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「早良探訪記」稽古場潜入レポート② バスは水の流れに沿って 曲渕ダム編


10月6日 晴れ

さて2回目の潜入レポートは、先週稽古場を抜け出して、いよいよ早良探訪に出かけた時のことを記事にする。

早良区の南部を旅すると、いつも美しい水が傍らに流れている。たとえ川の側にいなくとも、木々の隙間から水のせせらぎの音が溢れてくるし、地下を流れる美しい水は、それを吸い上げて成長した、空を覆わんばかりの巨大な木によって想像できる。

早良区で水といえばホタルで有名な椿水路だ。江戸時代、干ばつに苦しんだ農民が開削し、代々、維持補修に努めたという歴史を持つ。地下鉄七隈線の野芥駅のロゴは、水路を流れる椿の花がモデルになっている。

山から流れてくる美しい水は、地下を通りつつも時々水路や川となって顔を出し、大きな木の枝の様に無数に分かれ広がりながら、街を覆っている。


というわけで、早良区南部の水を辿るとなれば、最初に向かう場所は曲渕ダムだ。


大正12年に福岡市初の上水専用ダムとして完成したとのこと。

まずダムを見る前に、車から降りた瞬間から、空気の美味しさに感動した。深呼吸すると、美しい空気を吸い込むというよりも、逆に身体に溜まった汚い空気を吐き出すような感覚だった。毎日せかせかと追い立て、不安にさせる元凶だった汚い空気の正体を暴き、それを吐き出したことによって、何時間でもぼーっとしていられるような、そんな感覚だった。

曲渕ダムの周りは、春になると美しい桜が咲き、秋には紅葉が美しいそうだ。今回行った時は、ただただ緑と青空とのコントラストが目に染みた。

ダムの周りには、誰にも壊される心配がないことを良いことに、大胆に張られたクモの巣が至るところにあった。その真ん中には、丸々と肥えた蜘蛛が気持ち良さそうに風に揺れていた。


さて、ダムの上に登ってみようとなった一同。ダムの上に行く道がなかなか見つからないと思っていたら、もしかしてトトロの住み処につながっているんじゃないかと思えるような、険しいけもの道の入り口を発見。

まさかこんな過酷な道を通るとは思っておらず、生意気にもサンダルを履いてきたために、終止顔を引きつらせながら、黙々とダムの上を目指した。


大変怖かったが、登った甲斐はあった。

なんと美しい山々だろう。山に囲まれて育ったわけではないのに、懐かしさを感じた。

この曲渕ダムから見た山々の景色は、たぶん昔から大きく変わってはいないだろう。時代が流れ、知っている人間がみんな居なくなった後も、この風景は変わらないのか、それとも見る影もなくなっているのか。

それとは、関係ないけど、なんで時間が経過することを「時が流れる」というのだろう、そういえば人生を川の流れに例えた素敵な唄もあったなぁ。 

そんなことをぼんやり考えて胸がいっぱいになったおかげで、帰りの険しいけもの道を下りなければならないことを思い出し憂鬱になったのは、これよりもうしばらく後のことだった。



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