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「早良探訪記」稽古場潜入レポート① バスに乗る準備


10月6日 晴れ

2021年11月に新たに誕生する、福岡市早良南地域交流センターのオープニングイベントで、演劇ユニットそめごころが依頼を受けて、作品を発表することになった。

新しい市民演劇プロジェクトということで、一体どんな企画になるのか、早速稽古場に潜入してきた。

早良区の某稽古場。さほど広くない横長の部屋の壁には、大きな鏡が張られている。その向かいの壁には、今回の演出を務める石田聖也が、床にパソコンを置いて黙々と作業をしていた。彼はやや照れ臭そうに会釈をした後、今回の企画について語ってくれた。

石田:今回の企画のタイトルは「早良探訪記」っていうのにしようと思ってます。劇場空間にバスを置いて、観客の皆さんにはそのバスに乗って頂いて、擬似的なバスツアーに参加していただこうかなぁと。演出の僕は早良区に住んでいる人間ではないので、今はこの地域の人々に、自分たちの住んでいる街がどんなところかを教えてもらっています。

Q:演出として挑戦したいことや、目標などはありますか?

石田:挑戦というよりは・・・この企画については、僕らが何かメッセージのようなものを発信していくという感じではないですね。

Q:ほぉ、ではどんな感じなんですか?

石田:今回、地域交流センターができるにあたって、この街にはどんな歴史があるのか、そしてこれからどんな街になっていくのか、などを考えていくことは、とても大切だと思っています。

Q:ふむふむ

それらを踏まえて、今回参加してくださる地域の方々と一緒に、僕らが思うこの街の魅力、思い描いた未来などを考えていく。そしてメッセージとしてではなく、バスの中の空間に、僕らの考えた魅力的な街が広がればいいなぁ、と思っています。まだ全然決まってませんけどね(笑)

そんなお話を聞いているうちに、今回参加される2名の役者さんが稽古場に来られた。来られて早々自己紹介をしていただき、いそいそと稽古場の床をモップで掃除されていた。何でも、他の団体で役者をされているらしい。

その後、稽古は始まった。

11:00 雑談
演出と役者の間で話が交わされる。
役者の方々から、この街の歴史についてどこに行けば話が聞けるか、どのように市民の方々に参加してもらえればいいか、意見がたくさん飛び交う。

演出と役者が前のめりになって創作している稽古場は、緊張感がありつつも居心地がいい。

面白かったのは、市民の方々の参加の仕方にも色々あると言っていたことだ。

たとえ直接劇場に来られなくても、その方から聞いたこの街の話、記憶、想いは参加させることができるということ。つまりバスに乗せることができるということだ。

11:23 ラジオ体操
ラジオ体操している役者お二方の身体の柔らかさと、その力強さに驚いた。事前に高齢の方だと聞いていたので、尚更驚いた。演出の石田の何倍もエネルギーを発散させている。こんなに全力でラジオ体操して大丈夫かと心配になるほどだ。ラジオ体操の曲が終わってホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ラジオ体操第2がスタート。最後まで全力でやりきるお二方に拍手を贈りたくなった。


11:30 風船
ラジオ体操の後、水分をとってから「風船」と呼ばれるアップがはじまる。事前にそれがどんなものなのか聞いていなかったので、ここからは推測になるのだが、自分の身体を風船だとイメージして、息を吸い込むと膨張し、吐き出すと萎む状態を身体に起こしていたのだと思われる。

それにしても、役者の方々の動きは風船どころではなく、予測のつかなさ、想定外な動きに目を奪われた。クラゲにも死者にも見えて、想像力を刺激される豊かな動きだった。今回初めて稽古場に潜入したので、これまでの稽古で一体どんなやりとりが交わされたのか、どんな約束や共通言語が生まれたのか、全く想像できない。もっと早く参加すべきであった。


11:37 ナチュラルウォーク
役者1人が歩きながら、それをもう1人が見守りながら、ナチュラルな動きになるように指摘していく。恐らくこれは、ナチュラルな歩きをするのが目的ではなく、役者二人が今お互いにどのようなコンディションであるかを確認するためだと思われる。

毎回ベストコンディションで稽古場に向かうのは難しい。稽古場に来るまでに起こった出来事に動揺したり、いつもは稽古場にいない人間が入ってきて、ジロジロこちらを見てきて不安になったりと、様々な要因でコンディションが崩れていってしまう。お互いにその日、自分と相手がどんなコンディションか把握し、修正していくことは、集中力が大切な役者にとってかなり重要であることだと再認識した。

11:57 生まれて死んで消えていくまで
今度は、横長い稽古場の端から端まで歩き、その過程で、子宮に眠っている状態から生まれて、成長して、老いて、死んで、消えていくまでを身体で体現するというメニューが始まった。これにはさすがに役者のお二方も少し動揺し、後々難しかったとおっしゃっていた。

興味深かったのは「観客に見せるための動きをするのではなく、自分がイメージすることが大事」という演出の言葉。

役者は集中して細部の細部までイメージを身体に起こすけれど、役者のイメージを観客に伝えるのが目的ではない。観客はその役者の身体を見て自由に想像することができる。

現にお二方の身体を見て、自分はタンポポの花を想像した。土の中の種が発芽して、ゆっくり伸びて、風に揺れながら花を咲かせ、やがて萎れて土になり、綿の種を飛ばしていくように見えた。

役者の中に確かなイメージがあること、それに身体が正直にともなうことで、僕の中にはたくましく生きる、鮮やかな黄色いタンポポが咲いた。


ようやくアップが終わり、そこから具体的なテキストを読んでからの立ち稽古。具体的な創作に入っていったので、ここにはまだ書かないでおく。

創作の後は、早良の街のリサーチのために役者の方の車に乗せてもらいドライブへ。

どのようなバスツアーになるのか、今はまだ書けない部分もたくさんあるので、今は写真だけを貼っておく。

次回はリサーチのためのドライブの詳細や、役者の方の具体的な紹介やインタビュー、バスツアーの内容をもう少し詳しく踏み込んでいければと思っているので、どうかご期待いただきたい。

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