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カウンター越しに見えた大将の膝

今年の一月に突然始まった
「KK制作お笑いライブ」が

なんだかんだ毎月開催されることになり

ほぼ毎回出させてもらった。


事務所の先輩スゴロクズが
このライブの制作の方と知り合いということで

そのスゴロクズさんとスゴロクズさんの同期のマスオチョップさんと

どのつてでこのライブに出ることになったのかわからない
下町ミュンスターさんの3組が
毎回中心となってこのライブが開催されていた。


不思議なもので、

決して明るくないこの人たちが中心にいたからこそ

僕は毎回このライブを楽しめていたのかもしれない。


岩陰に隠れて泥をすすりながら好機をうかがっている雰囲気が好きだった。


今年最後のKKライブは総勢22組が集結して

各回で上位に入った組が集めらたのでそれはそれは面白いひとばかりの出る濃密ライブだった。
(まず、毎月のKKライブ自体がハイレベルだったけど・・・)


このライブに今まで出ないけど、
出てたらどうせ入賞してたでしょうという特別枠で

おもしろ荘優勝のエイトブリッジさんと
キングオブコントファイナリストのクロコップさんが出場した。


ライブ会場に
僕の軍団長であるエイトブリッジ篠栗さんが現れ、
僕が挨拶しに行くと開口一番
「お前、このライブが終わったら手首洗って待っとけ。」

そう言い残してズカズカとまだ楽屋の奥へと消えていった。

たしかにこの冬は乾燥していて風邪のはやりやすい季節だから

手洗いは手だけじゃなくて手首まで入念に洗いなさいという

ありがたい注意喚起だ。


ライブの結果はお見事、エイトブリッジさんは期待に応え準優勝。

優勝は強かった。めちゃくちゃ面白かった。見事だった。
クロコップさんだった。

三位は安定してこのライブの中心で基盤を作っている
マスオチョップさん。

 実は準優勝は同票でもう一組いて、
それが「ポテトカレッジ」だった。

この猛者たちをおさえて二位に食い込む剛力具合。


実は先月のKKライブでこのポテトカレッジさんに初めてお会いして、

僕は久々に興奮した。

ビジュアルもさることながら、言葉のパンチ力、スピード、度胸、

「こいつら!!ただものじゃねえ!!」

と思ったのですぐに自分たちの主催企画ライブに声をかけて
運よく出てもらえた。


そんなポテトカレッジと競り合い見事準優勝した
エイトブリッジさんを
僕は声高々にみなさんにお知らせしなければいけない。
それだけエイトブリッジさんはすごいんだぞということを。

篠栗軍団の厳密崇高機密でちみつな掟の一つに

「軍団長の活躍は必ず1週間以内に活字にして事細かに記して少なくとも3人以上にはそれをみせなければいけない」というものがある。

もちろん活字にして誰かしらに見せればいいので

時々僕はそのルールの範囲内で

チラシの裏に軍団長の活躍を
部屋に転がっている色鉛筆で殴り書きして、
それを近くの電柱に張り付けるということをよく繰り返していた。

迷子の猫のお知らせかと思って何人かは必ず目を通す。

こうやって軍団長の活躍を
僕たち軍団員(僕の他には月光トランポリンのごめんな齋藤だけ)は地道に世の中に蔓延させていくのです。


KKライブが終わったあと、トイレの便器から流れる水でで入念に手首を洗い上げた後

会場を出て軍団長と合流した。


「お前は今日昼何食べたの?」

唐突に大喜利のお題が出させれた。

この大喜利に僕は即答しなければいけない。

お題が出されてから答えるまでにかかった秒数だけ
キレイな音色のする歯ぎしりをしなければいけない
という暗黙の了解があり

キレイな音色の歯ぎしりをするのが僕は苦手なので

すぐに答えなければいけないのだ。

頭を必死にフル回転させ、

大脳新皮質と頭蓋骨の間で摩擦が起き、キレイな音色が漏れ始めた瞬間

僕は答えた。

「まみずです」


その解答は宙に舞い、12月の寒夜空に消えていった。

軍団長は回転寿司ねえかな~って言いながら

持ち手を失い大放出しながら暴れるホースのごとく

首をブルンブルン揺らし回しながら辺りの店を探し回っていた。


こうして入ったのは
回転しないカウンター越しに大将に頼むタイプの寿司屋だった。

回転は首が散々したから、あとは寿司があればいいという理論だった。


不思議な寿司屋だった。

カウンター越しに寿司を握ってくれる大将がいるのだが、

台に乗っているのか背が高いだけなのか

僕たちの目線上には大将の膝があった。

カウンターの席からだと、上の棚に遮られて

膝の上に伸びる胴体が見えない状態になっていた。

しかたないので、大将の膝に向かって

「すみません、大車海老の握りお願いします」と伝えると

膝が笑うと同時に見えない胴体の上の方から

そちらからも高らかな透き通った笑い声が聞こえてきた。

どうやら膝と口の二点で笑っているようだ。

注文は通ったのだろうかと不安になり、横に座る軍団長を見ると

険しい顔をしながら舌打ち(この場合の舌打ちは舌を指で打つタイプの舌打ちだった)しながらこう言った。

「俺、二点で笑うやつ苦手なんだよな。膝か口どっちかだけで笑ってほしいよな。」

何を言っているのかわからなかったけど、とりあえず頷いておいた。

 
そうして何度か注文を繰り返し
寿司をいただきながら二人でお喋りに夢中になっていると目の前に大将の膝が近づいていた。

僕たちの目と大将の膝の距離は4㎝くらいだっただろうか。

目の前で待っているのに
おしゃべりに夢中でなかなか次の注文をしない篠栗軍団に業を煮やしていた大将の膝は(ズボンのちょうど膝の部分だけが破れていて素肌の素膝が見えた)
おもむろにそのズボンの白いズボンの隙間から垣間見える素膝のしわを動かし、

「業で煮えた"あら汁"でも飲みな」と言った。

膝がしゃべった!!!!
驚いて椅子ごとひっくり返る僕を横目に軍団長は

「膝でしゃべるんなら最初の方で口でしゃべるなよ。
口と膝の二点でしゃべるやつ苦手なんだよな。」

と僕が床に接地する間にまくし立てた。

すぐさま奥の厨房から板前の恰好をした東南アジア系の女性が二人それぞれ

白い布に覆われたものを両手で赤子を抱えるようにして持ってきた。

白い布に包まれたそれは

大将の業で煮えたというあら汁がどういうわけか
液体でありながら球体としてそこに存在していた。

素手でそれをつかみ、手を濡らしながら(ギリギリ手で触れるくらいの熱さだった)いただき

その最後の一滴を飲み干したとき

僕の口からは声にならないキレイな音色のうめきが流れ出た。

軍団長は球体のあら汁を自分の膝のしわの隙間から飲んでいた。


寿司は口で食べていたのに液体は膝から飲むのかい!!


軍団長は言った。「二点から摂取するのは別にいいだろ。」

違いがわからなかったけど、

寿司とあら汁のうまさだけはわかった。


この日もまた軍団長のお世話になりました。


終電に乗る軍団長を見送ったあと

夜がまた深くなり
除菌されたかのように人がいなくなった街にまた戻り

まだ戦闘中だという情報を
スゴロクズ島袋さんから隠密を通して教えてもらい

次の戦場「マスオチョップの洞窟」へと向かったのであった。










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