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機関車が走り出すときは明るい鐘の音が聞こえた

1929年にウォール街で始まった経済の崩壊は、瞬く間にアメリカ全土に連鎖反応を引き起こした。

銀行が潰れ、会社が倒れ、工場は閉鎖されて、労働者は街に放り出された。雇用の選択肢のない中、仕事を求めてアメリカ中を渡り歩いた失業者たちは、「ホーボー」(Hobo)と呼ばれた。

ホーボーは、スープキッチン(炊き出し)に集まり、ドーナツの長い列に並んだ。ヒッチハイクもしたし、貨物列車に飛び乗ったりもした。このホームレスの放浪者たちは、要するに資本主義アメリカの廃棄物だった。

ホーボーは、全米の鉄道ターミナルの近くにできたうす汚い「ホーボー・ジャングル」に集まった。そこでは、貧しい白人が黒人やメキシコ人たちと肩を並べて暮らしていた。このキャンプでは、そもそもジム・クロウ(人種隔離と人種差別のシステム)のカラー・ラインがなかったのである。かれらはアルコールのように身も心も荒らさない、「安価な酒」としてマリファナを愛用した。

1930年にサッチモ(ルイ・アームストロング)が「Hobo, You Can't Ride This Train」という愉快な曲を録音している。

冒頭で機関車が走り出すときの明るい鐘の音が聞こえるが、スタジオでこれを響かせたのは、前に書いたメズ・メズロウである。それは、メズロウがまだミュージシャンとしてよりも、マリファナ・タバコの売人としてジャズ・ミュージシャンたちに重宝されていたときのことだった。(了)

(注)メズ・メズロウについては、次を参照のこと。
なんの苦労もなく、すべての音が調和した|園田寿|note


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