夢の端20

アニメーションの世界にいた。
500平方メートルほどの大きな池を南に望む高台に立っている。
抜けるような青空、池の面も空を映し青く輝く。
風は吹かず、水面はまさに水鏡。
池の畔には木製の柵が廻り、その柵の近くには制服姿の中学生たち。
一クラス分の人数が集まっている。
僕は、彼らに自分の存在を気づかせねばならない。
大きな声で叫ぶ。
しかし、全く反応はない。
意を決し、高台から水面に向けダイブする。
水面すれすれのところで両手を広げると、僕は浮力を得ることに成功する。
グライダーのように、空を切りつけながら、何度も水面スレスレを滑空する。
その時に、中学生ではない別の誰かの声が耳に届く。
「少しでも水に触れて、存在をアピールしなきゃダメだよ。」
その通り。
僕は、一旦上空に舞い上がり、再び水面に向け滑空する。
水面に手を触れさせ、そのまま中学生たちに、水をかける。
さすがに中学生たちも僕の存在に気が付いた。

いつの間にか僕は、中学生たちがいたはずの畔に立っている。
そこからなだらかな起伏が続く遊歩道を東に向かって歩いていく。
その時、何やら香ばしい香りがあたりに漂い始める。
ここは屋外だろうか、それとも屋内だろうか。
見上げる半透明の広大な屋根が見える。
遊歩道沿いに、スチールの棚がいくつも並んでいる。
その棚には、いくつもの木箱が置かれている。
木箱の中には、小さな猫たちが収められている。
それはすべて黒猫。
すべての木箱に何体も積み重なる猫の死体。
しかし、特殊な防腐加工をされているのか、死体は全く腐敗していない。
さらに道を進んでいくが、そのスチール棚はどこまで行ってもなくならない。
道の左側から、かすかに猫の鳴き声が聞こえる。
まだ生きている猫もいるようだ。
しかし、その猫はすでに皮をむかれ、食用に加工されている。
苦痛を浮かべるでもなく、おとなしくしている皮をむかれた子猫たち。
さらに進むと、調理台の上に大きな寸胴鍋が並べられている。
その中には、きれいな桜色をした、子猫たちのむき身が入っている。
「この切り身、意外に小さいんだな。」と僕は思う。
例の香りはここから漂っている。道は、巨大な食品工場の中に続いており、僕はその中にいたのだ。
工場内には社員用の食堂がある。
食堂で僕は梅干し入りカレーを注文し食べる(レトルトを温めるタイプ)。
梅の香りが食欲をそそる。
しかし、最近起きた国際紛争&不景気の為、市場に出回る食料品はかなりの品目が制限されており、梅干しはそこにリストアップされている。
この、梅干し入りカレーのレトルトパックも、この食堂内に、あと43パックしか残されていない。

この彷徨の終点が、目前のこの白い部屋であることは、僕の頭の中では自明。
工場内のその白い部屋に僕は入っていく。
がらんと拾いその部屋の真ん中に、白いソファが置かれている。
そのソファには黒い手拭いで目隠しをされた女性が座っている。
30歳前だろう、黒髪のショートカット。
真っ白なロングワンピースを纏っている。
彼女に声をかける。
何かキーワードを伝え、そこから連想するものを答えてもらうことになっているようだ。。
僕はいくつか言葉を投げかける。
彼女はそこから連想するものを次々応えていく。
あ、そっか、僕は、この女性に、僕が誰かを教えてもらうために質問しているのだった。
見知らぬ女性、しかも目隠しをしているのに、僕のことを分かってくれるのだろうか。
いや、彼女は、僕のことをすでに知っているのではなかったか。
彼女の顔の輪郭が、固定されていくように見える。
確かに微笑んでいる。
間違いない、彼女は僕が誰かを知っている。
僕は目隠しを取る。
「ごめんね。いつものおじさんでした。」と僕。
「はい。うれしいです。」と彼女。
腕に触れる。
軽くハグをする。
この高揚感は、性的なものと全く無縁。
無くしたと思っていたものが、そこにあるだけで、どんなにうれしいことなのか。
例えば黒猫・・。

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