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市民よりも党益優先の自由民主党政権

意図的な不作為

2021年11月下旬に、南アフリカでコロナウイルスの変異種が確認され、WHOによって「懸念される変異株」として「オミクロン株」と名付けられました。現時点では伝播/感染及び罹患した際の症状について詳細は分かっていません(情報が錯綜しているので本記事では「不明」とします)。これに対して岸田政権は11月30日に「世界の全ての国や地域を対象に外国人の新規入国を原則停止」という措置を発表/実施しました(尤も再入国/在日米軍といった例外はありますが)。更に国土交通省は「12月末まで日本に到着する全ての国際線での予約の停止要請」を各航空会社に行う方針を示しました(後に撤回)。結局、国内においてオミクロン株の存在が認められ、つまり侵入を許した事になりましたが、安倍/菅内閣に比して「異例の早期措置」という事で、世間では岸田内閣に対して一定の評価がされているようです。
さて、コロナウイルス禍への対処ですが、これまで「憲法に緊急事態条項を創設しない限り十分な措置が取れない」といった改憲論が喧しかったわけですが、今回の岸田政権のアプローチを見るに(措置の実効性についてはさておき)、緊急事態条項がない現行法規定においても「防疫のための入国制限/停止措置は取れる」事がはっきりと証明されました。つまり「十分な措置を取れなかった」のではなく「政府与党が懈怠していた」というわけです。これを踏まえれば、自由民主党政権は「悲願」である「憲法改正」を達成するために「意図的に措置を取らなかった」と見る事ができます(自由民主党は1955年の結党当初から「自主憲法の制定」を党是としています)。行政権を担う内閣が、法令を適切に執行して問題解決に当たらない事は憲法第73条違反です(第1号。法律の誠実な執行及び国務の総理)。安倍/菅政権が「憲法改正」という「悲願の達成」を優先し、防疫/救民のための措置を取らなかった事は、到底「法律の誠実な執行」とは言えません。これに加えて「適切な措置の不作為」により市民の生命及び健康を危機に晒したわけですから、憲法第25条に規定される市民の生存権を侵害したとも言えます。のみならず、市民に対して恰も「緊急事態条項がなければ対処できない」かの如き詐術ツイートをし、世論を改憲に誘導しようとした自由民主党議員も複数いました(これは最早官製デマです)。東京五輪/パラリンピック然り、「憲法改正」然り、結局、自由民主党政権は自分達の「党益」のために市民を犠牲にしてきた、というわけです。

緊急事態条項は不要

ところで、自由民主党が主張する「憲法への緊急事態条項の新設」ですが、現時点で既に各種法令において緊急事態に対処するための規定は存在します。たとえば警察法第71条以下と自衛隊法第78条以下がそれです。条文を見てみます。

警察法第71条第1項:内閣総理大臣は、大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して、治安の維持のため特に必要があると認めるときは、国家公安委員会の勧告に基き、全国又は一部の区域について緊急事態の布告を発することができる。
自衛隊法第78条第1項:内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。

どちらも「緊急事態の際に内閣総理大臣が取り得る措置」について定めた規定であり、「緊急事態に対処するため」であれば、殊更憲法に規定する必要はありません。にもかかわらず憲法に緊急事態条項を新設するというのは「緊急事態対処以外の別の目的があるから」という事になるわけです。たとえば「緊急事態の名の下に内閣(総理大臣)が全権を掌握して市民の基本権を剥奪する」といった目的でしょうか。この事は自由民主党憲法改正草案第99条第3項からも伺えます。条文を見てみます。

第99条第3項「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

「国民の生命、身体及び財産を守るために」という文言から「国民の自由」は守られる対象となっていない事が伺えます。加えて「基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」という文言からするに「緊急事態条項発令下においては基本的人権が侵害される事が前提となっている」事が読み取れます。緊急事態に対処することができる目的なのであれば、殊更に人権侵害については規定する必要はないでしょう。自由民主党は「緊急事態を名目に市民の基本権を剥奪するつもりではないか」と看做されても致し方ないでしょう。

相次ぐ公職選挙法違反/買収の慣例化

先に「自由民主党政権は法律の誠実な執行をしていない」旨を記しましたが、自由民主党政権は「誠実な執行」どころか「法令違反が相次ぐ」という醜態を晒しているようです(尤も内閣ではなく自由民主党の国会議員についてですが)。今回の衆議院選挙において、茨城6区の国光文乃を始めとした、複数の「買収案件」が報じられました(今回は「総論」的に述べるため個別の事案について詳細は言及しません。新潟5区の件については詳細が判明次第纏める予定です)。端的に言えば茨城6区で行われたのは「日当5000円を応援演説に駆け付けた有権者に支払った」というもので、公職選挙法第221条に規定される「買収」です。しかも、当該事案に関与していた茨城県運輸政策研究会によれば「慣例化していた。研究会の会費から支払った」との事でした。つまり「買収が慣例化/常態化=常習犯的に行われていた」という事になります。当然の事ですが、慣例化する事によって違法性が阻却されるわけではありません。自由民主党は不法な慣例によって違法性をなくせると思い上がっているのでしょうか。
法令違反が横行している自由民主党。この政党によって組織された内閣に、法律を誠実に執行する事ができるとは到底思えません。

参考文献

⭐️長谷部恭男『憲法』(新世社)
⭐️渡辺康行/宍戸常寿/松本和彦/工藤達朗『憲法1』『憲法2』(日本評論社)

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