令和5年司法試験予備試験 論文式試験 刑事実務基礎再現答案(9/17作成)

設問1(1)
Aが所持していたリュックサックの中から会員カードが見つかったところ、この会員カードの所持者は不明である。しかし会員カードは個人情報を紐づいているため、調査によりVの物であることがわかれば、AはVの所有物を持っていることになり、犯行を裏付ける証拠となる。更に、会員情報は客観的な証拠であり、信用性も高い。そのため、下線部①の指示をした。
設問1(2)
①Aが被害品を所持していた事実が重要であると考えた理由
窃盗にしろ強盗致傷にしろ、他人の財物を何らかの手段でその占有を移転することが要件となる。とすると、他人の財物を所持していることから、何らかの手段で占有を移転したことがうかがえる。そのため、重要であると考えた。
②その事実のみでは不十分だと考えた理由
しかし、窃盗にしろ強盗致傷にしろ、他人の占有下にあるものを移転する必要がある。占有離脱物横領罪との区別からである。この点、「Vが座っていたベンチ付近には防犯カメラは設置されておらず、被害状況は確認できなかった。」とあることから、まずAがVからリュックサックの占有を移転したことを裏付ける物的証拠は存在しない。他方、Aは「水色のリュックサックは…ごみ箱に捨ててあったので拾った。」と供述している。しかし、「X駅前の…Aや水色リュックサックは撮影されていなかった。」とあることから、占有離脱物横領罪を裏付ける物的証拠も存在しない。そのため、この辺りを示す、信用性が高い客観的証拠が存在しないから、単にAが被害品を所持していた事実だけでは不十分だと考えたと思われる。

設問2(1)
①甲の提案した手続について
勾留理由開示請求は刑事訴訟法83条に基づく。しかし、勾留理由開示請求をしたとしても、検察官に圧力をかけることはできても、その理由が開示されるだけで釈放されるわけではないから、採用しなかったと考える。
②乙の提案した手続について
保釈は刑事訴訟法89条に基づく。しかし、刑事訴訟法88条より「勾留されている被告人…」とあるところ、Aはまだ起訴前の被疑者であるため、保釈の請求ができない。そのため採用しなかったと考える。
設問2(2)
刑事訴訟法429条1項2号に基づく。 勾留の準抗告により、取り消しを請求できるため、Aを早期に身体拘束から解放できる。そのためこの案をとったと考える。

設問3
強盗致傷罪(刑法240条)は「①相手の反抗を抑圧して」「②他人の財物を」「③強取」し「④よってけがをする」ことが要件となる。今回、②に関してはVという他人の財物(現金など)が対象であるから充足する。もっとも、①③および④は充足するかが問題となる。
(1)①③に関して
相手の反抗を抑圧したか否かは、①体格差や②実際の抑圧の態様から判断する。
①…Vは、25歳で身長175cm体重75kgと一般的平均より体格差がある。さらに週4回でジムでトレーニングをしており、なおのこと体格的に有利である。他方Aは65歳の老人で、身長168cm体重55kgと、Vと比較すると体格的に不利である。とすると、通常より強力な力を加えない限り、Vの反抗を抑圧するのは困難である。
②…実際のAによる暴行の態様は「右手を勢いよく後ろに振った…Vはその衝 撃でフードから手を離した…Vの胸部を正面から両手で押し、Vは尻餅をついた」というものであり、右手を振ったのみで、必ずしも強力とは言えない。更に、その後「Vはすぐさま起き上がり犯人を追い掛けようとした」とあることから、すぐに体勢を立て直している。とすると、Vの抑圧度合いは低かったと考えられる。
以上より、体格で劣るAによる暴行は、Vの反抗を抑圧させるものではなかったから、①③を満たさず、強盗致傷罪は成立しないと考えられる。
(2)④の要件に関して
④に関しては、強盗の機会であること、及び暴行と傷害との間に因果関係が必要となる。
強盗の機会に関して、これは強盗行為から発生した傷害だけでなく、その機会から生じたものも含むとされている。しかしVの傷害は捻挫である所、これは「追いかける際に…芝生が濡れており、足を滑らせて転倒した」ことから発生したものである。とすると、必ずしも強盗の機会から発生した者とは言い難い。そのため要件を充足しない。
因果関係に関して、「あればなければこれがない」を原則としつつ、相当性が必要で、通常はその行為に内包された危険が現実化したか否か(危険の現実化)から判断する。しかし、前述の通りねんざはAの「胸を押す」という暴行行為から発生したものではなく、「芝生が濡れており、足を滑らせて転倒した」ことから発生したものである。とすると、胸を押す行為が内包する危険が現実化したわけではないから、因果関係が存在しない。そのため、この要件も充足しない。
(3)結論
以上より、まず反抗が抑圧されておらず、また傷害も強盗の機会に発生したとは言い難いから強盗致傷は成立せず、窃盗罪が成立する。また、暴行と傷害との因果関係は存在しないから、暴行罪が成立するにとどまる。よって、Pは、強盗致傷ではなく窃盗と暴行の公訴事実で公判請求をしたと考える。

設問4(1)
本件は検面書面であるから、伝聞例外として、刑事訴訟法321条1項2号に該当する旨主張する。要件は供述者が死亡等したとき、もしくは相反する供述をした場合で、相対的に特信性がある場合である。
(2)
無回答
以上

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