メモ帳にあった夢小説

ドラマ化だそうなので、2017年頃?に書いた半田くんの夢小説を、iPhoneに保存されていたメモ帳のそのまま掲載します。
せっかくだし……ね……!

半夢①
「苗字なまえと言います」
少し癖のあるイントネーションで喋るそいつは、言葉同様少し癖のある奴だった。

「なあ半田、お前のクラスに転校生が来たらしいな?」
「ん、ああ。なんだ川藤は見てないのか?お前のことだからチェック済みだと思ってたぞ」
「いや〜ちょっと忙しくてな。うちんとこで今度個展があるんだわ。で、その個展開く奴、高校生だっていうんだ。俺らと同い年。だから親父がレイアウトやら何やらを俺にやらせるって言って…」
川藤の顔は心なしか疲れ切っていた気がする。
「ところでお前んとこの転校生、女だって聞いたんだけど」

「親の仕事の都合でこちらに越してくることになりました。いつまでここにいれるかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします」
そんな悲しいことを言う転校生は担任に俺の前にある空席を指さされ移動する。
いつの間にやら空席が作られていたが普通一番後ろとか一番端っことか、そういう隅の席ではないのか?何故、俺の席の前なのか…いや、俺が後ろに追いやられたのか…
「なんで私が後ろじゃないんだろう?あの、私、座高が高いので…見えなかったらいつでも言ってください。席交換しますから」
「あ、いや……気にしないで」
学校一の嫌われ者にそんな優しい声を掛けるのは何も知らない君だけだよ…と少し感動した。そうだ、彼女がなにか困っていたら助けてあげよう。
そして助けはすぐに
「苗字、この計算式解いてみろ」
転校初日だからか、なにかと指される苗字は今、数学教師に問われ固まっている。
どうやら数学は苦手らしい。
「あ、あの…」
彼女はみるからに狼狽している。そしてそんな彼女を周りは好奇の目で見ている。それも仕方ない。この問題は初歩中の初歩、分数の足し算なのだ。
「す、すみません…分数は掛け算割り算しか出来ないんです……」
細々と言う彼女に周りはドッと沸く。もはやイジメのような気がして来た。俺だけでは飽き足らず、転校生にまで…思うより先に手と口が動いていた。
苗字の袖を引っ張り、振り向かせる。
「8分の3だ」
「えっ」
「わからないなら聞けば良い。この答えは8分の3だ」
教室は騒然としていた。あの半田が、半田が助けを、とクラスの奴らが口々にしている。しまった、余計目を付けさせてしまったか?
だが当の本人は気付いていないようで、嬉しそうに「ありがとう」と言った。
なんだかよくわからないけど、そう言った彼女は、眩しかった。

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半夢②
苗字は数学が壊滅的に苦手らしい。最早算数の域でもアウトだそうだ。他にも、
「理科は化学は好きだけど他は数字が絡むと苦手…生物も昔は得意だったし好きだったんだけど、珊瑚の産卵を観てトラウマになったんだ。社会は好き!でも日本史や世界史で、人名や事柄はわかるんだけど年号が覚えられない。地理もどこに何があるかはわかるけど、どれがどのくらいとか苦手。英語は聞き専。あと、教科はなにがあったっけ…?」
とにかく数字がだめのは十分理解できた。
「とにかく私は計算ごとが苦手で、簡単な算数でも急に暗算させられるとパニックになっちゃうんだ。それにしても、ほんとにあのときはありがとう。頭真っ白になっちゃってどうしようどうしようって変な汗止まらなかったんだけど、半田くんのお蔭で泣くまでには至らなかったよ!」
もしあそこで助けていなかったら泣いていたのか。それはそれで見て見たかった、なんていう加虐心が刺激されてしまったが気付かなかったことにする。
「そういえばさっきから私ばっかり喋ってるけど退屈じゃない?」
数字に関してはからきしだが、気配りというか人や空気を察することに関しては秀でている ようだ。
「!」
苗字が急に立ち上がって辺りを見渡す。
「なんか、いる」
先ほどの数学のときのように表情が強張っているのがわかる。じり、じり、と後ずさりをする。俺には誰も見えない。もしかしてそういうお化け的なものが見えるのだろうか?
ガサと生垣から音がしたかと思うと影が去って行った。そして思い出す。ああ、そういえばそうだった。
「ごめん苗字、さっきの、俺に付き纏ってる奴かもしれない」

誰もいない自宅に戻る。親が言うにここは仮住まいで、近々一軒家を建てるんだとか言っていた。一軒家を構えられるほど大人しい職業でもないだろうに。
父はいわゆる転勤族だ。今まで何度も引越しを繰り返して来た。当人は引越しはもうこれきりだと言っていたしもし自分が転勤が決まっても私の負担にはさせない、と意気込んでいる。上手くいけばいいね。
食卓に置かれたラップがされた晩御飯。母も一家を、というより一家の大黒柱を支えるべく父につきっきりだ。仲が良いんだかなんだか。とりあえず私が中学に上がる頃にはこんな感じだった。
レンジで温めて静かに食べる。テレビでも点ければ良いのかもしれないけれど最近じゃあそんな気も起きない。
後片付けを済ますと自室へ向かう。扉を開けるといくつかのキャンバスと共に一枚だけなにも描かれていないキャンバスがあった。それと向き合う。
「んだーーーーーー!!なにも思いつかない!!!」
髪をしばらく掻き毟った後「おふろはいろ…」と呟くのであった。

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半夢③

夢を見た。そこには苗字がいた。その苗字は心なしか大人っぽくなっていて、俺を「清さん」と呼ぶ。苗字と俺は防波堤で海を見ていた。指が触れ合って目が合う。苗字は俺に笑い掛ける。
場面は変わり衣擦れの音がした。
「清さん、ありがとう」
感謝された経緯はわからないが、きっと、そういう雰囲気だったのだ。きっと。
蕩けた目をした苗字は一糸纏わぬ姿だったような気がしたが、正直夢の記憶は起きた途端薄れてそこしか思い出せない。
起き上がり、考える。
何故苗字が突拍子もなく夢に出て来たのだろう。そして何故俺はこんな夜中にコソコソと洗面所にいるのだろう。
「悲しきかな」
思春期だからそういうこともある。というにはあまりにも爽やかな夢だったような後味で、どうしてこうなったのか理解が追いつかない。
「どんな顔して会えばいいんだ」
鏡に映る俺は、心なしか老けていた。

iPhoneのメモ帳

この3つで途切れていました。
気が向いたら、続きを書いてみようかなと思います。

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