No.16 理想のデート

人 物
菊地優也(27)会社員
佐野華英(24)会社員
佐々木龍二(25)会社員
店員

◯四菱商事ビル・エレベーター内(夜)
廊下の電気も落ちている。
佐野華英(24)が疲れた顔でエレベーターに乗り、1階のボタンを押す。
ドアが締まりかけた時、
菊地「ああーちょっと待って…」
フロア側のボタンを押し、菊地優也(27)が乗ってくる。
華英「お疲れ様です」
菊地「あ、おつかれ」
エレベーター、動き出す。
菊地、モジモジしていたが、意を決して、
菊地「あのさ、今度の週末、空いてる?」
華英、菊地を振り向き、
華英「え…空いてます…けど…」
菊地、表情がぱっと明るくなり、
菊地「俺のおじさんが軽井沢に別荘持っててさ、定期的に空気入れ替えてくれって言われてて、行かない?」
華英「えっ…」
華英、驚く。
菊地「いつも一人で行くんだけど、寂しくってさ。こないだのコンペのプチ祝い、みたいな感じで」
華英「軽井沢、ですか…」
菊地「そう。いいよ、この季節は。暑すぎず寒すぎず」
華英「うーん…」
菊地「食べ物も美味しいよ。佐野さん、お酒好きだよね?」
華英「はい、まぁ」
菊地「俺、おいしいとこ何軒か知ってるから、行こうよ」
華英「うん…じゃあ、行きます」
菊地「よかった!俺車出すから迎えに行くよ。最寄りどこだっけ?」
華英「あれ、二人きりですか…?」
菊地「あ、うん、いや…?」
華英、少し逡巡するが、苦笑いしながら、
華英「いえ…」
菊地の顔がぱぁっと明るくなる。

○定食屋『喜八』・食堂内
ランチ時でごった返している定食屋内。
菊地「と、いうわけで、頼む!」
佐々木龍二(25)に向かって、菊地が頭を下げる。
佐々木の前には大盛りのミックスフライ定食が置かれている。
佐々木「先輩…またですか…」
菊地「頼む頼む、今回はガチ!マジおれ頑張るから!」
佐々木「三回目ですよ…もういい加減作戦変えたほうが」
菊地「いや今度こそ、いけると思うんだよ!華英とはこないだのコンペの時とか結構遅くまで一緒に残ってて、いい感じだったからさ」
佐々木「華英…佐野さんのことですか?」
菊地「そう!華やかの華に英知の英!いい名前だよなあー!」
佐々木、呆れた顔をして菊地を見る。
佐々木「もう…今回限りにしてくださいよ。そろそろおじさんに俺超遊んでるって親に通報されますよ…」
菊地「よっしゃあ!さんきゅー!これ、俺のおごりだから!あ、おばちゃん!俺のカツ丼まだー?」

○軽井沢ハルニレテラス
カップルや家族連れで溢れている。
菊地と華英、川沿いのウッドデッキに座ってアイスコーヒーを飲んでいる。
菊地「うまくない?このコーヒー」
華英「はい、おいしいです」
菊地「敬語やめよーよ、職場じゃないんだし」
華英、髪を耳にかけてはにかむ。
菊地「ごはん、どうしよっか。何食べたい?」
華英「おすすめのお店、あるんでしたっけ?」
菊地「あ、そうそう。えっとねぇ…」
菊地、スマホをいじる。
佐々木とのLINEの画面が開いている。
菊地LINE「おすすめの店、なんだっけ!?」
佐々木LINE「こないだ一緒に見てた地鶏とワインのところでいいんじゃないですか」
佐々木、『鶏バル ワインのぐっさん』のURLを貼る。
菊地「地鶏とワインが有名なお店があるんだけど、どう?ワイン大丈夫?」
華英「ワイン好きです!」
菊地「OK、じゃあそこにしよ」
菊地、笑顔で席を立つ。

○鶏バル ワインのぐっさん・外観(夕)
夕暮れの中、雰囲気の良いレストランの窓際で食事をする二人が窓から見える。
華英「おいしー!」
菊地「喜んでもらえてよかったよ」
菊地、爽やかに微笑む。
菊地「もう一本頼もうか、次はロゼ、どう?」
華英「いいですね、いっちゃいましょー!」
菊地、店員を呼び出し、こっそり机の下でスマホを取り出し、画面を見ながら、
菊地「タヴェル・ヴィエイユ・ヴィーニュ、ください」
店員「かしこまりました」
華英、うっとりした目で菊地を見つめる。

○佐々木別荘・全景(夜)
大きな別荘に入っていく二人。
華英は千鳥足で菊地に肩を借りている。

○佐々木別荘・リビング(夜)
華英、ほろ酔いでリビングに入ってくる。
華英「わーひろーい」
菊地「だろ?」
菊地、リビングの窓を開ける。
華英「わー、涼しい!」
菊地、リビングのワインクーラーの前に行き、
菊地「とりあえず、さっきと同じ、白でいい?」
華英「はい、いいですよぉー」
華英、楽しそうにソファに倒れ込む。
菊地、にやりと笑い、こっそり窓まで歩いてカーテンを閉める。
菊地、華英の隣に座り、ワイングラスにワインを注ぐ。
菊地、華絵の上体を起こしてグラスを持たせ、
菊地「はい、乾杯」
華英「かんぱぁーい」
菊地「あれ、華英ちゃんそんなにお酒弱かったっけ?」
華英「うーん、今日はちょっと酔っちゃったかもぉ」
華英、菊地にもたれかかりながら、ワインを飲む。
華英、ワイングラスを落とし、ワインが二人にかかる。
華英「あっごめんなさい」
華英、菊地にかかったワインを手ではらう。
菊地「俺は大丈夫!華英ちゃんも大丈夫?」
華英「はい…」
華英、菊地の手を握り、上目遣いで菊地を見つめる。
菊地「風邪引いちゃうから、脱いだほうがいいよ…」
華英、ごくっとつばを飲み込み、まばたきをする。
菊地、真剣な顔になり、華英の唇に顔を近づけていく。

○定食屋『喜八』・食堂内
菊地、カツ丼をかきこみながら、
菊地「みたいな感じでいけば、もう間違いないっしょ!」
佐々木、呆れた顔でお茶をすすりながら、
佐々木「店のリサーチくらい自分でやってくださいよ…」
菊地「いや、俺食べログとかクックパッドとか疎いからさ!ワインもわかんないから、おいしくて安いやつ、適当にLINEしといてよ!」
菊地、満足そうに爪楊枝を使う。
菊地のスマホが震える。
菊地、スマホを取り上げ、
菊地「華英さんだ♪」
佐々木、苦笑する。
菊地の顔がみるみる曇る。
佐々木「どうしたんすか?」
菊地、この世の終わりのような顔をして、スマホを放り投げる。
佐々木「…またすか?」
菊地、天を仰ぎ、両腕をクロスさせて顔を覆う。
菊地「なぜだ…なぜこの完璧な計画は、いつも実行前にダメになるんだ…」
佐々木「まーハードル高いですよ、いきなりドライブデートで軽井沢は」
菊地、うなだれる。
佐々木「ん、ていうか、あれ、先輩ガンガン飲むつもりみたいですけど、運転どうするんですか?」
菊地、困ったように腕を組み、
菊地「うん、そうなんだよな…まぁでもとりあえず、今のうちに免許とるか」
佐々木、飲みかけていたお茶をブーッと吹く。

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場所課題③軽井沢 で書いた作品。
具体的なロケーションを使ったお話を書く練習、とのことだったのですが行ったことがないため行ったことのないお話になってしまった。
でもこれはこれでまとまりがあって悪くはないのかな、と思っている。

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