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職場にロボットがやって来る~おもしろく、ためになるロボット小史~(前編)

これまで、清掃ロボットについてのトピックスをこのnoteに書き留めてきましたが、そもそも、ロボットの歴史とはどうなっているのか?このあたりについては、過去の『ビルクリーニング』誌で触れておりましたので、今回はその号についてご紹介させていただきます。

※本記事は、1994年8月号の月刊『ビルクリーニング』の特集「清掃ロボットが動き出す」を参考に、再編集、執筆したものです。

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ロボットの語源は無賃労働

「ロボット」という名称は、20世紀に誕生した。

20世紀初頭、すし詰め状態の電車に揺られながら、劇作家のカレル・チャペック(1890~1938)は、「これでは人間というより機械だ。個性がなく、働くことはできても考えることはできない機械のような人間たちだ」と嘆き、こうした人たちのことをチャペックは、英語の「Labour」(=労働)に由来した”ラボル”と名付けた。

チャペック本人は、”ラボル”という名称にしっくりきておらず、画家である兄のヨゼフに相談したところ、「じゃあ、ロボットと呼ぶんだね」と答えたという。チェコ語の「無賃労働」を意味する「robota」から「a」を取った語幹だった。

1920(大正9)年、チャペックは戯曲として『R.U.R』(Rossumovi univerzální roboti:ロッサム万能ロボット会社)を発表し、その翌年には初演も行われた。日本でも「人造人間」「ロボット」というタイトルの翻訳本が出て、築地小劇場で上演もされたという。

別の「ロボット」が続々登場!

1926(昭和元)年秋、別の「ロボット」と呼ばれるものが出現する。それは、アメリカで開発された「テレヴォックス」(televox)と言われる、電話を使った遠隔操縦装置だった。

これを紹介するニューヨークタイムズの特別記事には、直方体を立てたキャビネットの上に少し小さめの立方体のキャビネットを重ねた実際の装置の写真を掲載。その働きを紹介するイラストには、実際の装置にない手足が描かれていたという。

翌年(1928年)、この装置はワシントン祭で除幕式を執り行ったときに登場した。手足はもとより、その外観はより人間に近いかたち、金属でできた四角いおもちゃのロボットの原形に改められていたという。

このテレヴォックスは「ロボットに一番近い」と特別記事に書かれたことで、チャペックが考案したロボット、すなわち労働はするが、その姿は人間と見間違うばかりだったものが、いつの間にか電力と四角い金属の姿へと、ロボットのイメージは変わっていった。

ときは同じくして1928(昭和3)年、日本最初の電動ロボット「学天則」が誕生。ヨーロッパでもしゃべるロボット、二本足で歩き人間の声に答えたりできるロボットが年を追うごとに次々と作られていった。

こうした時代背景に警鐘を鳴らしたのが、アメリカの小説家アイザック・アシモフ。ロボットは勝手気ままにふるまってはならないという「ロボット三原則」を作った。

第1条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。
第2条:ロボットは第1条に反しない限り人間の命令に従わなくてはならない
第3条:ロボットは第1条・第2条に反しない限り自分を守らなくてはならない

人間とロボットが共存するための原則を明示したもので、その後のロボットの考え方に大きな影響を与えたとも言われている。

工場ラインに欠かせない産業用ロボットの誕生

ロボットの歴史のなかで大変革と言われるのが1962(昭和37)年。アメリカにおける実用的なロボット「産業用ロボット」が誕生した。

どれも作業に必要な部分のみ、つまり柔軟な腕だけで構成されていた。これを紹介する技術雑誌の記者が「産業用ロボット」という名称をつけたと言われているが、「人間のかたちとは似ても似つかぬものをロボットと呼ぶべきではない」と異論を唱える人もいたという。

しかしながら、産業用ロボットが世に送り出される勢いは、そんな異論をはるかにしのぎ、定着していった。

アメリカで開発された産業用ロボットを日本が導入したのが、1967(昭和42)年。そして、またたく間に日本は群を抜いて世界最大のロボット生産・保有国にのし上がる。

当時の日本は高度成長時代であり、製造業における労働力不足には格好のモノだった。しかも、日本のロボット製造企業というのは、日本を代表するような大企業が多く、一方、アメリカのロボットメーカーは、産業用ロボットがまだ登場して間もないころは、ベンチャービジネス的な中小企業が主体だった。

日本はまた、技術革新に対し楽観的、積極的という社会的背景もあった。ところが、第一次産業革命の労働者の苦い経験を知っているヨーロッパでは、事情が少し違う。

例えば、ドイツでは、1980年代初頭にロボット導入の可否を問う調査をしたところ、導入に賛成はわずか数パーセント。しかも若年層に特に反対が多く、ドイツ政府もショックを受けたという。

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前編はここまで、後編は近日中に、以下の内容でお届けします。

・身の回りで活躍するロボット
・清掃ロボット登場する
・ロボットとの共存をめぐって

お楽しみに!

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著者プロフィール

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月刊『ビルクリーニング』編集部
株式会社クリーンシステム科学研究所

http://www.cleansys.co.jp/

1988年7月、ビル清掃業界で唯一の専門雑誌『ビルクリーニング』。毎月、実際の清掃現場を取材し、「清掃スタッフのための技術情報マガジン」として現場情報や使用資機材紹介、スタッフ教育に欠かせない危険予知訓練、現場責任者を育成するマネジメント講座など、他にも清掃業界の最新トピックスを発信中!

近年は、オフィスビルなどを中心に導入が進んでいる清掃ロボットやICT・IoTを活用した事例も追い、業務の省力化・効率化についての記事掲載も行っている。

今回執筆:編集チーフ 比地岡 貴世
二十歳から編集プロダクションで雑誌制作の下請け業務をこなし、2015年4月にクリーンシステム科学研究所に入社。当時は、清掃業の経験や知識などは皆無だったが、この5年間で100以上のビルメンテナンス企業、クリーンクルー、清掃現場を取材し、月刊『ビルクリーニング』制作の実務を担当。