ノルマンディー2019年産3次募集馬レビュー(牡馬)

ノルマンディー2019年産3次募集のレビューを行っていきます。

点数などはつけません。あくまで情報と頭の整理です。

結果的に出資するかしないかは置いておくにしても、その募集馬について考えた時に、どのようなことを調べ、どのようなことを感じ、結果的にどうしたのかということを残しておくことは非常に大事です。

この記事に関しては私の頭の中でどのような思考が行われているかを感じていただければと思います。皆さんの出資の決め手にはならないかもしれませんが、間違いなく参考にはなるように頑張っていきます。

なお、馬に対する興味関心の違いで極端に文字数が変わってきますのでご了承いただければと思います。


キモンクイーンの19 牡馬 牧厩舎 募集価格1240万円

2021年のJRAブリーズアップセールにて660万円にて落札された本馬は新種牡馬サトノアラジンを父に持つ。

サトノアラジンと言えば、爆発的な瞬発力で安田記念を制するなど東京コースを得意とした馬であったが、つい先日札幌競馬場で初年度産駒がデビューし人気薄ながら2着と上々の滑り出しを見せている。父譲りの瞬発力で上がり最速の脚を使ったことからも個人的に期待の大きい種牡馬だ。

さてこのキモンクイーン19だが、JRAブリーズアップセールで取引されたことからもわかるとおり、育成はJRAが行った馬である。昨年のサマーセールでJRAが購入したのだが、その際の落札価格が1155万円(税込)となっている。

ここで「おや?」と思われた方もいるかもしれないが、最初に載せた今回のブリーズアップセールでの落札価格は660万円なのである。

そう、JRAとしては1155万円で落札した馬を660万円で販売したことになる。育成にかかった費用を考えると1000万円近くの赤字だ。

なぜこの馬は仕入れの半値近くでしか売れなかったのか。大きな理由はこれだ。

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(JRAブリーズアップセール個体情報より)

この資料のノド内視鏡検査という欄を見ていただければ分かる通り、DDSPとAEという疾患が一番重いグレードなのだ。

各疾患に対する説明については下記画像を確認していただきたい。

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(JRAブリーズアップセール個体情報より)

喉の疾患となると、ある程度一口馬主をやってきた方であればその時点で苦い顔をされるだろう。

競馬においてハイパフォーマンスを見せるためには心肺機能は非常に重要だが、喉に疾患があると上手く酸素を取り込めなくなる場合がある。

ではなぜ、ノルマンディーはこのような馬を購入したのか?

会員が増え、売れそうなものなら何でも買って売ればいいという節操のない方針に転換したのだろうか。答えは否である。

少々古い記事になるが、こちらのブログ記事を読んでいただきたい。

これは本馬の育成を担当したJRAの育成馬日誌だが、非常に興味深いことが書かれている。

DDSP 走行中に軟口蓋が喉頭蓋の上方(背方)に変位し、走行中に「ゴロゴロ」と喉が鳴る疾病です。この疾病は、グレード0~3の4段階に分類されます。若馬は喉頭蓋が未発達であるため、成馬と比較してDDSPを発症しやすく、安静時検査におけるグレードの程度と競走パフォーマンスには関連がないことが明らかとなっています。しかし、若馬でDDSPを発症する馬は、初出走までの期間が長くなることもわかっており、症状を有する場合は、馬体の成長を待って競馬に出走させる必要があります。
AE 喉頭蓋が未発達なため、矮小、菲薄な状態です。一般的に、若馬は成馬と比較して喉頭蓋の形成不全(矮小、弛緩、菲薄、背側中央部の凸面)が多く認められ、DDSPを誘発しやすくなります。しかし、AEの所見は年齢とともに消失することが多いため、極端な異常ではない限り、競走成績に影響を及ぼしません。

JRA育成馬日誌より

つまり、AE(喉頭蓋の異常)は若馬に良く見られ、DDSP(軟口蓋背方変位)を誘発しやすい。またAE自体は加齢と共に消失することが多く極端な異常でなければ競争成績には影響を及ぼさない。

そしてDDSPも未発達な若馬に多く、これ自体が将来的な競争成績に影響を及ぼすことは無いが、馬体の成長を待ってからデビューさせないといけない。

ということである。

日夜競争馬について研究しているJRAによる情報なので、間違いはないだろう。

本馬のAEのグレードは一番高い3なので極端な異常にあたるかもしれないが、しっかり成長を待てさえすれば、競争能力への影響は少ないのではないか。

きっとクラブもこう考え、落札に至ったものと推測する。これが仮にLH(俗にいう喉鳴り)の所見がある馬であれば購入はしなかったはずだ。

実際に、JRAでの育成を見ても本馬は調教ペースがかなり遅い進度となっている。これはJRAとしても馬の成長速度に合わせた育成を行っていたのだろう。

そしてノルマンディーの育成ではこの程度の進度はザラにある。年明けデビュー上等だ。

馬の成長を待ってデビューさせる。古馬になってから本領発揮できればよい。こうした考えのノルマンディーからしたら、本馬のリスクはリスクですらないのだ。

とはいえ、貴重な2歳戦・クラシックシーズンは間違いなく棒に振るであろう本馬をわざわざ落札しようとする個人馬主はそう多くはない。だからこそのこの値段なのだ。

血統に関しては浅く

サトノアラジン産駒は初年度産駒となるので、配合的な成功例などはまだ見えてこない。とはいえ、ストームキャット×ディープインパクトの形はキズナと同じで、キズナ×母父クロフネは好相性だ。全くダメな配合には見えないが、知識が薄いためあまり言及はしない。

では馬体や動きを見ていこう。

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カチッとまとまった馬体に、薄い皮膚、質の良い筋肉を纏った馬体は多くのサトノアラジン産駒の特徴に一致する。

サトノアラジン産駒は総じて似たような馬体をしているため、非常に父の遺伝力が高いのだと思う。仔が競争馬として優秀であった父の形質を受け継ぎやすいということは種牡馬として非常に大事なことだろう。

余裕のある腹回りに、緩いトモ。かなり余裕を持たせた調教ペースだということが馬体からも見てとれる。ただ、前の出はスムーズで全身を使った歩様が出来ていることは良い点だろう。

調教動画もかなり緩いペースで行われているが、本馬の成長度合いに合わせたものだとしたら決して悪いものではない。

上記に挙げているような理由から、既に小野町移動していることが不可解ではあるが、セリは中山競馬場で開催されてたのでそのまま本州で引き受け、小野町でポックラポックラ乗っているという可能性はあるだろう。

厩舎は牧厩舎、上位厩舎ではないがこの時期に募集される厩舎としては及第点だろう。(実はそこまでノルマンディーの馬で稼げていない)

まとめ

・安価なのは喉の疾患の影響?

・ノルマンディースタイルであれば、喉の影響が少ない可能性も

・期待の新種牡馬、配合的には問題なし

・とはいえデビューがかなり遅くなる可能性も

・まやかしの小野町在厩


ピュアフレグランスの19 牡馬 畑端厩舎 1120万円

突然だが、私はメイショウボーラー産駒が大好きだ

自分が出資したメイショウボーラーやその父タイキシャトルの産駒は過去5頭がデビューしており、その全てが勝ち上がってくれています。これはなにも僕の見る目が優れているという話ではなくて、カチッとまとまった馬体でいかにもスピードがありそうな馬を好む私の趣味にドンピシャの仔を出してくれる神様のような種牡馬がメイショウボーラーであり、タイキシャトルだったのだ。

昨年のサマーセールで購入されたあと音沙汰が無かったので少々心配していたが、無事3次募集でのラインナップとなったことが素直にうれしい。

本馬は昨年のサマーセールにおいて330万円で購入された。そう考えると、募集価格の1120万円というのは育成費用を上乗せしたとしても少々お高めの価格に思える。

この馬については、血統面で少しだけ面白いなと思ったことを書き記したい。

カタログコメントにもある、メイショウボーラーとミスプロ系種牡馬はニックスでAEIも勝ち上がり率も非常に優秀な数字を残している。

面白いのはニジンスキーのクロスだ。本馬と同じくニジンスキークロスを持つメイショウボーラー産駒は、AEIと勝ち上がり率ともに非常に優秀な数字を残しているが、実は父タイキシャトル産駒のニジンスキークロスは非常に相性が悪い。

もしかしたらこのクロスはタイキシャトルが持つニジンスキーに対して作用するのではなく、メイショウボーラーの母が持つストームバードに作用しているのかもしれない。

なんていう門外漢で頓珍漢な血統の話をし出したのも、本馬のカタログ画像が少々期待外れでショックだったからだ。

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上記の画像は、昨年のサマーセール時の本馬の画像だ。

厚手の皮膚感はともかく、バランスの良い馬体はタイキシャトルやメイショウボーラー産駒の自分の好みに合致しうる好素材であった。強いて言えばトモの容量が少々足りないように感じたので、成長を心待ちにしていたのだ。

そして本日公開された馬体がこちらである。

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胴が伸びたせいで、明らかに馬体のまとまりが悪くなったのがわかる。

もちろん、胴が長いと走らないという訳ではない。しかし、本馬はスピードが身上のメイショウボーラー産駒である。こうも胴伸びしてしまうと、よほど前後の連動が取れていないとスピードの乗りが悪くなってしまうように思う。(もちろん、メイショウボーラーにも長距離砲はいるので、これはあくまでメイショウボーラーのスピード馬が欲しい私の意見だ)

動きを見てみよう。動画で見ると、画像ほどのバランスの悪さは感じないが、これは画像を撮った時期と動画を撮った時期が少しずれているように見える。

少し前肢は短めでトモの位置が高く映るが、時期的なものを考えるとこれは成長途中のものではなくこの馬の個性だろう。胴が長いが、背中をあまり使えておらず前後の連動が出来ていない点が気がかりだ。

早いところに行っても体がまだ上手く使えておらず、チョコチョコとした動きになっているのでせっかくの体格が活かしきれていない。

距離に融通を効かせるというのであれば、動きから変わってきてほしいものだ。

厩舎は畑端厩舎。開業間もない厩舎だが現状順風満帆とは言えない。しかし、関東のよくわからない厩舎よりは若手調教師の方がよほど可能性を感じてしまうのだ。

まとめ

・個人的には昨年夏の方が好みの体つき

・人気はあまりなさそうなので、少しなら様子見できる可能性も?

・動きはもっと変わってきてほしい

・クラブとメイショウボーラーの相性は良し


マサカーネの19 牡馬 尾形厩舎 1280万円

本年のHBAトレーニングセールで836万円で落札された本馬は、マサカーの今年3頭目となるジョーカプチーノ産駒。

1次募集のハートホイップも2次募集のゴールデンシーカーも売れ行き好調だっただけに、更におかわりといきたいところか。

ノルマンディーはコンサイナーの門別牧場からセリで購入することがしばしばあるが、逆に1歳のセールで門別牧場と競り合うこともあり目の付け所が似ているのかもしれない。

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これはマサカーネ19のトレーニングセール時の画像だが、セリ落札時にこの画像を見た時にまず感じたのが「背腰のラインがデクラークとよく似ている」ということだった。

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(デクラーク募集時)

この手のタイプは、芝にせよダートにせよガーッと行って案外粘れない(トップスピードには入りやすいが持続に難がある)と思っているのでデクラークには出資しなかったのだが、現状ソコソコ稼いでくれているので目を瞑ってもよいのかもしれない。

本馬も父や、他の産駒と同じく短距離でスピードを発揮する馬になりそうで、堅実に走りそうなイメージがある。大物感で言えば2次のゴールデンシーカーだが、ジョーカプチーノ産駒らしい堅実さを求めるのであればこちらだろうか。

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募集画像をみると、またバランスが変わってきているようにも感じるので、2か月後3か月後には別の印象を持つかもしれない。

やや左前が湾曲しているようにもみえるので、注意して見守っていきたい。

歩かせてみると、繋ぎのクッションや多少堅めの動きから芝というよりはダートで走っているイメージが出来る。キレも無いだろう。

背中の使い方はあまり上手くなく、距離は持たないように感じるので中山D1200などでの走りが見てみたいところだ。

厩舎は尾形厩舎。開業まもなく生産馬のカラダレジェンドやクラブ馬のブラゾンドゥリスで重賞を勝ったこともあり、ノルマンディーと比較的良い付き合いをしていたが、その後は活躍馬を出せずにいる。

比較的高額馬のセレンディピアで勝ち上がりはしたが、その後長く低迷させたことからこのまま関係がフェードアウトするのではないかと薄々思っていたのだが、セレンディピアが復活気配にあることと今回の預託は無関係とは言えないだろう。

鞍上の手配にクラブがもっと口を出せれば良いのにと常々感じている。

まとめ

・短距離でビューン?

・トップスピードには入りやすいが、トップスピードが速いとは言っていない

・5代アウトブリードの本馬だが、実は5代アウトブリードのジョーカプチーノ産駒はめちゃくちゃ走らない

・ブラゾンドゥリス出資者は皆尾形師を諦めていない。頑張れ。


デリキットピース2019 牡馬 吉岡厩舎 募集価格2960万円

母デリキットピースは忘れな草賞を勝ち、オークスや秋華賞にも出走した活躍馬で、ブエナビスタとレッドディザイアが鎬を削っていたハイレベルな世代を彩った一頭だった。そういうこともあって、デリキットピースの名前は覚えていた方も多いように思う。

そんな母と、トップサイアーであるキングカメハメハの産駒が募集されるのだから、もうノルマンディーは完全に僕の知っているノルマンディーではなさそうだ。

さて、馬を見る前にデータの整理から。

ノルマンディーといえば、キングカメハメハ系種牡馬の相性が極めて悪いことで知られている。

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なお太字となっている所属馬に関しては現在も現役で頑張っているため、数字が変動をしてくる可能性がある。

父キングカメハメハだけで言うと、ノルマンディー初年度募集馬であり先日まで現役を長く続けたイオラニが出ているが、その他は募集額ですら回収できていない所属馬が多く、相当厳しい数字となっている。

キングカメハメハとキンカメ系の主流であるルーラーシップ・ロードカナロア産駒を抜き取って見てみると、ノルマンディーでは牝馬の募集馬が目立つことがわかる。

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一方で図の通り、各種牡馬の勝ち上がり率やAEI※を見てみると、基本的にどの種牡馬も牡馬優勢であり牝馬は良くて平均超え、ルーラーシップに至っては平均割れしていることがわかる。

※アーニングインデックス(全競争における競争馬1頭当たりの平均収得賞金額のうち特定の種牡馬が占める割合、1が全種牡馬を通した平均)

つまり、キングカメハメハ・ルーラーシップ・ロードカナロアといえども、牡馬より競争成績が落ちる牝馬であれば比較的安価にセリで購入が出来る。クラブのコンセプト上、あまり高額な募集が出来ないノルマンディーとしては安価且つ見栄えのするラインナップにするためにはうってつけの種牡馬と言えるだろう。

当然、自家生産の当該種牡馬産駒もいるが、クラブ以外にも販路を多く持つ岡田スタッドとしては注目度の高い種牡馬の産駒をおいそれとクラブに持って来れない事情がある。

実際に、ラピュルテ以外の父ルーラーシップの3頭と父ロードカナロア2頭はセリ或いは庭先で購入したものである。

キングカメハメハ産駒3頭に関してはイオラニとクイーンズトゥルーが自家生産であるが、クイーンズトゥルーは名牝キョウエイトルースの後継として外には出したくないという事情があり、イオラニに関してもクラブの開業が予定より早く認可が下り、急遽ラインナップを集める必要性が出てきたことでほぼ自家生産馬での募集となった経緯を考えると、今の募集プロセスとは大きく異なる中での募集だったことは想像に難くない。(当時のキンカメ種付け料もまだ400万円だった)

つまり、人気のある主流キンカメ血統にあっては、馬が良い悪いという部分以外に募集全体における「賑やかし」としての側面がチラチラと見え隠れしてしまっている。結果論ではあるが。

仮に、「売れそう」「見栄えがいい」という面を一切考えず、単純に「馬が良い」という理由のみでこれらがラインナップに加えられていたのであれば心情的には素晴らしいクラブだと思う。しかし本質を見るとこれは致命的であり、圧倒的に「キンカメ系を見る目が無い」「極めてこの系統の育成が下手」のどちらかなのである。

さて、今回募集となっているデリキットピース19はこうした様々な謂れのあるキングカメハメハ産駒であるが、過去募集されてきたキンカメ系募集馬とは大きく毛色が違う。

それは皆さんお気づきの通り、ここまでの育成が社台Fによって行われてきたという事だ。社台Fの育成を手放しで喜んで良いかどうかは置いておくにしても、前述した「ノルマンディーがキンカメ系の育成を不得手にしている」という可能性を回避することが出来る。

しかし社台Fがキングカメハメハ産駒の育成を得意としているのか。また2歳のこの時期まで他のセリや庭先で購買されずに残っていた馬に果たして走る馬がいるのか。そういったことは確認しておかなければならない。

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上記の図は、本馬と同じく千葉セリ(2歳)で過去に購買されたキングカメハメハ産駒の一覧だ。過去に6頭しかいなかったのでまとめるのは非常に簡単だった。ありがとう社台F。

これも太字となっている馬は現在も現役なので、賞金に関しては今後まだ増える可能性があると考えていただければ良いだろう。また、こちらの数字は手当を含んでいないので、実際に馬主が得ている金額はもう少し多い。

総賞金の欄を見てみればわかるとおり、悪くない。中央デビューした4頭は全て勝ち上がっており、まだまだ賞金を積み上げられそうな馬もいる。

しかし、恐ろしいのがその落札価格。本馬を除くと平均落札価格が6,000万円超と流石はキングカメハメハと思わせる。これじゃあノルマンディーに出番はない。普通なら。

ところがここにきて突然の2,222万円落札。あまりにも安い。異常価格と言わざるを得ない。

そもそも、こんなに安いキングカメハメハ牡馬は走るのだろうか。2016年~2021年までのセリにおけるキングカメハメハ牡馬の落札価格を調べてみた。

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もっと過去のデータを振り返れば安価なキングカメハメハ牡馬は出てくるだろうが、種牡馬の評価は年々変わり、活力も落ちていくことを考えこの切り取り方としている。

このデータを見ると、本馬はここ数年で5番目に安値で取引されたキングカメハメハ産駒だということがわかる。そしてこのデータを見る限り、安価なキングカメハメハ牡馬の成績は褒められたものではない。基本的にお値段以下の活躍しかしていないのだ。

やはり、キングカメハメハ牡馬というセールの中でも注目されやすい存在ともなると、多くの人の目に止まり多くの人のジャッジを受けることになる。多くの人のジャッジで良い評価を得た馬は競り上がる。活躍が見込めないと思われた馬は低価格に終わる。高価格馬は入札者の財力によって時として目が飛び出るほどの値段となるが、購買価格と競争成績のリンクは、多くの人に目に止まる人気種牡馬の低価格馬でこそより顕著に表れるのかもしれない。

なぜ激安価格で購入が出来たのか。セリ時の公表事項として全身麻酔歴(右飛節OCD片摘出)とあるが、これは昨年7月のことであるしOCDであれば競争能力に大きな影響はないだろう。

今年の千葉サラブレッドセールは史上初のオンラインオークションとなったが、実馬が見れずともセール自体は活況であったし、本馬の低評価がオンラインセールの影響だとはあまり思えない。(通常のセリの形とは違うものなので、まったく影響がなかったとは言えないが)

強いて言うなら、兄弟の成績だろうか。

母デリキットピースからは本馬が誕生するまでに5頭の産駒が誕生しているが、そのうち競争馬としてデビュー出来たのは2頭だけ。またその2頭も中央では現在未勝利となっている。(一つ上のロードカナロア産駒も、デビュー2戦後に骨折して治療中だという情報がある)

この結果だけを見ると、本馬は極めて体質が弱い血統であり、高額な賭けをするには怖いと思っても不思議ではない。激安価格となった理由として一番可能性があるのはここだと思っている。

さて、様々なデータを調べてみたが、千葉セリのキンカメ産駒がこの価格で!とみれば大いに買いであるし、この価格のキンカメ産駒とみると、怖くて手が出せない。データは切り取り方で様々な表情を見せるが、何を重視するかは受け取り手次第だ。

血統については詳しくないので語るべきものが無いが、父と母父の組み合わせからは、デビューした3頭から重賞馬のセンチュリオンが出ており好相性と言える。

ちなみに、母父ホワイトマズルといえば賞金上位5頭のうち3頭が岡田スタッド生産(スマートレイアー・カツジ・ミッキーグローリー)であるので、潜在的に岡田家の皆さんはホワイトマズル好き好きマンだ。これは落札に至った理由の一つかもしれない(実際のところ母父ホワイトマズルだからといって仕入れることはあまり無いし、仕入れても大して走っていない)

厩舎は吉岡厩舎。今ノルマンディーが預託できる厩舎のうち、最上級の厩舎と言って差し支えないだろう。開業してそう日が経っていない為、ノルマンディー所属の馬は主に他からの転厩馬が主だが、開業して2年の間に預託頭数は6頭(預託後引退したカルヴァリオやホマレを加えると8頭)に増え、また2歳世代の本馬とコルレットを合わせると計8頭(10頭)預託することになる。

一つの厩舎に対してこれほどまでに馬を送り込むということは、ノルマンディーとして過去に例がない。クラブとして吉岡厩舎を高く評価していることの表れであり、また実際にこれほどの頭数を預かってくれているという事はクラブとの関係性が非常に良好だという事だとの証明にもなるように思う。

新馬戦から積極的に勝ちに行くわけではなく、使いながら課題を明確にし賞金を稼ぎながらしっかりと勝ち上がらせる手腕はクラブともピッタリだ。

クラブ設立当初よりノルマンディーは関西厩舎とのコネクションが薄いとよく言われていたが、漸く関西有力厩舎との深い関係性が築かれたとなると馬選びは非常にやりやすくなる。(昆厩舎は設立当初から預託があるが、必ずしもツーカーの仲ではないし、デアリングタクトを出した杉山厩舎も能力は買いながらも、オーナーとしてはどこかやりにくさを感じていそう)

さて、本馬の馬体と動きに関して少し記述していこう。

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キングカメハメハ産駒らしい、バランスの良い馬体だ。背腰のライン、トモの容量など非常にスケールを感じる馬体となっている。ただ、馬体のハリが足りないように感じる。

これは概念的なものになってしまうのだが、個人的に走るキングカメハメハ産駒の馬体は「はちきれんばかりに発達した筋肉をラップで包んだような」ハリのあるものだと思っている。

更に精神的な世界に入っていくと、「内から湧き出してくるパッションを薄い皮膚でなんとかギッチギチに抑え込んでいる」馬体こそがキングカメハメハ産駒の大物だ。とすら考えている。

ロードカナロア

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ロードカナロアなんてその最たるものだ。スプリンターなので筋肉量が多いことは当然だが、皮膚の薄さと量は多いが柔らかそうな筋肉。これが世界のロードカナロアだ。

さて、デリキットピースに話を戻そう。下の画像が、セリ時に公開されていた画像で今から3か月半前の画像になる。

画像5

均整のとれた馬体で、実は千葉セリの情報が公開されたときからこの子には注目していた。まさかノルマンディーが落とすとは夢にも思わなかったが。

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今回の募集画像だ。セリ時に公開されていた画像から日が経ち、胴が(背も?)伸びたように思える。ただ、フレームの成長にまだ中身が追い付いておらず、ハリが物足りないと感じたのはそういった点からだろう。セリのために一度仕上げられてはいるが、成長期なだけに焦らず秋以降の入厩を目指したい体つきだ。

募集動画を見てみよう。活気に乏しくお疲れの様子だろうか。前捌きは比較的スムーズで故障に繋がりそうな大きなウィークポイントは無いように感じる。ただやはりフレームに見合った筋肉は無い。特に後肢が顕著でトモに力感を感じないのはそのせいだろう。

しかし、現状の状態である程度動けてしまっているのだから素質は高いのだろう。時間をかけて15-15ペースで乗り込み、十分にパンプアップした姿を確認してから出資したいが、残念ながらそれを許してくれるクラブではない。

まとめ

・何かを疑いたくなる落札価格

・千葉セリのキンカメ牡馬は走る傾向にある

・価格だけで見ると走らない可能性が高いが…

・バランスは良いが、完成まではもうしばらく時間がかかりそうな馬体

・じっくりデビューを待てる人向きの募集馬。秋デビューも怪しい

・キンカメ牡馬で厩舎も良し、それでいてこの価格は最初で最後のチャンス



以上が牡馬のレビューになります。

馬体や動きに関しては完全に主観ですが、データに関しては事実ですので特に是非参考になさってください。

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課金してくれるとか神かよ!!!

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