通夜20世紀


火葬場から20世紀がうっすらと白い煙をあげている。
 隣のゴミ焼却場ではジャンクアートのようなゴミが灰となっている。
 灰さようなら。灰さようなら。

 焼き上がるまで待っている控え室。
 座卓の上には、菓子、ジュースのペットボトル。
 一升瓶から湯飲み茶碗に注がれる清酒。
 骨のような乾きものを囓る。
 飲み干すと、腹の底が火照ってくる。追い駆けっこする子供達。
 胡座をかいて、冷や酒。明日の告別式の進行の確認。
 鼻の穴から煙草の煙を出しながら、喋る葬儀屋。
 喪章に止まる蠅一匹。

 結婚式のスピーチで汗をかき、
 礼服の上着のポケットからハンカチのつもりで出したのは、
 数珠だった。
 一同大爆笑。本来なら、その話の中にいるはずなのに。
いまは黙して、棺桶ごと焼かれている。

アナウンスの声が響き渡る。
ゾンビのように、ぞろぞろと向かう。
 係員が、引き出す。
 焼かれた骨。焼きたてのほやほや。
 科学も、技術も、文明も、戦争も、農地改革も、
みんな焼かれて骨になってしまった。
 骨壺に納められた20世紀。

 座敷で御詠歌を歌う町内の婦人会。
 鐘、木魚を叩きながら、歌う。
 去りゆく時を惜しむかのように、ゆっくりとした節回し。
 死んだもん順で送られる。
 年功序列ではなく、順不同。
 死ぬことについては、みな平等。
それほどまでに、それほどまでに、儀式が大切だったとは。

そっと涙を拭う、喪主の21世紀。
 携帯に入っている留守番電話の伝言を気にかけながら。

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