イベルメクチンとCOVID-19のメタ解析論文を考える 第1版

2021/7/17記
Elgazzarらの論文が撤回されましたので、本論考を一部訂正します。なお論旨に変更はありません。

・表4からElgazzarを削除します。

・(3)メタ解析論文①は他のメタ解析論文が抽出して解析した 7論文(Babaola, Chachar, Chowdhury, Elgazzar, Hashim, Niaee, &,Rabikirti)を抽出しなかった。
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(3)メタ解析論文①は他のメタ解析論文が抽出して解析した 6論文(Babaola, Chachar, Chowdhury, Hashim, Niaee, &,Rabikirti)を抽出しなかった。

・参考文献からElgazzarを削除します。

はじめに

COVID-19の予防や治療にイベルメクチンが有効か否か、この問題を考えるために原著論文を読むことにしました。今回はイベルメクチンの予防や治療効果を検討したメタアナリシス論文を4本ご紹介します。

これらの論文は、今年3月、主に以下のサイトで、 ”Ivermectin” ”COVID-19” “meta analysis”というキーワード等を使って検索を行い抽出しました。

Pubmed
medRxiv

ResearchSquare
Googleschoolar

Google


メタアナリシス(メタ解析)とは?

ここで、meta analysis(メタアナリシス)について少しご説明します。
私自身、勉強を始めたばかりです。間違いがあれば是非ご教示ください。



COVID-19とイベルメクチンを例にすると、meta analysis(メタアナリシス)はこんな感じです。



①健康な人やCOVID-19患者にイベルメクチンを投与して、それぞれ、予防や治療に効果があるかないかを検討した論文を検索してリストアップする。


②「データの精度は高いか」や「バイアス(ざっくり言えば思い込み)は小さいか」などの観点から、複数人が独立して、それらをふるいにかける。


③これなら解析するに値すると判断した論文を持ち寄って精査し、解析する論文数をさらに絞り込む。


④最終的に解析に値するとした論文の結果を、統計的手法を使って総合的に解析して、予防や治療にイベルメクチン有効かどうかを判断する。



こうして執筆された論文がメタアナリシス論文(以下、メタ解析論文)です。



メタ解析論文 エビデンスの力は論文中で最高

以上のように、メタ解析論文は、複数人が、手間暇をかけて選び抜いた論文を総合的に解析した高品質の論文ということになりますから、複数ある論文形式の中で最もエビデンス力が高い論文形式と医療界では認識されているようです。



エビデンス力のランキングはこんな感じです(表1)。

画像1

ちなみに、医療界には、もうひとつ、EBMという考え方があります。「エビデンス(科学的根拠)に基づく医療(Evidence-Based Medicine: EBM)」というやつです。



このことは、最近、知りました。


表1とEBMが合体すると、エビデンスに基づく医療のためには、少なくとも、RCTによるエビデンス、できれば、メタ解析のお墨付きのあるエビデンスがなければいけない、という考え方が発生しそうです。



私たち市民はどう把握すべきでしょうか?



この論点は、とても大事ですし、ロースクールで学んだ「患者の自己決定権の法理」、日本国憲法13条、同25条、ヘルシンキ宣言、ニュルンベルグ綱領とも関係しますので、日を改めて書いてみたいと思います。

ランダム化比較試験、RCTって?


ここで、ランダム化比較試験ってなに? という話になりますよね。



そこで、ランダム化比較試験(randomized controlled trial、RCT)を説明します。



イベルメクチンの効果を確かめるには、以下のような手法が最も良いとされています。例えば、コロナ感染者2000人について2つのグループを作ります。Aグループ1000 人はイベルメクチンを服用するグループです。Bグループ1000 人はイベルメクチンではなく偽薬を服用するグループです。

そして、2つのグループの結果を比較します。



では、どうやってグループAとグループBを分けるのでしょうか?
医師が自分の好みによって分ける?
それとも、アルファベット順?



この時に、少しでも選別にバイアス(偏り)がないよう乱数表などを使ってグループ分けをする。これがランダム化です。一方、医師の都合や好みなどで分けるのは非ランダム化と呼ばれます。


そして、「非ランダム化試験で得られた結果に比べてランダム化試験で得られた結果の方が信用できる。なぜなら、イベルメクチン以外の何かが結果に影響する確率を下げることができるから」。医療界ではこう認識されているようです。


イベルメクチン メタ解析論文 4本発見


前置きが長くなりました。イベルメクチンに係る4本のメタ解析論文をご紹介します。(2021.3.21時点)。以下です。



①Castañeda-Sabogal A,  et al.
Outcomes of Ivermectin in the treatment of COVID-19: a systematic review and meta-analysis.


②Hill A,  et al.
meta-analysis of randomized trials of ivermectin to treat SARSCoV-2 infection.


③ Bryant A,  et al.
Ivermectin for Prevention and Treatment of COVID-19 Infection: a Systematic Review and Meta-analysis. 

④Kory P, et al.
Review of the Emerging Evidence Demonstrating the Efficacy of Ivermectin in the Prophylaxis and Treatment of COVID-19.



4本のメタ解析論文のスペックを整理してみました(表2)。

画像2

4つのメタ解析論文で結論が違うのはなぜ?



表2からわかるように、COVID-19に対するイベルメクチンの効果(統計上、有意差があるか否か)について、結論が分かれました。

メタ解析論文①は否定(正確には有効とするエビデンスはない、です)。メタ解析論文②③④は肯定です。

「えっ、なんで?」と思う方も多いのではないでしょうか。浮上する疑問はこんな感じかなと。



「最高の計算機で計算したら、計算結果は同じになるのに…」

「メタ解析論文は最もエビデンス力があるという話だったのに、なぜ結果が違うの?」



「まあ、いいんだけど、で、この場合は、どれを信じれば良いの? 」



ここである考えが浮かびます。多数決でいいんじゃないか、です。

そうなると、賛成3票反対1票ですから、イベルメクチン効果ありということになります。



良かった、良かった、とは、私の場合はなりませんけど、笑



私もいちおう研究者なので、論文①がなぜ有意差なしとしたのかも気になりますし、「ざっくり多数決でいいじゃないですか」なんて発言しようものなら、「それでも研究者か、恥を知れ」というお叱りを受けることは必至ですから。



そこで、なぜ結論が違うのかを考えることにしました。可能性は少なくとも2つあると思います。



(1)抽出した論文と抽出した治験結果は同じだったが、解析方法の違いで結果が異なった。これなら理解できます。


(2)そもそも抽出した論文と抽出した治験結果に差がある。こちらも理解できます。解析した論文/解析した治験結果が異なれば、解析方法が同じでも、結果が異なるのは不思議ではないですから。



そこで、この点を確かめることにしました。つまり、メタ解析論文①〜④の参考文献と表から、各々の論文が解析した抽出論文を抽出し、抽出した論文の共通性を比較しました(治験結果は省略します)。

共通する抽出論文は3本のみ 4つのメタ解析論文中


結果はこうです。
4本のメタ解析論文が抽出した論文の中で共通する論文は3本だけでした。具体的には以下です。


(1)Ahmed S, Karim M, Ross A, et al.
A five day course of ivermectin for the treatment of COVID-19 may reduce the duration of illness.

(2)Chaccour C, Casellas A, Blanco-Di Matteo A, et al.
The effect of early treatment with ivermectin on viral load, symptoms and humoral response in patients with non-severe COVID-19: A pilot, double-blind, placebo-controlled, randomized clinical trial.

(3)Podder CS, Chowdhury N, Mohim IS, et al

Outcome of ivermectin treated mild to moderate COVID-19 cases: a single-centre, open-label, randomised controlled study.



こうなると、なにしろ67%以上違うので「結果が違った理由は抽出論文の違いが原因かなあ」という気がしてきますね(表4も参照)。



同時に、(なんで、抽出段階でこんなに違ってくるんだろう? 特にメタ解析論文①②はほぼ同じ頃に公開されてるのに) という疑問も浮かんできます。このあたりがどうなっているのかも、おいおい調べてみたいと思います。

メタ解析論文①の解析結果 vs. 抽出論文自体の結論

もう1つ、気になったことがあります。

それは抽出した論文自体の結論はどうなっているんだろうか?ということです。



例えば、抽出した論文のすべてでイベルメクチン有効、メタ解析論文もイベルメクチン有効という場合があるでしょう。これはスッキリします。逆に、抽出した論文はすべて無効、メタ解析論文も無効。これもスッキリです。



しかし、抽出した論文はすべて有効と結論したのに、メタ解析論文が無効と判断した場合は。「えっ、なぜ?」と理由の説明を求めたくなります。


というわけで、イベルメクチンが有効という証拠はないとしたメタ解析論文①について各論文の結論とメタ解析論文①の結論を照合してみました。

結果を表3に示します(治験結果は省略します)。



画像4

表3から、例えば、イベルメクチン投与群と非投与群の間に有意差ありとした論文のすべてについて、メタ解析論文の著者らは論文の結論をそのまま受け入れてはいない、ことがわかります(効果あり、効果なしは、私が設定した基準。Low、Insufficientはメタ解析論文①の基準なので、あくまでざっくりした判定です)。

これは、なかなか興味深いですね。今回は間に合いませんが、もう少しメタ解析について勉強して、いろいろ考えてみたいと思います。



閑話休題



(各論文の著者らにとってメタ解析論文①の結論はすごく不本意だろうな)とは感じます。

なにしろ、「有意差あり」や「有意差あり。ただし、大規模治験は必要」とした自分達の結論を、実際に治験をしたわけでもない研究者にひっくり返されちゃったわけですから。



私がこの論文の著者なら、「苦労してまとめた俺たちの結果を否定したのか、ふざけんなよ」と反論する事態です、笑。



抽出された各論文の結論 有意差ありが圧倒的



最後に、効果ありと結論したメタ解析論文②③④が抽出した論文の結論を色分けして紹介しておきます(表4参照)。メタ解析論文①のデータも一緒に記載しました。セルの色の意味は以下です。



赤→有意差なし
。緑→有意差あり。黄緑→有意差あり。しかし、さらなる大規模試験を望む。

画像4

(2021/4/10追記: 私は有意差あり=臨床症状の改善と定義して、上記のように分類しましたが、Krolewiecki et al.(2020)らの目的はそもそも「コロナ患者に高用量IVMを投与した場合に抗ウイルス活性は得られるか?」で、結果は「高用量IVMの経口投与で濃度依存的な抗ウイルス活性を有意に確認」ですので、有意差なしに分類したのは不適切だったと思い直しまた。せめて色なしにすべきでした。この点ご留意ください。)

表4から以下のことがわかります。


(1) 有意差(効果)があったと結論した論文と大規模治験は必要だが有意差(効果)はあったと結論した論文が圧倒的に優勢(ただし、有意差(効果)のある論文の方が出版されやすいという事情があるので注意が必要です)。


(2) メタ解析論文②③④では、その結論と抽出した各々の論文の結論は概ね一致している。

(3)メタ解析論文①は他のメタ解析論文が抽出して解析した 7論文(Babaola, Chachar, Chowdhury, Elgazzar, Hashim, Niaee, &,Rabikirti)を抽出しなかった。



他にもいろいろとあるのですが、かなりの長文になってきましたので、今回はここまでとします。

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