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レターセット

ある日葉書が届いた。
恩師の奥様からの訃報だった。

恩師のアトリエに、当時関係のあった女性と共に、2度ほど御招待頂いたことがある。
アトリエにはドラムセットやクラリネット、ソプラノサックスなどもきままに置いてあった。叩いたしね、そのとき。
奥様や、恩師の友人とそのアトリエで飲みながら会話を楽しみ、殆ど酔いつぶれた。
僕がアトリエに憧れるのはその体験からだ。
約20年間欠かさずに、恩師から個展の御案内を頂いていた。
それなのに、その女性との関係が破綻したこともきっかけとなり、
一度も行かなかった。行けなかった。
そんなちっぽけな理由で。

奥様は、先に長男を亡くされたほぼすぐ後、同じ年に伴侶を亡くされた。享年65歳。
何と言う事だ。

最初にアトリエに泊めてもらった際、その長男とプラモデルを作って一緒に笑ってたんだ。


奥様に何らかの方法で、自分の言葉を伝えねばならない。それは義務だろうと思う。


だけど自分の気持ちがまとまらないままの言葉で、
奥様の心を更に痛めることは出来ない。
どうしたらいいんだ。
ほんとに、どうしたらいいんだ。
買ったままのレターセット。


もう三年が過ぎた。


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