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マーラー第10交響曲

<宇宙が鳴り響く>と、当時、作曲家が自負していた第8よりも、現代では、未完に終わった第10交響曲の方がはるかに人気がある。
 
高校時代に、セル/クリーヴランドoのLPで、第1楽章以外の断章が存在することを知り、18歳の頃、銀座コリドー街にあった「ハルモニア」という輸入盤専門店で、モリス/フィルハーモニアのLPを見つけ、クック版の全5楽章を初めてきいた。第5楽章の後段で、第1楽章の最初の主題が再現されることに、少し意外な感じを受けたことを覚えている。

実演できいたマーラー10番では、アダージョ単独なら、ギーレン/南西ドイツ放送響(1992)。クック版では1987年2月にきいた、若杉弘/都響による演奏の、第2楽章以下は、試演というか実験的な雰囲気が印象に残っている。

5楽章版には、どこか白昼夢のような箇所があり、第2楽章のスケルツォのトリオは、黄色い空に浮かぶ白い雲。第4楽章のスケルツォは、想像以上に「大地の歌」から派生した旋律に支えられている。

DVDを含めてよければ、この曲の5楽章版での最高の演奏は、インバル/コンセルトヘボウによるものだと思う。あらゆる演奏の中で、この曲が、この高みに達したことはなかった。

インバルは都響に客演した際、何度かこの曲を指揮している。安定した演奏だが、この指揮者がこだわる、終楽章最後のグリッサンドが、セミの羽を引きちぎるような箇所の透明度が、もう少し高ければと、いつも思う。

2024年3月

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