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ブービートラップ(まぬけ落とし)

ベトナム戦争は、20世紀における非対称戦争という概念がぴったりと当てはまる最適の例だった。

アメリカは最新の軍事テクノロジーの多くをベトナムに投入し、国家の強大さを誇示しようとした。ベトコンはアメリカの強みを否定しようとし、予想外の驚くべき欺瞞的な方法で戦った。ベトコンが常識的な戦術論に反して戦闘の非対称性を深めれば深めるほど、アメリカはより多くのテクノロジーを投入した。その結果、前線に送られる兵士にとっては、この戦闘がますます悲惨なものとなっていった。

戦闘の非対称性を深めるためのベトコンの作戦のひとつが、〈ブービートラップ〉(booby trap)だった。

一緒にジャングルを哨戒中だった兵士が、突然地面に沈み姿が消える。兵士を飲み込んだ穴の底には、尖った竹や木、刃物が立ててあり、兵士の身体を貫いている。落ちた兵士は悲鳴を上げることすらできない。爆弾の上に死亡した米兵の死体を置いただけの、単純な罠もあった。知らずに回収しようとすると、周りにいた者を巻き込んで死体が爆発した。非対称性の溝をさらに深めるブービートラップは、戦場のいたるところにあった。

このような経験は、もちろん死や痛み、殺戮に対する恐怖を刺激したが、そのことよりも問題なのは、その記憶が男らしさのテストになったことである。兵士としての期待に沿えない弱さや臆病に対する恐怖の方がはるかに大きかった。

兵舎に戻った兵士は、竹に刺さって死んだ戦友の記憶を酩酊によって溺れさせるしかない。酒を飲み、ヘロインの力を借りて、ひとり木陰にうずくまって泣くのである。

兵士たちがこの非対称的戦闘に耐えるためには、多くの精神作用物質に頼るしかなかった。その意味でベトナム戦争とは、まさに薬理学戦争でもあった。

アルコール以外で兵士に人気があったのは、マリファナ、ヘロイン、(特に衛生兵に人気があった)モルヒネ、鎮静剤、LSD、アンフェタミン(覚醒剤)などであった。

アンフェタミンは軍が支給した。覚醒とともに攻撃性も高めたからである。アンフェタミンを支給されて夜のジャングルに送り出された兵士は、20時間以上神経がピリピリした状態で、ほんの少しの物音にも反応して銃を乱射したりした。民間人に対する暴力や友軍への銃撃といった不当な暴力は、アンフェタミンのせいだった可能性がある。

軍によるアンフェタミンの支給は、まだ撃たれてもいない身体の部位に局所麻酔を打って兵士を前線に送り出すようなものであるが、兵士たちが頼ったヘロインやマリファナなどの酩酊物質は、耐えるにはあまりにも辛い経験をさらに耐えるための緩和剤だったのである。(了)


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