見出し画像

『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』

『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』 1967年 2017年リマスター
脚本・監督:キン・フー
撮影:ファ・フィイン
音楽:チョウ・ランピン
武術指導:ハン・インチェ
キャスト:シャンカン・リンフォン、パイ・イン、シー・チュン
上映時間:111min

あらすじ
時は明朝の時代。宦官のツァオは大臣の処刑後、流刑となった親族まで根絶やしにしようと、特務機関東廠を遣わせる。東廠はある宿で待ち伏せをするが、そこにやってきたのは武術の達人シャオと、流刑となった親族を守るため旅をしてきたチュウ兄弟だった。


去年の東京フィルメックスで『大輪廻』『空山霊雨』を観て、初めてキン・フーという監督を知った。
「ここまで純粋な武侠映画があるのか!」と感動したが、よく考えればどんなジャンルにも「祖」と呼ばれる映画があって、キン・フーがその「祖」だっただけなのだ。
ディスク化されている作品がなかなかなく、あったとしても高騰してるから他の作品をどうやって観ようかと悩んでいたころから約半年、シネフィルWOWOW+に加入したところ偶然にもキン・フーと出会えてしまった。
初めは香港にいた監督だが、本作から台湾に移って撮影している。
台湾というと面積が結構小さいから、キン・フーの映画に出てくるような広大な土地(まさに中国大陸のような)があるとは思ってもいなかったのだが、映画を観ればそのあまりにも雄大な自然と大地に圧倒される。
そりゃ画になるよというようなロケーションを見事に見つけ出して、そのおそらく辺鄙な場所にあるローケーションまで大量のエキストラやスタントマンを連れて行って撮影していることを思うとどれだけ予算がかかっているかは想像に難くない。

ただ、キン・フーの映画はただスペクタクルなアクションだけが魅力なわけではない。
むしろ小生は個人的に、宿の中で繰り広げられるような小競り合いや、んなアホなと言いたくなる奇想天外な武術披露に込められた密かな笑いの方だと思っている。
シャオが東廠に絡まれたときに、麺をこぼさずに椀ごと投げてしまうところや、毒入りの酒を飲んだ振りをするところは緊張感がありながらクスッと笑えてしまう。
いわゆる笑いの基礎中の基礎である緊張と緩和を使いこなしている。
窓の外から飛んできた矢を手で掴んで(達人とされる人たちは容易く掴んでしまうする笑)、手元の筒に素早く入れて掌でポンと押すと撃ってきた相手に刺さるというトンデモ技をこれ見よがしにやってくれるのも面白い。
逆に言うと、いわゆる現在のハリウッドのアクションを求めてキン・フーの映画を観る人はがっかりするかもしれない。
香港由来のアクション映画だから中心になるのはワイヤーアクションで、あとは編集で上手くスピード感や威力、動きを演出しているに過ぎない。
CGなぞ当然使えない時代だし、人体の可能な範囲で武術が組まれるから、武侠映画の祖とは言えど、ド派手なアクションというのは実は存在しないのだ。

余談だが、本作にはジャッキー・チェンや武術指導を担当したハン・インチェの付き人だったサモ・ハン・キンポーといった名だたるアクション俳優たちがスタントマンとして出演しているという。
正直本編を観ていてもどこに彼らが登場していたのか全く分からなかったが、もしあなたが真のアクション映画ファンであるならば、ウォーリーを探せの気分で観てみるのも面白いかもしれない。

もっと余談だが、この『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』という無茶苦茶なタイトルに惹かれるのは小生だけだろうか?
今の邦題もどうせ無駄に長くするなら、これくらいふざけても良いんじゃないかと思う今日この頃である。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!