"楽しい"を信じること #0



"一番星の生まれ変わり"

YOASOBIの『アイドル』の中にある印象的な歌詞。
比江島慎と出会ってから、バスケットボール選手としての彼の軌跡を辿るたびに私は彼のことを"一番星"と表現してきた。
実際、さまざまな選手を応援しているファンたちにとって、応援している選手は一番星そのものだろう。キラキラしていて、誰よりもなによりも輝いている存在。キャッチーなフレーズも相まって、私はあまり深い意味を考えずに比江島をなぞる言葉として使っていた。
ただ、少しだけ立ち止まってその意味を考えてみると、比江島よりその言葉が似合う選手が脳裏に浮かんできたのだ。一番星、というのは夕方一番はじめに輝きはじめる星だ。ブレックスのバスケットボールにとって、そして日本のバスケットボールにとっての一番星。
それは、田臥勇太その人ではないだろうか。

W杯以降、比江島慎をきっかけにBリーグ観戦にハマった私は4月24日時点で11試合を現地観戦した。今週末の千葉ジェッツ戦を含めれば13試合になる。
現地で目の前でバスケットボールをする宇都宮ブレックスを観て、現地観戦できない日はバスケットLIVEで試合を観た。
ブレックスの試合を追い続けてきて、ど素人ながらに気づいたことがある。田臥勇太のバスケットボールやチームに対する姿勢、そして失われることのない"バスケが楽しい"という目の輝き。その存在全てが、ブレックスというチームを形造るフレームになっていること。プレータイム自体は限られているが、ベンチに彼が居るだけで、チームに彼が居るだけで周囲の選手たちに与える影響は大きい。
幸運にも現地観戦した中で、田臥が試合に出場するところを観れた試合がある。
目の前でボールをファンブルしてしまい相手ボールになった時、悔しいながらもとても楽しそうな表情を浮かべていた。"バスケが楽しくてたまらない"という気持ちが全身から伝わってきた。 


誰よりも先に世界の壁に到達し、そして誰よりも先にその壁の厳しさを知った人。その人が、コート上の誰よりもバスケットボールを楽しんでいる。
私のような凡人が想像できないような、苦しい経験も厳しい現実も何度も見てきたであろう。全てを知った上で、それでもバスケットボールというスポーツの持つ力を純粋に信じている。

人間は駄目になろうと思えば、いくらでも駄目になる。現状に胡座を掻こうと思えば、いくらでも胡座を掻ける。誤魔化そうと思えば、ズルをしようと思えば、いくらでも後退してしまう生き物だ。
目の前の辛い現実から目を背けるために、或いは自分を守るために、逃げようと思えばどこまでも逃げられるだろう。佐々HCの言う"人間の駄目さ"は、この後退してしまう性質のことだろうと私は思う。ブレックスの選手たちは、いつだってその"駄目さ"に抗おうとするところを観せてくれる。簡単なことではない。当たり前なことでもない。時には下を向いてしまうこともある。しんどい時、苦しい時、嵐の中で行き先を見失いそうになった時。
どんな時でも、その星が行き先を示してくれる。チームが向かうべき場所にその光がある。私が今季ブレックスの試合を観続けてきて、田臥勇太に感じ続けてきたことだ。この人を観ていると、バスケットボールの力を信じたくなる。バスケットボールの面白さを、信じたくなる。そして、人間は"人間の駄目さ"に抗うことができると、信じたくなる。
レギュラーシーズンも残り4試合となり、勝敗が順位に直結する緊迫した状況になってきた。心なしか、試合中の選手たちの表情も引き締まってきた気がする。楽しそうな表情よりも、真剣な少し緊張した面持ちが増えた印象だ。どんな結果になっても、彼らを讃えたい。優勝して欲しいと願う気持ちはあれども、それは彼らにとびきりの笑顔でいて欲しいからそう思うのだ。決して、優勝を狙えるチームだから応援しているわけではない。
だからこそ、今週末は楽しそうにバスケットボールをする彼らを観たい。
どんな結果になっても、彼らの戦う姿を見つめ続けよう。今季磨き続けてきたチームワークと、「明日はより良い自分でありたい」という成長に対する貪欲さを見つめ続けよう。その背中を、できる限り押し続けよう。

田臥勇太が指し示し続けてくれる"バスケットボールの楽しさ"を信じ続けよう。

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