連鎖街のひとびと

昨年、新宿高島屋サザンシアターを皮切りい全国で上演された舞台「連鎖街のひとびと」

東京公演と本日23:59まで「カンフェティ」にて配信されている映像で観劇した。
戦時中、大連にある今西ホテルを舞台に繰り広げられる物語。戦時中ということで、観劇前は、暗い話だと身構えていた。
*あらすじ*
大連にある今西ホテルのに地下室に閉じ込められた二人の作者、塩見利英(高橋和也さん)と片倉研介(千葉哲也さん)。今西練吉(鍛治直人さん)がオーナー、中国人従業員の陳鎮中(加納幸和さん)に監視されながら、作り上げるものは、30分の劇。ソ連軍(ロシア)からの依頼で、作れなければ、文化戦犯に指名され、シベリアへ送られるという恐怖・祖国日本へいつ帰ることができるのか…様々な葛藤や苦しみを抱えたまま進んでいく物語。
作曲家の石谷一彦(西川大貴さん)、ピアニストの崔明林(朴勝哲さん)、元俳優で文化担当官(役人)である市川新太郎(石橋徹郎さん)、ハルビン喜歌劇団のスター、ハルビン・ジェニィ(霧矢大夢さん)さんを巻き込んで、「シベリアのリンゴの木」という作品を作り上げていく。

物語序盤から、時々客席から漏れる笑い声があり、一気に物語に引き込まれていた。

特に印象に残っている台詞がある。
舞台終盤に今西練吉に「結局今のはなんだったんだ」と聞かれた後の塩見利英が発する台詞。
ー『ある青年の成長物語、あるいはある俳優の再生物語、さもなければ、ある実業家の文化事業への進出物語』ー

このひとつの台詞で、この舞台のすべてを集約し、語っていると感じた。
ある二人の脚本家の演劇界に残る傑作が生まれる物語であり、女性スターのさらなる飛躍物語であり、ホテルの従業員から脚本家•俳優•演出家の才能が見える物語でもあるだろう…。

劇場で観劇中・配信で画面を通して観劇していても、終始鳥肌が立っていた。
この先の展開を知っていても、ワクワクドキドキが止まらず、何度も何度も観たいという思いに駆られる。むしろ、『観たい』ではなく、彼らと物語を作り上げているような、いわば登場人物の1人に混ぜてもらっているかのような感覚になる瞬間がある。 

苦節あり、やっとの思いで書き上げた作品を上演する場さえも奪われ、失意の底にいるなか、新たな文化事業への進出を夢見て、高田馬場のシーンを練習する姿と登場人物皆の生き生きとした笑顔が、戦時中であることを一瞬忘れ、この瞬間を力一杯生き、楽しんでいるように感じた。また、その姿を通して、観客達も戦時中であることを忘れているかのようにも感じた。
登場人物皆、最初は悩みや不安を抱えていたが、自らの力で悩みから脱却し、明るい表情に変わっていくさまが、とても鮮やかだった。特に市川と今西、石谷の表情の変化が著しく明るくなったように感じた。
本筋に注目しつつも、本筋を演じる俳優の背後で行われるアドリブのような遊び心のある芝居もまたクスッと笑えるポイントだった。

ここからは完全にオタク目線にはなるが、高橋和也さんの『いかにも中年男性が踊りそうなたどたどしい踊り』が愛おしい。
キレッキレに踊れる(男闘呼組武道館公演やRockonSocialClubのドント・ウォーリーで披露されているが)からこそ出来るあの感じ。配信で何度巻き戻したか…。
あと、片倉先生に対し、逃げ出す直前に発する『すまん…私は逃げる…ごめん…』の哀愁や切なさがグッとくる。
また、シベリアのリンゴの木の練習中、市川が長ったらしい男爵の名前を言いにくそうにしてるときに、舞台左側にひっそりといる塩見先生が、一緒に男爵の名を呟いているのが、観劇当時客席で真正面から観ていて、とても印象に残ってる箇所のひとつ………。
とにかく和也さんが演じる塩見先生が大好きだってことと、以前上演された際に、石谷役を演じていたとのことで、そちらも観てみたかったと強く感じている。

全宇宙という言葉が度々出てくるが、彼にとって、ジェニーの存在自体が全宇宙であり、塩見先生にとっては、石谷が全宇宙なのかもしれない…そんなふうに感じた。

演劇を生で観劇する度に感じるが、この舞台では、特に演者のため息や呼吸音が静寂のなかで聴こえることがあり、そこでしか感じ取れない空気感がある。舞台は生で観ることの意義の1つだ。
また、二度と上演がされないかもしれないことを考えると、観たいと感じるものはどんなことがあっても観ておくべきだ。


現代でも、世界各国で戦争や紛争が起きており、1秒でも早く平和が訪れることを強く願う。
また、この物語のように、戦火から身を隠している人の中から、次代に語り継がれる作品が生まれているかもしれない…。