています(当事者、親族、検察官、前婚の配偶者)。当然、赤の他人が婚姻の取消を主張する事はできません。これは皇族であろうとなかろうと関係ありません。

参考文献

⭐️渡辺康行/宍戸常寿/松本和彦/工藤達朗『憲法1』『憲法2』(日本評論社)
⭐️山田卓生ほか『Sシリーズ 民法1~5』(有斐閣)
⭐️大村敦志『家族法』(有斐閣)

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