青空と土のリングに血と拳の祝祭を見た

TwitterのTLで知って最近ハマっているSTRELKA。時間さえあれば永遠に観続けていられる。

STRELKAは、ロシアを拠点に、ショッピングセンターの駐車場とか、団地の脇の公園みたいな場所とかに土を敷き詰めた粗末なリングを設置して、技術的にはほとんど素人同然の男たちが殴り合うストリートファイト団体だ。

ルールは最小限、一応ユニファイドルールをベースにはしているっぽいけれど、時間無制限・判定なしの完全決着ルールを謳っている。ただ、何試合か観てきてわかったのは、そのハードコアな字面とは裏腹にものすごく(アバウトにだけど)安全に気を遣ってオーガナイズされている。ちょっとでもヤバそうだったらすぐに休ませるし止める。

▲「これはSTRELKAだ。多少ルールもある」

そして、出場する男たちは気持ちよく殴り合って(結果はどうであれ)ああ楽しかったっていう顔をして帰って行く。最高だ。

▲なんて和やかな殴り合いなんだ。本当に観ていて幸せな気持ちになる。

どの試合でもだいたい、選手がそれぞれ試合の前後にマイクを渡されて喋るのだけれど、それにもとても味がある。「この人普段はどんな人なのかな」って彼らの生活を思いを馳せる。この試合では片方が「俺は錠前屋なんだけど、この大会って錠前屋とか溶接工とか建築屋とかしかいないな」ってブルーカラージョークを言っていてそれもとてもよかった。

どういった手段で出場選手を募っているのかわからないけれど、観ている限りでは祭りの余興の腕自慢大会に近い印象がある。ドサ回りのリングがある日おらが街にやって来て、腕試しに出てみては同じようにつかの間の非日常を楽しむためにリングに上がってきた知らない男と殴り合う。勝てばそれはそれで価値はあるけれど、負けても出るだけで楽しい、きっと。

▲冒頭で挨拶しているミハイル・マリューティンは10年くらい前にM-1 CHALLENGEとかRing of Combatとかに出てた選手。

素人だからどうしても3分前後でガス欠になってしまう選手が多いのだけれど、この試合もそうで両者フラフラになりながら打ち合って最後は続行不能でドロー裁定になってしまう。判定なしじゃなかったのかよなんて野暮なことは誰も言わない。気持ちのこもった試合を見せてくれた男たちを心底讃えている。

試合そのものもよかったのだけれど、モヒカンの選手が試合後にいいことを言っていて、それに思わずグッときてしまった。

たぶん日露話者の有志が日本語字幕を付けてくれているのだけれど、翻訳がけっこう怪しいので敢えて意訳するとこんな言葉だ。

「いま試合を観てくれた若い少年たちに言いたい。恐れるな。リングに上がれば自分に自信が付く。お前たちにも必ずやれるはずだ」

ここで彼が言っているのはおそらく、即物的な意味での「リング」だけを指してはいない。客観的には、彼がしたことは草格闘技のリングに上がって3分ちょっと戦っただけのことだ。たったそれだけのことでも、たったそれだけだからこそ価値がある。踏み出したその一歩は決して無駄にならないということを言っている、と俺は解釈した。歩くのもひと苦労なくらいフラフラになった上で出てきた言葉には真に迫るものがある。

そして、どの試合でもみんな終わったあとスパシーバって言うのだけれど、それも本当に心から言っているのがわかる。オーガナイザーに、対戦相手に、観客に、リングサイドの友人や家族や恋人に。このみすぼらしくも美しいリングには、敗者などいない。

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