見出し画像

「プレゼンをプロジェクトマネージャーがやれ」にベンダー側の営業として思うこと

ITソリューション営業で提案依頼書(以下、「RFP」)が出される場合、依頼側が提案の条件としてくることの中に、「プレゼンをプロジェクトマネージャー予定者(以下PM)が行うこと」がよくあげられます。
お客様側の気持ちもわからなくはない。RFPを出すほどの大型システムの導入は5年、10年に一回の大きな投資になるわけで、慎重にベンダーを選びたい。しかし、とかくIT営業の評判はよくない(これはこれで別の機会に話したいが)ので営業以外の話も聞いてみたいし、契約したら主担当となるPMがどんな人なのか、どの程度のレベルか気になるというのは十分に理解できます。
つまり「プレゼンをPMにやらせること」の目的は「プロジェクトを成功させたい」なわけでそこにつながらなければ意味がないということになりますが、この点についてベンダー側の営業の立場で言えばいくつか疑問があります。システム導入成功という意味で本当にユーザの利益になるのでしょうか。

①PMにプレゼンをやらせると導入費用が上がる
例えば私は1億円の案件の提案依頼を受けたとき
・提案依頼書を深く読み込み
・付属する、ときには400問にもわたる機能要件一覧について読み込み、自社ソリューションの標準機能で実現可能か、可能でない場合の代替手段(追加開発、運用案提示など)がないかを検討、回答を作成し
・提示された帳票類の種類、項目レベルまで確認して
・導入完了までの工数を見積り
・適切なインフラ構成を簡易ではあるものの設計し
・提案書を作成
します。もちろん過去同様案件の資料を再利用することも多々ありますが、それでもこれら一連の作成に最低でも150時間はかけます。これはほぼ自分の頭の中で一通りの適用設計を行っているのに等しく、それくらいやらなければよい提案はできません。
また、この作成過程で提案依頼の内容を熟知するからこそ、プレゼンで自社の提案の主旨を正しくお客様に伝えることができるのです。つまり、プレゼンをPMにやらせる」ためにはこれらの作業すべてではなくても、少なくともRFPの中身は読み込んで、提案書作成にかかわらなければならないということなのです。

IT業界内では「これは提案ではなくて企業分析じゃないか」「提案料を払うべき」という方もいらっしゃいますが、私は営業が作業する分にはそこまでとは思いません。プロジェクトマネージャーになるコンサルタントはたいていその会社で最も高い単価で請求することのできる「稼ぎ頭」です。常に何らかしらの有償案件にかかわっています。私はけっしてPMを提案書作成に関わらせるなと言っているわけでもありません。プレゼンができるようになるくらいまでの時間を(営業という適切な担当者がいるにもかかわらず)「無償」の作業に費やすのはベンダー側にとって非常に痛手だと申し上げたいのです。
みなさんはレストランに行き、「これからおたくの料理を食べるかどうかを決めたいので試しにメイン料理を食べさせてくれる?もちろんタダで」などと言うでしょうか?なぜかITソリューション営業の現場ではこれと同じことがおこっているのです。
これがどうしても必要となるとどうしてもベンダーはその(失注した場合に無駄に終わる)時間をリスクヘッジとして価格に乗せざるを得なくなります。結果、ユーザ側の金額的負担も大きくなってしまうのです。

②基幹システム導入の成否はむしろユーザー側の体制が大きく影響する
「プロジェクトの成否はPMにかかっている」というのは確かにその通りで、潤沢な予算、機能が充実したソフトウェア、性能の良いインフラがあったとしてもプロジェクトの進行マネジメントがガタガタでは絶対にシステム導入は成功しません。
ベンダー側PM(ならびに導入スタッフ)は自社が提供するソリューションの導入を絶えず続けている「そのソリューションにおけるプロジェクトマネジメント・進行のプロ」です。手順もしっかりしており、トラブルが起こりそうな勘所もわかっています。ところがユーザー側の体制はどうでしょうか。たいていPMになる人は情シスか業務部門の課長クラスでシステム導入の専門家ではありません。私のお客様でも「前回のシステム導入後に転職してきて導入は今回が初めて」「前回の導入を知っている人はいない」といった状況はよくあります。そんな中、ユーザ側導入プロジェクトメンバーに対するシステム導入のための教育(外部セミナーなど)やモチベーションアップのための手当、通常業務をカバーするアサイン等のケアが全くされないのであれば完全に片手落ちです。むしろこちらをしっかり準備すべきです。

③PMにプレゼンをやらせてもPMとしての資質の有無はわからない
①②については導入コストや優先度の問題であってPMがプレゼンをやることの有効性の話ではないかもしれません。しかしこの有効性という点についても疑念があります。ベンダー側からしてみると、プレゼンは自社ソリューションの良いところを際立たせアピールし、契約に結び付けることが目的です。提案書の内容もその目的に即して作成されます。事実をしっかりと見極め、メリットデメリットを等しく総合的に評価したうえで正しい情報を顧客に伝えるというPMの責務とは意味合いが異なります。
しかもプレゼンは内容説明を90分程度で行い、その後30分程度の質疑応答で一通り完結させなければいけません。一方で、導入プロジェクトにおいてPMはよほどのことがない限り即時回答を求められるような状況にはなりません。課題持ち帰り→全体の整合性を鑑みながら対応策を検討→回答ということができます。「質問に対するレスポンスがいい」は「PMとして有能」にはつながりません。
繰り返しますがプレゼンは「アピールの場」なのです。導入要件全体のバランスを見ながらしっかりと(それなりの時間をかけて)プロジェクトを見据えるPMに求められる能力とは大きく異なります。目的も求められる能力も異なることをやらせて本当にPMの資質を計ることができるのでしょうか。

それでも、契約したらもっとも長く深くかかわってくるのがベンダー側PMですから、どんな人なのか、資質があるのかが気になるのもわかります。私も決してプレゼンの場にPMを出すべきではないと言っているわけではありません。
PMの資質を見極めたいのであれば
・これまでの経歴(どのような規模、業種業態のプロジェクトにどのような立場でかかわったか?)
・これまでのプロジェクトで苦労したこと、気をつけていること、顧客に要求したいことなどをヒアリング(もしくは事前にドキュメントで提出)
といったことで計るべきだと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?