小林研一郎
小林研一郎の実演は40年前に、一度きいたことがある。
1983年の春、日本フィルを指揮したマーラー第5交響曲。
ひとことで言えば、全曲をかろうじて音に出来たような演奏で、
演奏のクオリティや解釈の独自性などとは無縁のところで、
達成感だけを、この指揮者が舞台の上で、一番喜んでいたような記憶がある。
小澤征爾や若杉弘がいた時代、中堅指揮者の印象が強かった小林も83歳。
「府中の森芸術劇場」で、久しぶりにこの人の演奏をきく。
現在の小林は、指揮棒を最小限しか振らない。
少し長い指揮棒を垂直に掲げて、オーケストラに見せるだけ。
あるいは、指揮台の上で横を向き、左手で彼方の高みを指し示す。
小林の、ある種の「晩年様式」に惹きつけられる。
この日、最初に演奏された「エグモント序曲」がよかった。
どっしりとした、いい音楽。遅めのテンポで、時折、細部に
独自の解釈を加えていく。
1983年にみた、ベネックスの映画「DIVA」の青い画面の冒頭は、
この曲で始まることを思い出した。
2023年9月16日
小林研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団