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ゴミシンガーの生まれ(3)

歩くふね

観たい映画がいっぱいある。
そんな気持ちでしていたバイトが、僕の皮一枚だけ繋がっている首を支えていたんですね。僕はレンタルビデオショップに通い、面白そうな映画を借りて、観て、バイトに行き、また映画を観る。観終わったら、ゲームを朝までする。そんな生活をしていました。バイトのおかげで、陽の下へ行くことができていました。
でもあの頃の僕にはゲームと映画しかなかったんです。そしてクソ評論をツイッターに投稿する。人が多いところに行くとうまく呼吸ができなくなっていました。腐っていますね。加熱しても食べられないほど腐っていました。

ある日、女子高生にフォローされました。Twitterもいいものです。The Beatlesが好きな女の子でした。仮にみどりちゃんとしましょう。みどりちゃんはライブをするらしいです。会場はかなり遠い場所。芝生からみる野外ライブでした。
僕はみどりちゃんに行くと声をかけたんです。僕の家からは自転車で数時間掛かります。でも何故か行かなきゃと思ったんです。財布と水を持ち、家を出ました。自転車で山を越え、砂利道を走る。途中ゴルフ場に迷い込むアクシデントも起こしながらやっと着いたのは、どうやって入るかわからない建物。
少し待つと、建物に入っていく女子高生たちの姿がありました。その後を追い、僕も入りました。背負ったバッグの形に汗が滲んだ背中を結構気にしながら、キョロキョロと不安いっぱいに。
流される様に外へ行き、芝生の上。木の影に隠れてステージを見上げました。みどりちゃんのガールズバンドです。ツタツタと硬い膝関節でステージを歩く彼女たちが、僕に音楽の楽しさを教えてくれました。

みどりちゃんという、初めての音楽仲間ができた僕。みどりちゃんにある日こう言われます。
「ライブしてみる?」
唐突ですよね。というのも、僕はギターを持っていたんです。
実は物心ついた頃から音楽も大好きでした。僕もスピッツみたいなバンドがしたい!中学校の時に友達とバンドを組んでスタジオにも入りました。インターネットで安いギター初心者セットを買いました。でも、練習なんかまともにしませんでした。スタジオも、ただのおしゃべり会で終わりました。でも、ずっとギターの話だけは一丁前の様に話していました。イキっていると、そういう場面が来ます。
イキリ散らかしていた手前、断れずにライブに出ることになった僕。会場は市内某所、屋外でした。まぁできるっしょ!と何も考えずにただ日にちだけが過ぎ、やっと焦りを感じ始めた時は既に本番数日前でした。それからは指が真っ赤になるまでになるまで練習しました。翌日指先の痛みが取れなくても、ひたすらにギターを弾きました。
前日になり、ふと気になりました。「何曲すればいいんだろう」
みどりちゃんに確認したら、持ち時間の説明などをしてくれました。足りない!微妙に足りない!でもこれ以上曲を覚える余裕なんてありません。
「あっ、自分で作ろう!」
僕は初ライブで自作曲を披露することにしました。4つのコードで、変な歌詞。
それでも生まれたシワを取り除く時間はありませんでした。あっという間に当日が来ました。
看板にはカタカナで書かれた僕の本名フルネーム。企画者も何故聞いてくれなかったんでしょうか。広い会場、人がポツポツ。新品のアコースティックギター。スタッフさんにセッティングを手伝ってもらい、いざ歌います。
...思い出したくもありません。ライブをする人は誰でも、最初のステージは思い出したくないものです。...ですよね?
僕のはじめてのライブは、かなりの痛ライブで終わりました。
「まぁ、よかったよ」
気休めを言わないで。
しかしながら、僕は初ライブで自作曲を披露しました。あんな痛い曲を...立派です。自分でもそう思います。

翌週、駅前のライブハウス。出演することになりました。立て続けにライブを入れやがるみどりちゃんです。
もうどうしようもありません。脱糞していてもステージに上がるしかないんです。でも、名前は変えることにしました。
“そんばりけっちゃ”
僕がブログなどで使っていた名前です。自分でも意味はわからないけど気に入っている名前です。
来たる出番、「バンドとバンドの合間の、休憩時間だと思ってください...」僕はステージ上でみんなに伝えました。半笑いで。自信のない演奏初心者が言いがちなセリフです。
トホホ演奏の後、みどりちゃんは大激怒でした。
「自分の演奏を待っている人たちに対して、失礼だとは思わないの?」
頓悟しました。極太の槍が突き刺さったひとことでした。たとえ僕の演奏がトホホであろうと、たとえ僕の曲がゴミであろうと、僕を歌を待っていてくれる人がいます。
それに気づいたとき、僕はアーティストになりました。

ライブハウスで出会った同い年のバンドマン。とりあえずTwitterだけフォローしておくと「弾き語りのライブするから来てよ!」と。
場所は隣町のライブハウス。自転車で30分ぐらいです。
また独特の雰囲気の建物です。中に入ると、ソファーに座ったバンドマン。
そして、男性がひとりいました。

(続きます。)

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