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トップガン

1970年4月17日、重大な事故(酸素タンクの爆発による電力不足)と数々のトラブルに悩まされたミッションの最終日、アポロ13号の宇宙飛行士たちは極度に疲労していた。追い討ちをかけるように、さらに司令官ジム・ラヴェルがコンピュータ・エラーを起こし、地球への帰還準備がほぼ絶望的になった。NASAは、文字通り苦心惨憺の末、無事に彼らを地球に帰還させることができたのだが、NASAが決断した救出作戦のひとつは、事前に支給されたデキセドリン(覚醒剤)を服用するように指示することだった。

それから20年。

作戦は息をのむような速さで、しかも多くはノンストップで夜間に行われた。特にパイロットには、人体の生理的能力をはるかに超えることが要求された。

1991年の砂漠の嵐作戦では、作戦の初期段階が重要であるとされ、最も精密で、最も効果的で、最も速いタイプの軍隊である空軍が活用された。

2001年の不朽の自由作戦のときには、長距離爆撃機B-2は、紛争地域の目標から約1万7000キロメートル離れたミズーリ州ノブノスター近郊のホワイトマン空軍基地からアフガニスタンへ出撃している。これは航空史上最長のものであり、飛行時間は44時間にも及んだ。

2003年のイラクの自由作戦では、最初の数日間、空軍は1日に1,500から2,000の戦闘ミッションをこなした。年中無休で絶え間なく任務を遂行することは、敵を驚かせるだけでなく、敵を消耗させ、戦闘能力と抵抗能力を大幅に低下させることにもつながった。

しかし、問題はブーメラン効果だった。

人間の肉体はもちろん無限に活動するようにはできていない。睡眠不足による疲労が人体に与える影響は、飲酒や酩酊による影響に匹敵する。48時間の睡眠不足の後の症状は、0.15パーセントの血中アルコール濃度に対する身体の生理的反応とほぼ一致している。つまり、睡眠不足で疲労困ぱいしているときに車を運転するのと、アルコールの影響下で運転するのとでは、ほとんど違いはないのである。

仮眠は重要なリスク管理であるが、目覚めた後に約30分のいわゆる睡眠慣性が残る。覚醒度の低下、行動力の低下、しびれ感などが特徴である。つまり、目覚めた後の精神パフォーマンスは、通常より20%ほど低下するおそれががあり、作業の反応時間や速度に悪影響を与える可能性がある。

このためアメリカ空軍では睡眠に代わる薬理学的方法が模索されてきた。

疲労回復のための薬剤は、2つのカテゴリーに分けられる。興奮剤と抑制剤、つまり入眠を妨げたり助けたりする物質で、アメリカのパイロットたちは「ゴー・ピル」(行く薬)、「ノー・ゴー・ピル」(行かない薬)と呼んでいた。

ゴー・ピルの成分は主にアンフェタミン(覚醒剤)であったが、その半減期は約12時間と長いため、ゴー・ピルを使用するパイロットは不眠症に悩まされることが多かった。そこで、入眠を促し、体内時計の狂いを人工的に調整するために、医師は「ノー・ゴー・ピル」も処方するのが普通であった。

もちろんこれらの錠剤を使用するかどうかは、パイロットの自由である。しかし、ときには40時間にも及ぶ出撃では、パイロットには選択の余地はなかった。

1986年の映画『トップガン』では、トム・クルーズ演じるピート・マーヴェリック・ミッチェル中尉は、F-14戦闘機に近づいてこう叫んでいる。
「スピードが必要だ!」

(了)

  • Lukasz Kamienski:Shooting Up-A History of Drugs in Warfare(2012)より


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