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オセロ

白、黒、白、たーっと音がして白に変換。

アタシの人生もオセロみたいに真っ白になればいいのに。

いつかこの暗闇を抜けたい。そう思いながら夜中じゅうずっと

オセロのコマを打つ。

世界中の人間がオセロゲームをしているオンライン。

うつ速さで対戦相手の性格が読めてくる。

じりじりと四隅を狙ってコマを打つのにふとした拍子に、気が抜けて

コーナーを取られる。相手はこれ見よがしに、タンと音を立ててうつ。

憎たらしい。

そういう時アタシは憎しみで胸の中が真っ黒になる。一瞬だけど。

たかが、ゲーム。そんなにムキになっても仕方ないじゃないの。

自分に言い聞かせるけど、見えない相手への憎しみは止まらない。

きっと、こうやって時間をロスしている自分が憎たらしいんだと思う。

やらなきゃいけないことは山積みになっている。

部屋中に散らばる衣類をなんとかしなきゃいけない。

とりあえず洗濯しなきゃ。

でも、アタシは立ち上がれない。お尻に根っこが生えている。

ほんとうは、こんなふうに怠けてるのは好きじゃないのよ。

ちゃんとした女だからねお掃除もお洗濯も家事一切完ぺきにやるんだけど。

もう、疲れちゃったのよね。

1人になって、誰もせかす人がいなくなったし、今まで辛かった分楽しよう。

そう思うわけ。でもね、なんだろう、楽しちゃいけないって声が聴こえるのよね。

誰の声かわからないけど。

きっといい子だった時の自分の声ね。ちゃんとしなきゃ。ちゃんとやらなきゃ。

いったい何のために?

だってもうここには誰もいないのよ?

世界は閉じてしまったのだから。

オンラインでコマを動かしているのは、マザーコンピュータのAI。

アタシは核戦争の最後の生き残り。

ねえ、ほんとこの地球上にはだれもいないの。

そして、このシェルターの中にある備蓄用の食糧が尽きたら

アタシは餓死するだけ。

孤独には慣れているけど。

ああ、最後に飲んだ眠剤、残しておけばよかったな。

ウィスキーのボトルも。最後の食糧が尽きたら、大量に眠剤とウィスキー飲んで、

少しでも餓死の辛さをやわらげたかったんだけど。

やっぱり、詰めが甘いのね。

あ、また、やられちゃった。

ボードが真っ白。


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