傍聴記録21 有名な密売人になりたかった男の裁判

東京地裁
2017年8月15日(火) 8F 811号法廷 11:00-12:00
大林孝重
平成29年(わ)第xxx号 新件
大麻取締法違反 覚せい剤取締法違反
裁判官:上谷大輔 書記官:川崎房子 検察:飯島睦美 弁護人:兼田正彦
傍聴席から見て左に坂村裁判官、中央に上谷裁判官、右に松原裁判官

裁判官「それでは開廷します。被告人は前に来てください。名前はなんと言いますか?」
被告人「はい。大林孝重です。」
裁判官「はい。生年月日はいつですか?」
被告人「はい。昭和55年6月30日です。」
裁判官「仕事は無職ということでいいですかね?」
被告人「はい。」
裁判官「住所はどちらですか?」
被告人「東京都足立区加平4-19-22-102号室です。」
裁判官「本籍を言ってください。」
被告人「東京都足立区加平4-26です。」

裁判官「はい。6月5日付けで起訴されました。起訴状という書面は受け取っていますね?」
被告人「はい。」
裁判官「その事件についてね、審理をします。それでは検察官は起訴状を朗読してください。」

検察官「はい。公訴事実。被告人は、第1法廷の除外事由がないのに、平成29年4月24日頃、埼玉県越谷市大間野町6丁目1131番地、ホテルPICO、317号室において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を若干量を含有する水溶液を、自己の身体に注射し、もって覚せい剤を使用し、第2、みだりに同月24日、前記ホテルPICO、317号室において、1、営利の目的で、みだりに、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する白色結晶等8.773グラム、および大麻である乾燥植物片31.113グラム。2、みだりに、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する白色結晶等2.451グラムをそれぞれ所持したものである。罪名および罰条、第1、覚せい剤取締法違反、同法41条の3第1項1号19条。第2、1覚せい剤取締法違反、同法41条の2第2項1項。大麻取締法違反、同法第24条の2第1項。2覚せい剤取締法違反、同法41条の2第2項1項。以上です。」

裁判官「では審理に先立って注意をしておきますと、黙秘権が保障されていますから、この法廷で終始黙っていることもできますし、質問に対して供述を拒むこともできます。もちろん質問に答えることもできますけども、その場合には、あなたにとって有利にも不利にもね、証拠となることがあります。」
被告人「はい。」
裁判官「そのうえで聞きますけども、いま検察官が読み上げた事実は、いずれもこの通り間違いありませんか?」
被告人「概ね間違いありません。」
裁判官「どこが違っていますか?」
被告人「えっ、大麻、あのー、そのー営利目的という部分に関しては、そのー自分で、あのー使用分と、あのー仲間の使用分ということに対して、あのー少し、ちょっとあのー、そのーいま売っているというよりも、あのー、そのー、自分の存在自体、そのー、いつでも、そのー、薬物を、あのー、持っていると、検事さんに言われたんですけど、あのー、それで、そのために、お金を得るためだけに持っていたというわけではなかったっていうのが、ちょっと、はい。」
裁判官「まず確認しますと、覚せい剤の使用の事実は間違いないですね?」
被告人「はい。間違いないです。」
裁判官「それから、ホテルPICO、317号室で覚せい剤それから大麻を持っていたことは、それぞれ間違いない?」
被告人「間違いないです。」
裁判官「で、営利目的で覚せい剤と大麻を持っていたとされる部分については、営利の目的もあったけれども、自分で使う物も合わせて持っていたということで、」
被告人「そうです。」
裁判官「で、営利の目的があったことはいいんですか? それは他人に売るつもりはあったということですか?」
被告人「はい。その分もあります。」
裁判官「わかりました。じゃあ営利目的の部分については、他人に売って営利の目的で利益を得ようという目的だけではなくて、自分でも使う意志があったということを酌んでほしいということですね?」
被告人「はい。」
裁判官「これは大麻についても同じですか?」
被告人「そうですね。」
裁判官「弁護人の意見はいかがでしょうか?」
弁護人「被告人と同様であります。」
裁判官「弁護人としても営利目的の所持の成立自体は争わないと。」
弁護人「ああ争わないです。」
裁判官「犯情だけ酌んでほしいということですかね?」
弁護人「はい。左様です。」
裁判官「それでは、元の席に戻って座って聞いていてください。では証拠調べの手続きを行いますので、それでは検察官、冒頭陳述と証拠請求をしてください。」

検察官「はい。それでは検察官が証拠によって証明しようとする事実を述べます。まず被告人の身上経歴等です。被告人は大学を卒業後、柔道のコーチ等として稼働していましたが、現在は無職です。被告人は結婚しており、住居地にて妻と同居しておりました。被告人には覚せい剤取締法違反の実刑前科3犯、前歴3回がございます。今から述べますものと本件とは、累犯関係にあります。1つめが東京地方裁判所で平成20年1月11日に判決宣告がありました、覚せい剤取締法違反事件。懲役1年6ヶ月、3年間執行猶予の判決を受けて、平成22年2月15日に執行猶予の取り消しが確定し、平成24年11月25日に刑の執行が終了しております。もう1つが、東京地方裁判所、平成26年11月6日に判決宣告がありました、覚せい剤取締法違反事件、懲役1年10ヶ月の判決を受けて、平成28年9月22日に刑の執行が終了しております。次に犯行に至る経緯および犯行状況等です。被告人は平成28年5月に前刑につき仮釈放となりましたが、その後も覚せい剤等を使用したり、覚せい剤や大麻等の密売に関与するなどしておりました。犯行状況につきましては公訴事実記載のとおりです。被告人は逮捕現場であるホテルの室内で、覚せい剤を自己使用し、その後逮捕時の捜索差押において、被告人の所持品から、本件の大麻および覚せい剤が発見されたものであります。発見された覚せい剤のうち、注射器内に在中しておりましたた覚せい剤については、被告人が自ら使用する目的で、その他の覚せい剤、および大麻については、密売目的で所持していたものと認定しております。その他情状等についても立証いたします。以上の事実を立証するために、証拠等関係カード記載の各証拠の取り調べを請求いたします。以上です。」
裁判官「えーと、第2事実については、この5号証以下ですね、これは第1、第2の1、2全部入っているという事ですかね? こうやって全部書いてあるのは。」
検察官「5号証、えーっと、全というのは、あの使用等の情状にもかかわってきますので、その趣旨…」
裁判官「具体的に、要するに、第2の1と2がですね、覚せい剤が分かれておりますので、そのまあ、使用情状というのはわかるんですけども、どれが1で、どれが2かというのは、特定できるんでしょうか? まあ、8、9といいのは」
検察官「失礼。甲8号証、甲9号証は、第2の2にかかる鑑定嘱託と鑑定書です。」
裁判官「そうですね。それで後の部分っていうのは、第2の2は、この単純目的の所持ですので、1の事実の犯情というのはわかるんですけども、第2の1の事実については、営利目的で起訴されている被告人の弁解のとおり、自己使用目的もあったという趣旨で、全ということでよろしいんですね?」
検察官「はい。」
裁判官「はい。わかりました。はい。それでは弁護人のご意見はいかがですか?」
弁護人「ブツそのものについては…」
検察官「証拠物につきましては、訴因変更を予定しておりまして、その関係と一緒に証拠品として受け入れ予定ですので、次回期日に合わせて請求させていただきます。」
弁護人「じゃあ、そういう趣旨であれば、ここの訂正文は全て撤回します。」
裁判官「それでは採用しますので、1号証から要旨を告げてください。」

検察官「甲号証です。甲1号証は、被告人の尿の捜索差押調書です。これにつきましては令状を確保受けたうえで、被告人を病院に連行し、その後、被告人を病院内で尿を自ら排出したところを捜索差押しているものであります。平成29年4月25日、午後7時7分から午後7時58分の間に差押を実施しております。甲2号証は、その尿の鑑定嘱託。甲3号証は、その鑑定書です。被告人の尿からフェニルメチルアミノプロパン塩類の含有が認められるとの結果が書いてあります。甲4号証は、身体検査調書で、被告人の両腕の注射痕の状況を確認して写真撮影しております。被告人の左右肘内側に注射痕と思われる痕跡、その他、腕の前腕部等にも、そういったものが確認されております。甲5号証は、ホテルPICOの317号室での捜索差押調書です。本件覚せい剤および大麻を全て、捜索差押の際に差し押さえております。」

裁判官「1と2の所持対応は違うんですか?」
検察官「1につきましては、チャック付きビニール袋に白色結晶が在中しておりまして、2につきましては、注射器内に白色結晶が在中している現状となっております。甲6号証は、白色結晶の鑑定嘱託ですけれども、チャック付きビニール袋に在中している物を10点、鑑定嘱託しております。甲7号証は、その鑑定結果です。10点鑑定嘱託しておりますけれども、このうち9点(言い間違い)から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類が検出されており、その10点を覚せい剤フェニルメチルアミノプロパンが検出されております。全て覚せい剤との結果を出ております。」
裁判官「10袋全てですね。」
検察官「10袋全てです。」
裁判官「それが合計8.773グラムなんですね?」
検察官「はい。それを全て合わせますと、鑑定前の重量が8.773グラムと公訴事実記載のとおりのグラム数となっております。甲8号証は、注射器内の覚せい剤および甲5号証で押収しております。ストロー白色粉末が付着したストロー片の鑑定嘱託書です。甲9号証はその鑑定結果です。なお公訴事実記載のものにつきましては、この注射器に在中している覚せい剤のみが、第2の2の事実で起訴しているものになります。」
裁判官「えーと第2の2の公訴事実については、白色結晶等となっておりますが、これ何故、等、となっているんですか?」
検察官「確認させてください。」
裁判官「鑑定書はどうなっているんでしょうか?」
検察官「鑑定書はですね、」
裁判官「白色結晶等とはなっていないですか?」
検察官「注射器1本、筒の中に白色結晶が付着のものとなっておりまして、」
裁判官「検討してください。この、等、は必要なものなのか。」
検察官「はい。」
裁判官「はい。続いては10号証お願いします。」
検察官「甲10号証は、乾燥植物片の捜索差押調書です。逮捕時の捜索差押として差し押さえているものであります。この時、被告人の所持していたバッグ等から乾燥植物片4袋が発見されて捜索差押されております。甲11号証は、この乾燥植物片4袋の鑑定嘱託書、甲12号証は、その鑑定書です。乾燥植物片4袋、全て大麻と認められることの結果を得ております。その総重量が公訴事実記載の重量となっております。甲13号証は本件所持にかかる、覚せい剤および大麻の発見状況を明らかにする写真撮影報告書です。甲14号証は本件公訴事実にかかる大麻および覚せい剤の写真撮影報告書です。証拠物の形状を明らかにするものです。そして甲15号証も写真撮影報告書でして、こちらは公訴事実第2の1にかかる覚せい剤の写真撮影を実施したものであります。」
裁判官「10袋のことですね?」
検察官「10袋のものです。甲16号証は、公訴事実第2の1の乾燥植物片の形状を明らかにする写真撮影報告書です。甲号証は以上です。続きまして乙号証です。乙1号証は、被告人の身上経歴に関する供述調書です。内容につきましては冒頭陳述で述べた通りです。乙2号証は、被告人が覚せい剤の使用状況について主に供述している供述調書です。被告人の供述によりますと、最後に覚せい剤を使用したのは平成29年4月24日の午前10時頃に逮捕現場であるホテルPICO、317号室で、注射器で水溶液を注射する方法で使用しており、使用量は0.2g程度だと思うむね供述しております。乙3号証は、被告人は公訴事実第2にかかる所持の関係について供述している供述調書です。被告人は押収物を確認しながら、覚せい剤の所持状況や入手状況等について供述をしております。大麻の所持状況や入手状況についても供述している内容となっております。乙4号証は、被告人が覚せい剤の入手先や、大麻の入手先について述べている供述調書です。営利目的の関係で主に、入手状況や販売状況について供述しているものになっております。続きまして乙5号証は、被告人の戸籍謄本。乙6号証は、被告人の前歴の照会結果の回答書です。身上関係前歴関係を明らかにする物です。乙7号証は、被告人の前科調書。乙8号証ないし、乙10号証は、被告人の前科の判決謄本です。被告人には覚せい剤前科が3犯ございまして、これら覚せい剤前科3犯についての判決謄本になります。以上です。」

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