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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐ施設の清掃と消毒〜前編〜

※本記事は、執筆時点で、米国CDC(国立疾病予防センター)、厚生労働省、日本環境感染学会、全国ビルメンテナンス協会から発信された指針や情報をもとに作成しましたが、それぞれの公的機関の是認を得ているものではありません。新型ウイルスということもあり今後も最新の情報を注視しながら、随時アップデートされていくべきものとしてお取り扱いください。本稿の情報を信頼され、標準作業を定める場合は、ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

月刊『ビルクリーニング』編集部の比地岡と申します。はじめまして!

さて、今回ビルクリ編集部が発信する情報は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐ施設の清掃と消毒」についてです。

本企画を立案したのは、4月中旬。この頃、日本国内では新型コロナウイルスの感染者数がピークに達し、緊急事態宣言の対象区域が全国へと拡大されました。思い返してみると、信憑性のない情報がSNSなどで拡散され、日々、不安と恐怖に陥った時期でもあります。無数にある情報から正しいものを精査し、共有していくことがどれだけ大切なのか、新型コロナウイルスによって再認識しました。

そんな時期だったこともあり、一度、正しい情報を整理する必要があると感じました。特に、公衆衛生の一翼を担うビルクリーニング業界にとって、各施設の消毒、除菌作業は欠かすことができません。正しい情報と知識を身につけることが何よりも重要です。

また、当時は消毒作業の目安となるガイドラインや作業マニュアルが見当たりませんでした。

そこで、米国疾病予防センター(CDC)のガイドラインや厚生労働省、日本環境感染学会、全国ビルメンテナンス協会といった公的機関の情報を整理しました。そこに、今回の執筆者であり、ビルクリーニング編集委員の一人でもあるクリーンクリエイターズラボ・代表 栢森 聡氏にご尽力いただき、清掃のプロが参考にする「消毒作業マニュアル作成の手引き」が完成しました。

まず、

①作業上のリスクの選定
②基本となる作業手順の把握
③リスクに応じた作業の選択
④作業にあたっての注意事項
⑤保護具や消毒剤の理解


という流れで解説していきます。

なお、基本的に医療施設は、感染制御の専門家である医師や看護師の指示に従って作業を行うと思いますので、本稿では主にそれ以外の一般施設を対象に作業を行うことを前提としています。

それでは、以下からは栢森氏にバトンタッチしたいと思います。

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クリーンクリエイターズラボ 代表
栢森 聡

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、いまだ感染者・死亡者の増加がなかなか収まらない状況が続いており、ビルメンテナンス業界にも消毒作業の依頼が増えています。このウイルスは既存のコロナウイルスに類するとはいえ未知のウイルスであり、十分な実態解明がなされていないため、清掃スタッフにとって作業上のリスクをどのように想定して作業を行うのが適切なのか、どのような薬剤を使用してどのような手順で作業を行えばよいのかわからず、現場ごとの標準作業を定めることに苦労されているように思います。

このウイルスに対する抜本的な対処策は、医学・感染症学・薬学界などの専門家によって徐々に解明されていくのでしょうが、まずはビルメンテナス業者が作業を行ううえでの「判断材料」を提供するための情報整理を行うこととしました。これをベースに各社・各現場の実状にあった作業マニュアル作成にご活用いただけることを期待します。

本稿では、清掃スタッフの安全を守りながら作業を行うことが大前提であることから、最初に感染予防に関する基礎知識を解説しています。続いて、米国CDCから発信されている「施設の清掃と消毒(Cleaning and Disinfecting your Facility)」を基調に、厚生労働省、日本環境感染学会、全国ビルメンテナンス協会などから提供されている情報を織り交ぜることで、現場の状況に応じて選択できるよう工夫しました。

▼米国CDC(国立疾病予防センター)「Cleaning and Disinfecting your Facility(施設の清掃と消毒)」

【1】感染対策の基礎知識

厚生労働省ホームページ「感染対策の基礎知識」より一部抜粋して説明します。

▼厚生労働省「感染対策の基礎知識」
https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf

感染成立の3要素と感染対策

感染症は、次の3つの要因が揃うことで起こります。したがって、感染対策においてはこれらの要因のうち一つでも取り除くことが重要です。特に「感染経路の遮断」は、感染拡大防止のためにも重要な対策となります。

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感染経路の遮断

基本は、次の3項目です。

(1)病原体を持ち込まない
(2)病原体を持ち出さない
(3)病原体を拡げない

そのためには、具体的に以下の点に留意しましょう。

<接触感染対策(経口感染を含む)>
・施設内に入るときと出たとき、流水による手洗いと手指消毒
・作業に入る前と後、流水による手洗いと手指消毒
・作業中、血液、体液、排泄物等に触れるとき、マスクと手袋を着用
・感染性廃棄物を取り扱うとき、マスクと手袋を着用
・手袋を外したとき、手指消毒

<飛沫感染対策>
・咳やくしゃみ等を防ぐため、マスクを着用
・血液、体液、排泄物が飛び散る可能性があるとき、マスク、フェイスシールド、ゴーグル、エプロン、ガウンを着用

これらの内容は、米国CDCが提唱した標準予防策(スタンダード・プリコーション:Standard Precautions)に基づいており、「すべての人の血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜等は感染源となり、感染する危険性があるものとして取り扱わなければならない」という考え方です。これは病院の患者だけを対象としたものではなく、感染予防一般に適用すべき方策であり、日本でも定着しています。

清掃と消毒の関係

清掃と消毒の違いを理解していれば、より効果的に感染リスクを下げることができます。

<清掃>
清掃とは、雑菌や汚れ、不純物を除去する行為(目に見える汚れを拭き取ることなど)です。

<消毒>
消毒とは、化学物質を使って、病原性のある微生物を死滅・除去させて害のない程度にする行為(ブリーチの散布など)です。

先に清掃をしてから消毒することで、感染リスクを低減することができます。洗浄の機能を持った消毒剤もあります。逆に、消毒剤の選択や作業方法によっては、汚れが除去されていないと、所定の消毒効果が得られないものも多いので注意する必要があります。

【2】リスク分類と作業方法の決定

感染リスクの程度に応じて作業方法を分類して、作業方法を決定するべきですが、リスクが高いか低いかを感覚で分類することは望ましくないので、下記のように感染の確実性とだれがどこで消毒作業するかをマトリックスにして分類しました(下表参照)。

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【リスクA】
(医師、看護師、ビルメンテナンス業者などによるチーム)によって作業方法が決定されるべきと考え、本誌では割愛し、ICTの判断に委ねることとしました。
新型コロナウイルス患者以外の患者も多いこともあり、専門知識の高いICT(医師、看護師、ビルメンテナンス業者などによるチーム)によって作業方法が決定されるべきと考え、本誌では割愛し、ICTの判断に委ねることとしました。

【リスクB】
感染が確実な施設(PCR検査で感染陽性と診断された患者、自覚症状がある人、感染者と濃厚接触が疑われる人がいる場合など)では、ビルメンテナンス業者は、保健所の指導のもと、オーナーと話し合って作業方法を決める必要があります。

【リスクC】
自己管理主体の施設も、他人との接触頻度が低いとはいえ、感染が確実視される場合は、【リスクB】に準ずるべきであり、一時的にでも専門的な知識や経験を有する清掃業者に委託してリスクを最小化することを強く推奨します。

【リスクD】
感染が不確実な施設(自覚症状がないすべての人が利用する施設)では、オーナーとビルメンテナンス業者で作業方法を決めることになります。上述の標準予防策に従うことは必須です。ただし、新型コロナウイルスでは、自覚症状がない人から感染するケースが多々あるようなので、適切な頻度を定めて、【リスクB】に近い作業方法をできるだけ採択することが望まれます。そのためにも全ビルメンテナンス業者は、感染対策清掃に関する知識と作業スキルを高めておく必要があります。

【リスクE】
感染が不明確な施設を各自管理している場合も、【リスクC】に準じて清掃及び消毒作業を行うことが推奨されます。ただし、専用の薬剤の入手が困難だったり、作業時間が取れないなどの課題もあるため、市販の薬剤でもよいので、少なくとも上述の標準予防策に従っておくことが望まれます。少なくとも、手洗いを徹底し、マスクや手袋などの保護具を用いて、こまめに清掃することが望まれます。

【3】施設の清掃と消毒に推奨される方法~キレイにしてから消毒する方法~

1. 標準的作業手順

ここではまず、リスク分類【リスクD】(すべての人が利用する施設)の標準的手順について示します。すべての基本となる手順です。次に続く2〜4には、いくつかの対象物について注意事項を示しています。

①作業中は、可能な限り換気します。

②標準予防策に従い、石鹸と水で20秒以上手をこすり合わせて手洗いします。手洗いできない場合でも、少なくとも60%のアルコールを含むアルコールベースの手指消毒剤を使用して手指を消毒します。

③使い捨ての手袋を着用して、使い捨てのペーパータオルで清掃して消毒します。

④清掃は、水希釈した洗剤を使用して表面をきれいにします。頻繁に触れる表面を定期的に清掃します。
⇒頻繁に触れる面には、テーブル、ドアノブ、ライトスイッチ、カウンタートップ、ハンドル、デスク、電話、キーボード、トイレ、蛇口、シンクなどがあります。

⑤次に、消毒剤を使用します。(米国CDCではEPA登録の消毒剤を推奨しています。)
ラベルの指示に従って、製品を安全かつ効果的に使用してください。
⇒多くの製品には、一定時間表面を消毒剤で湿らせておくこと、手袋を着用すること、製品の使用中は換気を十分に行うなどの注意事項を示しています。

⑥適用可能な表面であれば、市販のブリーチ(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を希釈して使うこともできます。表面に溶液を少なくとも1分間接触させます。
⇒ブリーチが消毒用であるかどうかをラベルでチェックし、製品の有効期限が切れていないことを確認してください。着色された衣服で安全に使用するため、または美白のために設計されたものなど、一部のブリーチは消毒に適さない場合があります。消毒に効果があるのは希釈してから24時間以内ですが、使用方法と適切な換気については、製造元の指示に従ってください。また、ブリーチをアンモニアや他の洗剤と決して混ぜないでください。

⑦消毒用に、少なくとも70%のアルコールを含むアルコール溶液も使用できます。

⑧手袋を外して、廃棄します。

⑨標準予防策に従い、石鹸と水で20秒以上手をこすり合わせて手洗いします。手洗いできない場合でも、少なくとも60%のアルコールを含むアルコールベースの手指消毒剤を使用して、手指を消毒します。

2. 柔らかな表面の場合

・カーペット敷きの床、敷き物、カーテンなどの柔らかい表面には、希釈した石鹸を使用して、またはこれらの表面での使用に適したクリーナーを使用して、表面を清掃します。

・可能な場合は、メーカーの指示に従って対象物を洗濯します。適切な温風機を使用し、対象物を完全に乾燥させます。

・またはEPA登録の消毒剤で消毒します。

3. エレクトロニクスの場合

・タブレット、タッチスクリーン、キーボード、リモコン、ATMマシンなどの電子機器などが対象ですが、拭き取り可能なカバーを電子機器に付けることを検討してください。

・洗浄と消毒については、製造元の指示に従ってください。

・ガイダンスがない場合は、少なくとも70%のアルコールを含むアルコールベースのワイプまたはスプレーを使用してください。表面は完全に乾かします。

4. ランドリーの場合

・衣類、タオル、リネン、その他のアイテムなど、メーカーの指示に従って洗濯します。最も適切な温水設定を使用し、アイテムを完全に乾燥させます。

・病気の人の汚れた洗濯物を扱うときは、使い捨て手袋を着用し、他の人のアイテムと一緒に洗うことができます。汚れた洗濯物を(無造作に)振らないでください。

・手袋を外し、すぐに手を洗います。

次回は、リスク分類の【リスクB】と「屋外エリアの洗浄と消毒」「作業にあたっての注意事項」などを解説していきます。

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著者プロフィール:月刊『ビルクリーニング』編集部

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月刊『ビルクリーニング』編集部
株式会社クリーンシステム科学研究所

http://www.cleansys.co.jp/

1988年7月、ビル清掃業界で唯一の専門雑誌『ビルクリーニング』。毎月、実際の清掃現場を取材し、「清掃スタッフのための技術情報マガジン」として現場情報や使用資機材紹介、スタッフ教育に欠かせない危険予知訓練、現場責任者を育成するマネジメント講座など、他にも清掃業界の最新トピックスを発信中!

近年は、オフィスビルなどを中心に導入が進んでいる清掃ロボットやICT・IoTを活用した事例も追い、業務の省力化・効率化についての記事掲載も行っている。

今回執筆:編集チーフ 比地岡 貴世
二十歳から編集プロダクションで雑誌制作の下請け業務をこなし、2015年4月にクリーンシステム科学研究所に入社。当時は、清掃業の経験や知識などは皆無だったが、この5年間で100以上のビルメンテナンス企業、クリーンクルー、清掃現場を取材し、月刊『ビルクリーニング』制作の実務を担当。

著者プロフィール:栢森 聡

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栢森 聡
クリーンクリエイターズラボ 代表

業務用洗浄剤・資機材などの総合メーカーにて、15年以上にわたりプレーイング&マネジャーとして、研究とマーケティングの両面から商品開発を行い、施設管理用の商品や清掃システムを導入。その間、日本フロアーポリッシュ工業会の技術委員長を4年務め、表面洗剤の規格化などを実現。中立的立場で、現場に適した清掃を実現する新たな価値提案を行うことにより「清掃のファン」を増やしたいとの想いから独立し、2020年コンサルティング事業を主とする同社を設立。清掃と衛生管理の「なぜ?」を解説することに力を注いでいる。