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ウマ娘にハマった私がTLに流れてきた馬に惚れて競馬場デビューした話

2021年4月11日。
仁川の舞台に白い桜が咲き誇ったあの日、
私にとって初めての競馬になった。
それはあまりにも贅沢な初体験だった。

ウマ娘は1期からアニメを観ていたが、当時はまだ未成年で、競馬に関する知識もなく、かの有名なディープインパクトも、オグリキャップも、ハルウララも、聞いたことすらなかった。
そのため、ただ、ひとつの熱血学園モノのアニメ作品として消費し、そこで終わっていた。

アプリがリリースされ、キャラクターのストーリが史実に基づいていることを知り、

やっと、ウマ娘が競馬の史実と繋がった。

競馬の史実を知る度に、こんなに面白い世界があったのか、とワクワクした。時には目にするのも辛い事実もあったが、それも、競馬の現実なのだとわかった。

そのうちに、実際に競馬を見たい、好きな馬を見つけて応援したいと言う気持ちが膨らんでいった。しかし、自分が好きになったキャラクターの元になった馬の血統は繋がっておらず、牧場もなくなっていたので、諦めた。長年の競馬ファンの有志の方が、ウマ娘から競馬に入った人用に、元になった競走馬の血統を紹介していた。しかし、当時は何が何だかさっぱりわからず、なかなかピンと来る馬がいなかった。
競馬中継も金鯱賞から見始めたが、レースの凄さが勝って、なかなか、自分にとっての特別な馬を見つけられなかった。

そんな時だった。
タイムラインに、一頭の馬が現れた。

ダークモードのTwitterの画面に、一際目立つ特別な白。ピンクの耳に、ピンクの鼻。
まるで御伽噺から飛び出してきたような姿に、

ひと目で、私はその馬の虜になった。

その馬の名はソダシ。
名に違わぬ美しさと、強さを併せ持つ3歳世代のアイドルホースだ。

東スポ競馬さん、なんてことをしてくれたんだ、と思った。洗い場の彼女の立ち姿は、あまりにも美しかった。ツイートには # 桜花賞 とのタグ。

桜花賞……ウマ娘で見た!確か、1回きりのクラシック級のレース。場所は、阪神競馬場。
……阪神競馬場?

あれっ、もしかして、県内?
嘘、電車に乗れば行ける距離じゃん。

そこに、あの、ソダシ姫が、来るかもしれない?

もしかして、一目拝めるチャンスでは?

しかし世はコロナ禍。競馬場は抽選で当たった人が事前に購入しないと入場できないと、競馬中継の番組でも言っていたし、JRAの公式サイトにも書いてあった。しかしどうしても、彼女を一目見てみたい。その好奇心に突き動かされて、競馬場のこと、座席のこと、席の申し込み方、パドックのルール、素人なりに頑張って調べた。

いざ抽選に申し込んだが、結果は落選。

一般販売も講義中に埋まってしまった。
けれど、どうしてもソダシ姫に会いたくて、何時間も何時間もキャンセル席を粘った。大学の講義の合間にも、2時間かかる通学路で、一緒に帰っていた友達が空いた席に座って寝ていようとも、問答無用でリロードをしまくった。寝る前も、夜中にも起きて、取れるまで、ずっと。けど、現実は残酷で、なかなか取れるものではなかった。

もう諦めるしかないのかな。
寝ぼけた頭でJRAのサイトにアクセスした。
空席ありの表示。ここまでは、何度も見た。またダメかもしれない。けど、チャンスがあるなら、とスマホの画面をタップした。

…奇跡だ! 
なんと、座席の決済画面に繋がった。

寝ぼけた頭が一気に冴えた。あれほど目覚めの良い朝は多分後にも先にもないかもしれない。ああ、クレカの番号なんだっけ。確かリビングに置いてたはず。バタバタと勢いのまま布団から飛び起きて、リビングに走っていって、震える手でクレカの番号を入力して。やっと席がご用意された。……かれこれ10時間以上かかっていた。

あとは、有観客開催を願うのみ。

当日、無事に有観客開催になった。生で馬を、サラブレッドを見る初めての体験に心躍らせながら、朝起きて、ソダシ姫の母親のブチコのぶち柄みたいなパンダの服を着て、馬のしっぽをリスペクトしてポニーテールにして電車に乗り込んだ。いつも学校に行く時に乗っている路線なのに、知らない電車に乗っているような気分だった。競馬新聞と赤ペンを手にしたおじさんが何人か目の前に座っていて、この人達も抽選に当たった人なのかな、凄いな、と考えていた。乗り換えで降りる方向に迷ったが、競馬新聞を丸めて持っているおじさんが前を歩いてくれたおかげで、迷わずにすんだ。駅を降りると、阪神競馬場に繋がっていた。名馬のパネルに、ターフィーくん。
ここは夢の国か?と思った。少なくとも修学旅行でいった東の夢の国よりも仁川駅から阪神競馬場に繋がる通路を歩いていた時の方が楽しかった。改札を出ると、

ようこそ 阪神競馬場へ 

そう書かれた緑のパネルに迎えられた。既に人が沢山並んでいたが、通路の名馬のパネルのおかげで全く退屈しなかった。

なんとか競馬場にたどり着き、中に入れた。
周りの人に倣って、レーシングプログラムを取った。とにかく広くて驚いた。

ターフィーショップで桜花賞のタオルと、目が合ったコントレイルの三冠記念のぬいぐるみと、レシステンシアのスケッチブックと、ゴールドシップのストラップと、ソダシちゃんの阪神JFの勝負服ストラップを買った。思っていた以上に散財して、お昼ご飯と馬券を買うお金、あるかな〜と思った。




正直、こんなに買うとは思っていなかった。
ターフィーショップ恐ろしや。あれもまた夢の空間…


なんとか阪神1Rのパドックに間に合った。
とにかくそこを歩くサラブレッドが美しくて、写真を撮りまくった。動く馬を撮るのは予想以上に難しかった。本当にパカパカと音を立てるひづめに感動した。揺れるしっぽがかわいかった。芦毛の馬が可愛かった。陽の光に栗毛がいっとう美しく見えた。鹿毛も、青鹿毛も黒鹿毛も格好良い。

未勝利馬も条件馬も、
何もかも、みんな、美しかった。

テンションが上がっている馬は可愛いけれど、馬券的にはマイナスらしい。確かに序盤から体力を消費してしまうのはよくないなあ、とぼんやり思った。見てる分にはめちゃくちゃ可愛い。
厩務員さんは大変そうだけど…。
そして、誘導馬がかわいい。ゆっくりと先頭を歩く姿も、後方誘導もかっこいい。ゆっくり歩いてくれるから、写真に撮りやすかった。

しばらく、パドックと座席を行き来していた。
パドック見て、レース見て、の繰り返し。
一人でも凄く充実した時間だった。

ずっと何かしら馬がいるのが嬉しくて、昼とお手洗いのタイミングを迷いに迷った。昼、なくても良いかもとも思った。しかし、競馬場のご飯は美味しいらしいという前情報のおかげで、お昼を食べる決定ができた。発券所を通り過ぎて、フードコート的な場所に来た。

タコが小さかったけど生地が美味しかった。立ち食いで競馬中継を見ながらの昼食、なんだか粋だった。

お昼を急いで食べて、再びパドックへ。人気の馬が出走するレースでは、パドックが混むらしい。コロナ禍だから入場制限も有りうるかもしれない。ここからは、パドックで馬の写真を撮ることに専念することにした。折角来たのだから、いい位置でソダシ姫を拝みたい。
……レースは帰って競馬BEATの録画で観よう。

読み通り、パドックが混みだした。
入場制限もかけられそうな雰囲気だった。最前列でずっと馬を見て待っていて本当によかった。

桜花賞のひとつ前のレースに、小さな小さなメロディーレーンちゃんがいた。彼女が目の前を歩くと、シャッター音が大きくなった。インスタのフォロワーが万単位の馬は違うなあと思った。

そして、いよいよ、桜花賞のパドックへ。
入場制限がかかり、職員さんが忙しなく動いていた。

夢にまで見た、ソダシ姫との対面。

4番のゼッケンを付けた彼女がパドックに現れた時、息を飲んだ。写真で見るより、何倍も美しく、可愛らしくて、トモがムキムキだった。

姫、と呼んでいたが、目の前でトモの踏み込みを見た時、ちょっとだけ怖かった。今浪厩務員さんと足が揃っていて、まるでダンスをしているようだった。しかも、時々こっちを向いてくれて、写真の撮れ高も良かった。流石アイドルホース。記者会見ばりのシャッター音にも頷ける。
終始かわいい顔で落ち着いてパドックを周回していて、他の馬を見る目とソダシ姫を見る目があと5つくらいあればいいのに、と思った。ライバル視されているサトノレイナスの気迫が怖かった。

止まれ、の合図。
ソダシ姫は私がいた所の近くで止まってくれた。

ソダシを撫でる吉田隼人騎手。控えめに言って尊い。

おかげで、吉田隼人騎手が乗る絶好の瞬間も目の前で拝めた。ずっと、アイドルのような目でソダシ姫を見ていたが、騎手が背中に乗った瞬間、ああ、彼女はれっきとした競走馬なのだ、と思った。ピンク色のドレスを背中に乗せて、頭に花飾りを付けた誘導馬に導かれながら、18頭の乙女達がターフへと向かっていくのを見送った。

席へと向かうエスカレーターで、ほわほわと夢見心地で、撮りまくった写真を見返した。自分のフォルダに自分で撮ったソダシ姫が収められているのが信じられなくて、けれど、目の前で見た輝く馬体は間違いなく本物で。最高の日に競馬場に来ることができた、と思った。

席に座って、母から貸してもらった双眼鏡で返し馬を見守った。手が震えるし、何回も練習したのに、ソダシ姫は、みんなはどこ?

真白に輝く白。あ、いた。よかった。

私の席からはモニターで発馬機が見えなかった。
ああ、ソダシ姫、ちゃんとゲートに入りますように。

子気味良い音を立てて、発馬機が開いた。

白いあの子は好スタートを切った。
白毛一族されど鹿毛、そんなあの子は出遅れた。
ライバルの、白いシャドーロールが後方でじっと揺れている。

色とりどりの勝負服と艷めく馬体が真緑のターフを駆けていく。
10時間近く粘ったキャンセル席で、18頭の乙女たちの晴れ姿を見られたのが嬉しくて、けど、やっぱり本命の姫に桜の女王になってほしくて。

最後の直線で色々な思いを目から溢れさせる私の周りで、どこからともなく声がした。

「行け」
「行け!!」
「ソダシちゃん!!」
「差し切れるやろ!!!!!」

コロナ禍故に、大声での応援は禁止だ。
しかし、この桜舞台に、
思わず声が漏れたのだろう。

ゴール板まであと僅か。

馬群を力強く捌いたソダシのもとに、
大外から白いシャドーロールが飛んできた。
ライバルのサトノレイナスだ。


…………自分の席では、
どちらが勝ったかわからなかった。

競馬初心者には、着差クビ差はわからない。

その上、勝ち馬の名前は歓声にかき消されて聞こえなかった。

「汚れなき、純白の桜の女王誕生」

このフレーズを聞いて、ようやく、
白くてかわいいソダシ姫が、桜の女王に輝いたことがわかった。

震える手で撮った。

確定した掲示板には、1着に4番。
そして、1分31秒1の数字。

彼女は、世界初の白毛馬クラシックホースになっただけでなく、レコードまで叩き出した。

競馬史に残る瞬間に立ち会ってしまった。



初競馬にしては贅沢すぎる思い出を胸に、
帰りの阪急電車に乗り込んだ。

……沢山のおじさんに揉まれながら。

家に帰って、競馬BEATの録画を観た。
川島さんが冒頭で話したタイムより2秒早い桜舞台は、テレビ越しに見ても最高だった。

細江さんのレポートの画角やパドックで紹介される映像に、数時間前のソダシ姫を必死に撮る自分がいて、なんだか妙に可笑しくなった。




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