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国防総省が麻薬戦争に参戦した

冷戦時代に冷戦のために膨れ上がった軍事力は、冷戦終結後にも萎むことはなかった。

ジョージ・H・W・ブッシュ(大ブッシュ)は、1989年の大統領就任直後の演説で、アメリカが直面している国内的脅威は麻薬であると国民に訴え、国内の麻薬戦争に対して15億ドルを追加支出することと、海外からの供給削減のための費用として35億ドルを要求した。国民の過半数は、麻薬戦争を戦うためにはアメリカにある自由のうちのいくつかを放棄してもよいと答えた。こうしてかれは、アメリカの軍隊を麻薬戦争の最前線に送り込むことに成功した。

空軍は23億ドルの水平線後方散乱レーダーネットワークのために、さらに2億4200万ドルを要求した。このシステムは、かつてメキシコ湾のソ連潜水艦から発射された核巡航ミサイルを探知するためのものだったが、南米から飛来する麻薬密輸業者を発見するシステムに変わった。

空中警戒管制システム(AWACS)の監視機は、国際的な薬物便の監視に使われ、ソ連の爆撃機やミサイルを追跡するために作られた北米航空宇宙防衛司令部は、コカイン密輸業者を追跡するためのものとなった。

トラックに積まれたソ連のミサイル弾頭を検出するために開発されたエックス線技術は、アメリカの税関が貨物トラック内の密輸麻薬を検出するために使用されるようになった。

国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は、対潜水艦戦の研究を生かして、麻薬の密輸入者を発見するための盗聴器の開発を始め、軍事用に開発された小型の受信機と送信機を、対麻薬作戦用の追跡、盗聴、録音機器に改造した。

国防総省内には、麻薬撲滅とはいえ、これらは警察活動に使うにはあまりにも無骨な道具ではないかとの批判的意見もあったが、政治的な風向きの変化が後押しした。

  • 1989年12月にアメリカがパナマに軍事侵攻したのも、理由はあくまでも麻薬取締であり、マヌエル・ノリエガ将軍をコカイン密売容疑で逮捕することが目的だった。米軍は外国の領土で、相手国の承認なしに麻薬密売人や逃亡者を逮捕する権限を与えられたのであった(ノリエガは1990年1月3日に米軍に逮捕され、マイアミに移送されて麻薬取引やマネーロンダリングの容疑で40年の実刑判決を受けた)。

麻薬戦争への軍の参戦は、安全保障環境の変化への対応に苦慮する防衛関連企業にとって、大いなる恵みの雨となったのであった。

(注)写真は、パナマに展開するアメリカ陸軍のM113装甲兵員輸送車

[参考]PETER ANDREAS:KILLER HIGHーA HISTORY OF WAR IN SIX DRUGS(2020)

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