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闇の中の疾走🚲

こうして闇のなかでペダルを踏んでいるとすこし心がやすらかな気持になれる。だれか友だちの家でも訪ねたほうがいいのだろうか? A、B、C……友だちの顔が浮んでくる。しかし、今はそのだれの家にも行きたいとは思わない。Aのところへ行けば、外国の画集を幾冊もみせてもらえるし、Bのところへ行けば、将棋が指せる。しかし、それがなんだろう……。こうして一人で走っている〈さびしさ〉のすばらしさにくらべたら、なんて味気のないことだろう。

思わずハンドルを切り、濠からはなれる。なにもできない人間なのに、どうしてこんなに追われているのだろう? わたしは優しいものが欲しい。それがなんだかわからないが、このさびしさを埋め、わたしに充実をもたらしてくれるものがほしい。それを探している。探さないではいられない。やめることはできない。
『六月』

『はるかな町』 #三木卓
カバー #石阪春生

闇の中、自転車であてもなく疾走する三木少年。さびしさに魅かれ、でもさびしさを埋めたい。どっちやねん(笑。でもよくわかるぞ(笑。

三木卓(みき たく)さん(1935-)と言えば、訳者としても、アーノルド・ローベルの『がまくんとかえるくん』シリーズで有名。
自分の父と同じように、子どもの頃に敗戦で家族で満州から引き揚げたと今回初めて知った。
引き揚げ後の少年時代の、貧しさと勉学と友情の話なども、父と重なる。

カバーがなんか懐かしい感じあるな..と検索したら、石阪春生(1929-2019)は神戸の洋画家で、月刊『KOBECCO 神戸っ子』の表紙も手がけていたとか、、なるほど。俺が神戸少年だったころ、何度かこの人の絵を目にしていたのだろう。

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