感覚的関係

ステレオから流れる静かな音楽。私は製図を描く。康子は康子でコタツに入って本を読んでいる。時々私の製図の出来具合を見て、また本人目を移す。私は疲れて鉛筆を置く。康子も読みかけの本を置き、「お茶を入れようか」と尋ねる。私は静かにうなづき、タバコをくわえる。二人は顔を見合わせ、お茶を飲む。タバコを吸い終わった私は再び鉛筆をとる。康子もまた本を読み始める。もう午前2時である。康子は眠たくなったようだ。本を置いてあくびをする。そして私の顔をちらっと見る。私がまだ寝そうにないので仕方なくまた本を読む。しばらくして「そろそろ寝ようか。」と言うと「製図出来たの?」と尋ねた。「どうにかね。」「そう、それじゃ布団を敷くわ。」そんな会話の中で康子は元気が出てきた。ずいぶん眠かったのだろう。それでも微笑みながら布団を敷いた。その間、私はタバコに火をつけた。私、本を読むとすごく疲れちゃうの。目が悪いからかなぁ?でも製図も大変ね。疲れたでしょう?明日は日曜日だからゆっくり休みましょう。あっ、そうだ。お風呂沸いているのよ。入って温まってから寝ない?私、背中流してあげる。」康子は明るく優しい女であった。康子の言葉に負けて私は風呂に入ることにした。浴槽に入った私は疲れがどっと出るのを感じて目を閉じた。「入ってもいい?背中、流すわ。」康子は恥ずかしそうに言った。今まで一緒に風呂に入ったことなどない私と康子であった。「あぁ!」私が答えると康子はうつむきながら入ってきた。「あんまり見つめないでね。」康子は頬を赤らめて言った。康子に背中を流してもらい、私は風呂から上がってタバコを一服した。康子も後からすぐに出て来て「かえって疲れちゃったみたい。ねぇコーラ飲まない?」私がうなづくと、すぐコップとコーラを持って来た。「製図の仕上がりに乾杯。」康子は目をぱっちりさせて言った。グラスを合わせた時のカチンという音は何故か私に微笑みを与えた。二人ともいっきに飲み干すと静かに床についた。

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