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「Will The Circle Be Unbroken」のこと

クリスマスの夜にTwitterで、The Wonder Stuff の「Will The Circle Be Unbroken」は個人的にはクリスマスソングだと思っている、という主旨のツイートをした。

「アレンジ云々」の話をしたのは、これがカバーソングであることをもちろん知っていたからなのだけれど、にもかかわらず「原曲が何であるか」を知らないということに気が付いた。

ならば少し調べてみるか、と思い立って検索してみると、想像していたよりもなかなか興味深かったので備忘も兼ねて書いておく。

原曲が作られたのはもう100年以上も前、1907年のことで、原題は「Will The Circle Be Unbroken?」。Ada R. Habershonという女性が作詞し、Charles H. Gabrielという人物が作曲したもので、賛美歌として作られたものだった。

元々賛美歌だということは教会で歌われる曲なわけで、そういう意味ではクリスマスに歌ってもしっくりくるのは当然といえば当然のことだ。

ところで原曲の歌詞は、サビ(の大部分)を除いては、現在多くのアーティストによってカバーされるバージョンとは大きく異なっている。

パブリックドメインなので歌詞の全文を以下に転載する。

「Will The Circle Be Unbroken?」

There are loved ones in the glory
Whose dear forms you often miss.
When you close your earthly story,
Will you join them in their bliss?

Will the circle be unbroken
By and by, by and by?
Is a better home awaiting
In the sky, in the sky?

In the joyous days of childhood
Oft they told of wondrous love
Pointed to the dying Saviour;
Now they dwell with Him above.

You remember songs of heaven
Which you sang with childish voice.
Do you love the hymns they taught you,
Or are songs of earth your choice?

You can picture happy gath'rings
Round the fireside long ago,
And you think of tearful partings
When they left you here below.

One by one their seats were emptied.
One by one they went away.
Now the family is parted.
Will it be complete one day?

前述したように「サビの大部分」は現行のものと共通しているが、現行のバージョンでは2行目の「By and by」、4行目の「In the sky」の繰り返しの間に「Lord」を挟むのが通例で、原曲にはそれがない。

聞き比べてみるとわかるのだけれど、この「Lord」の有り/無しで歌いやすさが格段に違うのは明らかで、これは発明と言ってもいいと思う。

ではこの「Lord」がいつ挟み込まれたのかというと、時代はちょっと下って1935年、アメリカのファミリー・カントリーバンドCarter Familyが「Will The Circle Be Unbroken?」を下敷きに「Can The Circle Be Unbroken」という曲をリリースしている。

サビの「Lord」のみならず、全体の歌詞も大胆にガラッと変更しており、曲調もカントリーソングとして整えられていて、以降のカバーの多くはこの「Carter Version」を元にしていくのだけれど、面白いことに曲名だけは一部先祖返りを起こして「Will The Circle Be Unbroken」として定着している。(ただ、この歌詞をCarter Familyが書いたのかどうかはよくわからない。もしかしたらそれ以前からこの歌詞で歌われていたのかもしれない)

様々なアーティストが「Carter Version」の「Will The Circle Be Unbroken」をカバーしているが、中でも定番として知られるのがアメリカのカントリーバンドNitty Gritty Dirt Bandが1972年にリリースした同名のアルバムに収録されたもので、この記事トップの画像はそのジャケットだ。

このアルバムには当時のカントリー界のそうそうたる面々がゲストプレイヤーとして参加したということなのだが、中でもCarter Familyのオリジナルメンバーである"Mother" Maybelle Carterが参加したこともあってか大ヒットを記録して、スタンダードとなったということらしい。

「Carter Version」のカバーとしては、Nitty Gritty Dirt Band以前にもJohn Lee Hooker(1961年)、Bob Dylan(1967年)、Joan Baez(1969年)のものもあるし、それ以降となるともはやどれだけあるのかもよくわからない。(ちなみにギター、ベース、ドラムというバンド構成で演奏したのはJohn Lee Hookerが最初のようだ)

同じ「Carter Version」を歌っていても、人によって歌詞の順番が変わったり省略されたりして曲の長さがまちまちになるのも面白いところだ。

さらに別のバージョンとしては、1988年にフォークシンガーの Cathy Winter, Betsy Rose, Marcia Taylorが発表したものがあって、これも歌詞が変えられている。(本人たちの動画を見つけられなかった。でもこのゴスペルアレンジは滅茶苦茶カッコいい)

もちろん、数はあまり多くないが原曲のカバーもあるようで、これはつい最近、2016年のもの。これはこれで味がある。


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