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きもの製作現場から vol.3

私のモヤモヤ ~「きん」って奇妙?~ 


「和服の金加工」

和服の製造加工法の中に、「金加工」というものがあります。
キモノの生地に金箔を貼ったり、帯の織地に金糸を使ったりして、装飾を加える加工のことです。
実際にお召しになったり、ご覧になったことがあったりして、ご存じの方も多いと思います。

長い間、キモノ製作現場いるからでしょうか。

「金加工」について、
何か剣呑な雰囲気に包まれた、不安でモヤモヤする疑問が、自分の中にはあるのです。

そんなことを整理する意味も込めて、一度、文章にしてみようと思いました。

今回は、和服の中での「金加工」について、手技よりも、言葉に焦点をあてて、掘り下げていこうと思います。
(数回に分けて、述べる予定です。よろしくお願いします。)


「金描きの染め帯?」

きもの屋さんが、ラグジュアリーホテルで、催事販売されている姿を想像してみます。

所作の綺麗な店員さんが、ゆっくりと微笑み、反物を広げます。
柄がよく見えるように、お客さんに寄り添います。
手慣れた絹の扱いに合わせて、衣擦れの心地よい音も聞こえてきます。

「金描きの松の柄の染め帯は、使い勝手が良くて、とても重宝します。」
「日本画の先生に描いてもらったものです。」
「とても瀟洒に描いて頂けました。」

心地良く響き通る声で緩やかに話されます。

近くのモニターには、政財界や芸能、スポーツ界の関係者、各界で有名な人たちのスナップショットが見え隠れします。
スライドショーの中に、着用された和服姿が映ります。

お客さんの気持ちが揺れ出します………

滅紫色や柿朱色、象牙色や鳩羽色の絹地の染め帯には、金描きがあります。
松柄、80万円。
藤柄、90万円。
天象柄、波柄、などなど。
小さな値札が生地の耳から、見え隠れします。

時計や宝飾品などの催事販売でも、よく見受けられる光景だろうと思います。
でも仮に、そんな場面に傍観者として遭遇すれば、個人的にはモヤモヤした疑問を抱くと思います。


「私のモヤモヤ」

 日本画の先生って、どんな先生?
 金描きの材料って、純金?

こんな疑問で、モヤモヤするのです。

 日本画の先生と聞けば、先ず、芸大や美大の教授を思い浮かべます。
豊かな世界観と創造性に満ちた表現で作品を制作し、門下からは多くの画家を輩出している、そんなアーティストのことです。

また、美術館やギャラリーで表現しながら、作品を販売したり絵画教室を運営したりする、無所属のアーティストも先生です。

他にも、普段は会社勤めをされていて、週末になると絵画サークルで後輩を教えながら、日本画公募展に応募している方もいらっしゃるでしょう。

皆さんすべて、絵描きさんで、日本画の先生です。

もちろん、18や19歳の日本画専攻の美大生が、画塾でアルバイトをしてる場合も、日本画の先生です。

日本画の先生と言う言葉だけでは、どの様な先生なのか分かりません。
そして、表現がコンセプトアート寄りなのか、修復や復元のような古典寄りなのか、また、何を制作される方なのかも、何も掴めません。

………………………………………………

きん」と聞けば、個人的には、先ず、ゴールド(元素記号Au)を思い浮かべます。
でも、日常の社会生活の中で使う「きん」という言葉には、必ずしもそうではない意味を指すことが結構あります。

例えば、中高生の制服の金ボタンや吹奏楽の金管楽器の場合、
金と言う言葉は、見た目の色や素材としての性質を指します。
真鍮(黄銅)などは、金色に見えます。
また、それらは、金属の性質があります。
「金(Au)、ゴールド」の意味合いは、ありません。

また、金魚の金は、価値があるとか珍しいという意味になります。
赤くても、黒くても金魚です。

ここでも、「金(Au)」の意味合いは、ありません。
 
このように、「きん」という言葉が、金属製の質感を表す言葉として使われたり、珍しくて価値のある状態を指す言葉として使われたりします。

日常で使う「きん」という言葉に、「金(Au)」の意味合いが全く無いことが、しばしば見受けられます。
(通貨や財産を指す”おかね”という言葉も、通帳やネットの中の数字に置き換わっています。「きん(Au)」の意味合いが無い「かね」という言葉も、社会生活の中では よく使いますよね。)

きん」という言葉には、複数の意味合いが含まれています。
その言葉が、発言した人と受け取った人との間で、行き違いなく交わされているかどうか、ここに、ある種の不安が生まれるのです。

きもの屋さんと消費者との会話って大丈夫だろうか?
日本画の先生やきんについて、大丈夫だろうか?

言葉の行き違いや掛け違いがあるのでは……
同じ言葉を、そもそも違う意味として使ってないだろうか……

モヤモヤするばかりです。

続きは次の機会に
〈おわり〉

PROFILE
中井 亮 | Nakai ryou
1966年生まれ。京都在住。
誂呉服模様染め悉皆経営。そめもの屋。
友禅染めを中心に、古典柄から洒落着まで、様々なジャンルの後染めキモノ製作に携わる。
また、中高校生へ基礎美術の指導を行っている。


個人作品では、日常で捉えた事物を空想視点から置き換えて再構築し、
「着るキモノから見るキモノへ」を主題に制作する。

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