見出し画像

インディオたちはコカの葉をこうやって噛んでいた

南米のインディオたちは何千年、何万年もの間、コカを栽培し、その不思議な効能を享受してきた。

コカにはもちろんコカインが含まれているが、それほど多くは含まれていない。それぞれの葉の99パーセントは、実はコカインではない。コカの葉に含まれているコカインの量の平均値は、0.72パーセントだという研究がある。

つまり、娯楽目的でコカの葉を噛もうとするならば、乾燥した葉を40〜50グラム、大きなジャム瓶一杯分くらいを頬張らないといけないことになる。しかし、数千年前、インディオたちは少量のコカを長時間噛むと、コカに含まれている天然の精神活性物質(アルカロイド、コカインはその中のひとつに過ぎない)がゆっくりと口の中に放出されることを発見した。

コカの噛み方は、後天的に習得する技術である。

まずコカの袋から葉を一握り取り出す。そして、きれいに折って束にし、歯ぐきと頬の間に入れる。次に、リプタと呼ばれる強アルカリ性の粉末を口に入れる。この粉は、貝殻を砕いたものから作られる。しかし、pHが適度に高いものであれば灰など何でもよい。リプタは非常に苛性(腐食性)が強いので、口に直接入れると痛みを伴う。そのため、小さな棒や針金の先で少量のリプタを取り出し、頬にある葉の束の中心に注意深く突き刺す。

こうすることによって、染み出した唾液によって安全に希釈されたアルカリ物質がゆっくりと放出され、口の中のpH度が上がり、その結果、コカインの吸収速度が上がるのである。

つまり、唾液に染み出たアルカリ性の液体をコカの葉に加えるので、実は葉を噛む必要はないのである。ただ、舌で時々葉を動かして水分を保ち、風味を染み出させるだけでいい。〈コカ+唾液+アルカリ〉という単純な方程式で成り立っているのである。こうしているうちに、喉の軽い麻痺、空腹感の抑制、エネルギーの増加など、細かい効果に気づくことになる。

違った噛み方を行なっている部族もある。コカの葉を大きな皿に入れ直火で焼き、緑色の細かい粉になるまで叩き、これに灰(アルカリ性)を加えるのである。さらにこれを煙で燻すと味がよくなる。小さく丸めて噛んだり、直接口に入れたりする。また、タバコと混ぜて口に入れることもある。他に、タバコを混ぜた粉末をさらに細かく粉にし、鼻から吸引するなど、コカ吸引のバリエーションは数多く存在していた。(了)

(注)コカの葉は、コカインの原料となることから、多くの国で麻薬として扱われ、使用・所持・販売が規制されている。日本でも、コカの葉は麻薬原料植物に定められ、栽培・持ち込み・流通が厳しく規制されている。

[参考]
・DOMINIC STREATFELD:COCAINE(2001)より

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?