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短歌 2021年

どうしても一人でいたい夜がある
午前零時のサングリア

手のひらで太古のときを閉じ込めた
アンモナイトはきゅるきゅると鳴く

布越しの風ではなくて
本当の風が吸いたい胸いっぱいに

ときどきはマスクをはずし風を吸う
世界の匂いを思い出すため

書道でもするかのような美しい
フォームで納豆をまぜる君

何にもない何にもないと呪いのごとく
ささやく声をほどく友あり

コーヒーの香りの空気を吸い込んで
バナナを食べるそれだけの朝

する前にわざわざお湯で手を洗う
律儀な君の背中の匂い

ここが痛い君は私のかさぶただった
もとから人は傷ついていて

君に来た朝と私に来た朝の
何が同じで違うのだろう

「およめさん」慣れぬひびきを転がして
新しい家族写真に映る

昨晩は夫の頬にくちづけた
その唇で上司に詫びる

伝えたいことは口からこぼれ落ち
花や風の言葉のみ知る

会うたびに髪型変わる母がいて
白髪の増える父がいる

心の底に小さな穴がひとつあり
するするする、と錨をおろす

夫婦でもわかりあえない一晩の
これは成長痛ですか

●番外編 俳句

金色の光をたたえ福寿草

芍薬のほどける速さ水吸う力

毒にも薬にもならない文章ですが、漢方薬くらいにはなればと思っています。少しでも心に響いたら。