simple is best #13



W杯で比江島慎を知った私が次に認識したブレックスの選手、それが"渡邉裕規"だった。
確か初めて見たのは、彼の誕生日を祝うYouTubeの生配信アーカイブだったと思う。
第一印象は「よく喋る俳優顔負けのルックスをした選手だなあ」と。包み隠さず白状すると、少し失礼な印象も抱いていた。口が達者な人は、自分を大きく見せようとしたり、調子乗りだったりする人も多いから彼もそういう人かもしれないと。

彼を知れば知るほど、そういう失礼な印象を抱いてしまった自分をコテンパンにしてやりたくなる。
プロバスケットボール選手、農家、ラジオMC。三足の草鞋を履きこなし多くの人と関わり続ける彼は、私が抱いたイメージから最も離れた場所にいる人だった。

佐々HCが度々口にするように、ブレックスの選手たちは静かでやさしい。観ているこっちがヒヤヒヤするようなフィジカルコンタクトをされてもじっと耐えていたり、審判の判定にエキサイトしたりすることも他のチームに比べると少ないように感じる。
穏やかで気の長い選手たちのことをとても尊敬しているし、そんな彼らだからこそ今のやわらかなチームの雰囲気が作れるんだと思う。

ただ、時々もっと熱い彼らが見たいと思ってしまう場面もある。いつだかの試合後会見で佐々HCが言った、「ここで燃えてこないのか」という言葉に私の感じていたヤキモキが全て詰め込まれていて腑に落ちた。勝ち負けがハッキリ出てしまう戦いに毎度身を投じている彼らの、メラメラと燃え滾る闘志の熱に焦がされたい。一観客の我儘なのだが、見え隠れする彼らの闘志に焦がされ続けてきた人間としてはもっとを求めてしまう。

そういう静かでやさしいチームの中で、いつだってエナジーを出しチームメイトに熱を送り続けてくれるのが渡邉裕規だった。
自分がMCを務めるラジオ内でも自身を「短気」と自認していたが、テクニカルファウルを吹かれた回数はチームで一番多いだろう。
試合中の彼は、普段のその人懐こい笑顔からは想像できないほど熱い闘志を漲らせている。目の前の勝負に、いつだって心を燃やしている。だから、自分に対しての笛でも、仲間に対しての笛でも、それが不当だと思えば熱く審判に詰め寄っていく。

バイスキャプテンを務める彼は、自分がコートに出ていない時間帯でもチームメイトに火をつけ続けてくれる。ベンチに戻ってきた選手を鼓舞し、コートで活躍する姿には誰よりも大きくリアクションし、誰かが日陰になってしまわないように常にチームを照らし続けてくれる。"太陽"という言葉がこれほど似合う選手もなかなかいないだろう。ましてや、"日陰を作らない太陽"はどのチームを探しても、彼しかいないだろう。

試合中の、自分に対しての厳しさも人一倍だった。
今季序盤、プレータイムを貰えた場面でなかなかシュートを決めきれずにベンチに下がっていく姿を見た。悔しくて、悔しくて、ベンチで自分を責めるような素振りをしているのを見た。
私の朧げな記憶の中でとても印象に残っている彼の姿は、三遠game1のラストショットを落とした時の彼だ。
16点差のビハインドで負けたこの試合、最後のシュートを放った渡邉選手は自嘲気味に笑っているように見えた。配信終了してしまっているため、私のうっすらとした記憶なので齟齬があるかもしれないが、私にはそう見えた。

苦しく悔しい序盤の経験を糧に、年明け以降徐々にプレータイムを伸ばし、最終盤になってチームを救う活躍をする姿を観ると胸が熱くなる。
活躍した試合後のインタビューや会見での渡邉裕規から出る言葉は全く調子に乗ることなく、まして自分達を大きく見せようともしなかった。むしろ、現在の自分たちをシビアな目で見つめ冷静に分析していた。そしてその言葉には、危機感が感じ取れた。直近の試合での言葉の端々から感じ取れた危機感。



それが、明確な数字として出たのが今日の試合だろう。


知識も経験も豊富で、要領を得ていて分かりやすい渡邉裕規の言葉はいつも私の胸を打つ。
特に印象に残っている試合後会見を共有したい。「シンプルなところが出来ていたから、前半大量にリードできた」「シンプルにやろう、楽しんでやろう」という"戦術とかフォーメーションとかそういうところではない、シンプルなことを徹底する大切さ"に言及するアウェー千葉戦での会見だ。


渡邉の言うシンプルなこと。それは、空いたら打つ。リバウンドを頑張る。ルーズボールに手を伸ばし続ける。みんなで作ったオフェンスをやりきる。
観ている私たちの心を何度でも熱くしてくれた、泥臭く粘り強いブレックスの姿そのものだ。
そもそも、バスケ素人の私には戦術とかフォーメーションのことは分からない。それでも、今のブレックスに求められているのは渡邉の言うシンプルなことなのだと分かる。


諦めムードが漂う中、放たれた渡邉裕規のディープスリー。




いつだって、私たちの心を打つのはこのシンプルイズベスト。諦めない、その背中なのだから。

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