見出し画像

ミ●キーはママの味?菅政権は毒の味?『パンケーキを毒見する』を観て

【⚠️注意⚠️】当該記事には映画の「ネタバレ」が含まれるので、これから観ようと考えている方はご注意ください。本記事は主に「既に当該映画を観た方」「地理的な関係で観るのが困難な方」向けです。

政治の「毒見」は市民の責務?

2021年7月30日に、内閣総理大臣である菅義偉の実態に迫る事をコンセプトとして製作された『パンケーキを毒見する』が公開され、私も新宿ピカデリーで観ました(監督:内山雄人/配給:スターサンズ)。公開前において、当該映画のTwitterアカウントが凍結されるというハプニングがありましたが、晴れて公開/上映となりました。尤も、上映される映画館は全国でも40か所と極めて少ない事が悔やまれます。出演者は古賀茂明(元「報道ステーション」コメンテーター)、石破茂、村上誠一郎(自由民主党)、上西充子(法政大学教授)、前川喜平(元文部科学省事務次官)、江田憲司(立憲民主党)、小池晃(日本共産党)等といった、所謂政界/学会の「豪華メンバー」です。ストーリー性は特になく、菅義偉の政策や言動について批判的に考察しつつ、風刺を交えたアニメーションを間に差し挟む、という流れで展開していきます。こうした「現実の政治」を批判的に考察するスタイルの映画は稀有である、と言えるでしょう(ちなみにスターサンズは似たようなスタンスの『新聞記者』も手掛けています)。
観た感想についてですが、単刀直入に「東京五輪よりもこの映画を観るべし」と言いたいです。とりわけ、1日のコロナウイルス感染者数が連日最多を更新しているという状況において、菅義偉公式Twitterアカウントが「日本代表選手によるメダル獲得の賞賛ツイート」にかまけているという醜態を踏まえて観ると「この映画は決して虚偽でも誹謗中傷でもない」と感じる事請合いです。「令和おじさん」「パンケーキおじさん」という「仮の姿」しか知らず「選挙なんてめんどくさい」「私の1票で政治が変わるわけでもない」「選挙よりパンケーキの方が大事」と思っている方は勿論の事、自由民主党政権以外にあり得ないと思っている方、政権交代を真摯に考えている方、政治にうんざりしている方等にも是非とも観ていただきたい作品と言えます(つまり市民は全員観るべし!)。

『パンケーキを毒見する』の見どころ

本映画の主演(?)は言うまでもなく菅義偉ですが、前内閣総理大臣である安倍晋三もかなり出てきます。ポイントは「婉曲的表現ほぼなしの直截的表現での政治批判/分析」、これに尽きます。

序盤では「菅義偉の(当初の)イメージ」「国会中継の真相」が扱われます。
前者については石破茂や江田憲司といった錚々たる国会議員が「インタビュー形式」で菅義偉の人柄について述べます。この時点では「気配りのできる人」「己の信念を通す人」といった肯定的なコメントがされるのですが……
後者については「国会ウォッチャー」として知られ、加藤勝信(現内閣官房長官)による答弁を「ご飯論法」と名付けた事で有名な上西教授による「国会中継の実態解説」がされます(日本学術会議任命拒否問題についてのもの)。テレビで報道される「(政権に都合の良いように?)編集されたもの」と「ノーカットのもの」が対比され、後者(実態)が如何に酷い(滑稽な?)答弁かについて如実に判ります(滑稽どころか余りの酷さに観ているとストレスが溜まるかも知れませんが…)。同時に小池晃議員による「歯に衣着せぬ的確な質問と鋭い批判」は賞賛/喝采ものです。ちなみに議場で堂々と居眠りをする河野太郎についても言及されています。

中盤では主に「菅義偉の経歴」「現在のメディアの問題点」「しんぶん赤旗」について扱われます。
秋田県で出生し、働きながら法政大学を卒業し、議員秘書、神奈川県議会議員初当選を経て国政に進出、といった経緯が説明されるのですが、国政進出後の菅については「無鉄砲」「猪突猛進」「無計画」振りが目立ち、こうした振る舞いについて映画内で「博打」と評されています。「当たるも八卦当たらぬも八卦」で国政をされたら市民にとって堪ったものではありません(事実、東京五輪開催について「市民の命を賭けたもの」として痛烈に批判されていました)。序盤で好意的に評価されていた菅ですが、ここにきて「議論が噛み合わない」「学問に対するリスペクトがない」等と痛烈に批判されます。
更に「パンケーキ記者懇談会」として「完全オフレコ(報道が一切されない)」という条件で、早朝に新聞記者と食事しながらの意見交換会が開かれた事について「報道機関への制約である」と指弾したり「(『パンケーキを毒見する』のタイトルはこうした状況を批判したものと考えられます)、太平洋戦争における陸海軍の「大本営発表」を引用しつつ「報道機関による批判がされなくなる事の深刻さ」について論じたりと、現代のメディアに関わる問題を痛烈に批判しています。昨今の「政府の不祥事や深刻な感染状況を隠蔽するかの如く東京五輪一色となっている」といった報道のされ方は、まさに「大本営発表」を髣髴とさせます。他方、公権力によって懐柔されたメディアとは一線を画した「しんぶん赤旗」について、緻密な調査/分析により「桜を見る会問題」を炙り出したという「功績」が解説されています。
「報道ステーション」にて生放送中に政府による圧力への抗議として「I am not ABE」と記されたフリップを掲げた古賀茂明のインタビューもあります。

終盤では、大学生グループによる選挙分析について扱われていました。メンバーの1人が、若者が自由民主党を選ぶ理由について「パンケーキが好きという情報が拡散して、若者にはそのイメージしかないのではないか」と語っていた事が印象的でした。政策ではなく(本人や政府関係者が作った)イメージに釣られる者が少なくないという事でしょう。

結局、この映画のメッセージは「有権者として権威に阿諛追従する事なく批判すべき事は批判せよ」という事でしょうか。

見どころ(アニメーション)

さて、本映画には数回程のミニアニメが差し挟まれますが、コミカルながらも自由民主党政権の問題点がコンパクトに纏められている名作だと言えます。例を挙げます。

・地獄の鬼が政治家達の舌を抜くが、舌はもう1本あった(「二枚舌」を表現)。中には「武田」の名札がある者も。
・118本の舌を抜かれた政治家(誰かさんの虚偽答弁の回数と同じですね)。
・先生に叱られると「記憶にありません」「個別の案件にはお答えできません」「疑念を持たれる事は一切していません」と開き直る生徒達(武田良太の答弁がモデル)。
・個人情報を吸い取る新種の蝶「デジタル蝶」。

短いながら、政府与党議員の不誠実さを上手く表現しているものと言えます。

【追記】

「パンケーキを毒見する」というタイトルですが、画像が沖縄料理という事については突っ込まないでください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?