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長い旅のはじまり

2022年8月9日に、子どもが生まれました。
産後4日目〜退院日までの記録です。

8/12 産後4日目
昨晩は、はじめて一晩中赤ちゃんと同室に。5時までに2回ほど起きた。眠りが浅いのか、赤ちゃんがギャン泣きする前に目が覚める。そして変な夢ばかり見る。今朝は夫がサークルの同期や先輩を家に招いてパジャマパーティをしていた。

赤ちゃんの泣き対応は慣れてきたけれど、授乳の姿勢がどうにも難しい。肩首背中がバキバキに凝っているのは、やはりどこか無理があるのだろう。お乳をあげた後、時間をかけてストレッチしないと体がほぐれない。試行錯誤だなぁ。  

昨日母乳指導をしてくれた助産師さんに、授乳のやり方を改めて見てもらった。クッションのかさ増しの仕方など工夫して、少し肩の力を抜けるようになったかも。この助産師さんは、ほかのささいな疑問にも丁寧明確に答えてくれて、赤ちゃんのペースにも、母親にも寄り添ってくれる。素敵な方だなぁと思った。赤ちゃんの名前を、コットについているネームプレートに書いてくれたりも。小さなことだけど、とても嬉しい。

この日は育児指導と沐浴練習があった。一通り沐浴をやってみたけど、家できちんとできるかは不安だな…。

赤ちゃんと過ごしていると、語彙が「かわいいねえ」とか「じょーずだねぇ」とかだけになってくる。このままでは育休後、きちんと人間の言葉をしゃべれているかあやしい。さすがにまずいと思って、ポッドキャストでいろんな番組をダウンロードしてみた。

夜、少し夫と電話をした。声を聞いてうれしくなる。わたしの留守中にも、ちゃんとごはんをつくって食べているようで何より。退院する日の段取りなどを確認。

8/14 産後5日目
なかなかしんどい夜だった。

0時ごろにミルクをあげたけど、なぜかあまり飲んでくれず…。30〜1時間おきぐらいに赤ちゃんが起きてしまうので、全く休めない。少しうとうとしては、また変な夢ばかり見る。夢の中では夫がナース服を着ていたり、夫とケンカして一人で赤ちゃんを抱いて帰ったり、いろんな妄想が繰り広げられていた。

赤ちゃんのフギャフギャ言う声で、何度もすぐに目が覚める。そうすると、だんだん頭の芯がしびれてくる。体がバキバキに固まる。心も折れそうになる。よっぽど顔に出ていたのか、助産師さんに「つかれてないですか?預かりましょうか?」と何度も聞かれたけど、一度辛さも知ってみたいと思って頑張ることにした。

オムツを替えても、お乳をあげても、抱っこしても泣き止まないときがあって、困っていたら、助産師さんにお腹空きすぎだと言われ、ミルクをあげたら勢いよく吸いついた。一瞬だけど、赤ちゃんがかわいく思えない瞬間があることも、はじめて知った。その後はよく寝てくれて、3時間ほど眠る。

これから先、何度こんな夜が来るのだろう。

赤ちゃんはよく眠る子で、日中はあまり泣かない。というか、授乳の時間になっても寝ているので、起こさないといけないくらい。お乳を飲みながら眠り、ミルクを吸いながら眠り、げっぷをしては眠る。足の裏をくすぐったり、口の端をちょんちょんしたり、「起きてー」と呼びかけながら授乳。かわいいけれど心配になる。

今日体重を測ってみたら、一回につき10gと十分な量の母乳が出ているらしい。よかった。でも退院してから、どんなペースでお乳をあげたらいいのか、いまいちわからないなー。

そして昨日に引き続き、沐浴の練習。着替えの間はずっと泣いているけど、終わった後のホカホカツヤツヤな顔は満足げで、本当にかわいい。こういうときの赤ちゃんは、大切な存在の象徴、みたいだ。

夜は1時ごろまで頑張って授乳したけど、明日に向けて体調をととのえようと思い、朝まで預けることにした。こうやって好きなときに預けて、好きなときにお世話ができるなんて、いましかないしね。  

明日はいよいよ退院。
この子は長崎の原爆の日に生まれて、終戦の日に退院する。そしていまのいま、世界では戦争が起きている。この子の生きる世の中が、平和でありますようにと願わずにはいられない。

8/15 退院日
いつか出産のことを思い出すとしたら、たぶん出産の日よりも、今日のことを思い出す。

いや、きっと赤ちゃんのお世話に忙殺されて、振り返る余裕もなくなるだろうけど、断片でも思い出せたらいいなと思う。

小さな小さな赤ちゃんをチャイルドシートに乗せて、家に帰る。その道中、赤ちゃんはずっとおとなしく寝ていた。

「かわいい〜…」家に着いてベビーベッドに寝かせるなり、夫はベッドに張り付いて赤ちゃんを見ていた。午後の光が窓から優しく差し込んで、赤ちゃんはまるで発光しているようだった。

夫はじめての抱っこ。力が入っていてぎこちない腕。はじめてのオムツ替え。「なんでいま撮影してないの!!と母・お義母さん・わたしの3人から怒られるお義父さん。はじめてのミルクづくり。そして、はじめての沐浴。2人であたふたしながらどうにか終えて、「あはは、こりゃ重労働だ」と顔を見合わせて笑う。

夜。おそれていた「眠れない」という状況がやってきた。3時間おきの授乳タイム。わたしが母乳をあげている間、夫がミルクをつくる。1時間ほどかけて授乳を終えると、哺乳瓶の消毒。その繰り返し。これが毎日続くのかと思うと、気が遠くなる。でも、赤ちゃんは待ってくれない。ちょっと休みたいとか、何時まで寝てほしいとか、こっちの希望なんてお構いなし。周りの大人をみんな巻き込んで、生きようとしている。それにいちばんに応えないわけにはいかないのが、親なのだ。

そして親であることは、この先何十年も続いていく。赤ちゃんが赤ちゃんでなくなり、小学校に上がり、義務教育を終えても、社会人になっても、結婚しても、ずっと子どもは子どもで親は親なのだ。わたしたちは、なんて長い旅をはじめてしまったのだろう。

今日が、その長い旅のスタート地点。
赤ちゃんのいる暮らしが、はじまった。

毒にも薬にもならない文章ですが、漢方薬くらいにはなればと思っています。少しでも心に響いたら。