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Apple Slash 短編としてのありかた

このたびゲーム開発者Agelvikの新作、Apple Slashをクリアしました。
ほぼゲームオーバーになることはなく1時間足らずで終わる、最後まで質の高い短編です。
リトライ必至のローグライク系などが多いなか、このいさぎよいつくりのおかげで楽しい時間を過ごすことができました。
そこで、本稿はApple Slashが心地いい数十分をいかに提供してくれたかという見方を交えつつ簡単なレビューにしようと思います。

短編のなかのARPG
本作はフィールドを左スティックで移動していって進めるアクションRPGふうアドベンチャーなのですが、ほとんどの時間はそこかしこに湧いているスライムの群れを蹴散らすのに費やすことになるでしょう。

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戦闘は右スティックで定めた方向にR1ボタンを押して剣攻撃するツインスティックシューターめいたもので、オーソドックスな印象も受けますがよく見てみるといくつかの特徴により少し独特になっています。

まず本作での攻撃は、かなり素早く連打するのが基本となります。長押しで連続攻撃もしてくれるのですが、素早く連打することで相応の速さで剣を振ることができるのです。

タメやキメなどもほぼ感じられないほど連打に合わせてくれるのが特徴で、この斬ってる感あるボタン押下の感触はなにより本作の心地よさを生み出していると思います。なにせ9割型剣を振ってるゲームですから。

次に注目したいのは攻撃範囲。通常攻撃は薙ぎ払うようにくりだされ、かなりの範囲をカバーしてくれます。
操作自体は前述したとおりツインスティックシューターとよく似ていますが余計な方向調整に気を取られることはないし、エイム技術なども必要ありません。

いくつかの攻撃スキルも順次追加されていきます。これらに関しても発動はボタン押下のみ、また傾向は異なるもののすべてリーチの長さと威力の高さが通常攻撃を上回るものというだけで、大まかに方向を決めてとにかく連打、という遊び方をさらに拡張するものといえるでしょう。

これらのスキルはL1ボタン押下でリキャストされたものからじゅんぐりに発動できるもの。次々たまるスキルを忘れず発動して火力を高めていくのが基本となります。

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基本攻撃とスキルの乱打でいっぱいいっぱいになってしまいますが、敵の攻撃も忘れてはいけません。
何もくらわずに戦っていると攻撃が強くなる「POWER」状態を維持でき、楽に進めるのでよけることに関してはそれなりの緊張感が出てきます。

本作にいる敵は、主にスライムと遠距離攻撃してくるヤツの二種類。
前者は斬りつけているなかでもだんだん寄ってくるし、遠距離攻撃系は全て迫撃砲のようなものになっていて、なおかつ着弾点が表示されます。
ですので、軌道を予測して避けるというより、攻撃に夢中になって一か所にとどまっていないようにするのが重要になります。案外くらってしまう。

このように、本作はカチカチカチカチ連打しながら位置取りをしつづけて戦うという手が多忙なゲームとなっています。
特に最後のボス戦はスキル4つあるわ いやらしい感じに雑魚召喚するわで火を噴くような忙しさになっていて、完全にフロー状態になることができました。

こういった手法はデビルメイクライにおけるイクシード、ゴッドオブウォーならばアトレウスの弓矢など特定ボタンを定期的にただ押させることで必要な認知リソースを増加させる部分に採用されており、仁王の残心などにも近いものを感じます。Apple Slashはこれを最大限に活用したゲームといえるでしょう。

さて、この手法の最大の特徴はゲームを複雑にすることなく効果が得られるという点です。Apple Slashは全編通して戦略やエイムといったプレイヤースキルとは縁遠いゲームで、コンボを覚えて練習したり、状況に応じて属性攻撃を使い分けたりするものでもありません。最初から最後まで、動いて連打あるのみのゲームです。
難しいこと抜きでアクションの楽しさを味わえる、当然やりすぎてもクソゲー。短編だからこそ活きる、この一貫したスタンスを称賛したいと思います。


短編とアドベンチャー
本作の戦闘はたしかに楽しいものですが、その舞台となるフィールドを進んでいくのも同じくらい引き込まれるものだったのでそちらについても書いておきます。フックとなるものを見せられ、まさにそちらに引き込まれていきました。

分かれ道がいくつも出てくる本作では、こっちに探検に行ってみようとか、進んでいったらこんなものがあったという体験が連続します。
それにはいくつかのレパートリーが存在します。

たとえば、進行に必要なアイテム(いかにもな鍵、なぜか落ちている目玉、奇妙な宝箱など)がことあるごとに...たいていは向こう岸に現れる。こういうのは、開発者にとってプレイヤーに自ら茨道を進ませるいい方法でしょう。

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また、その一環として通れなかったところを通るようにする能力ももらえたりします。
能力をもらった際、あっ あそこが通れるようになるのか!と前に出てきた障害物のことを思い出すのはちょっとしたいい体験でした。

とはいえ、本筋の内容を邪魔することは一切なく、見落としていたから詰まってしまったとか再探索が面倒とか応用する必要があるとか探索ゲーム・謎解きゲームっぽいことには絶対にならない淡泊な要素にとどまっています。
これも本作のいさぎよいところです。


最後にキャラクターたちとテキストについて。
フィールド上には、明らかにUndertaleらへんの影響を受けている奇妙な見た目をした彼らが点在しています。(色づかいは完全にDownwellですよね)
絶対面白そうなので近づいて話しかけると、たいてい突然切れてきたり目玉が取れたから助けてとか言ってきたりして面白い。

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テキストは一単語だけみたいなことも多く、どれも軽妙だったり人間味があったり、奇妙なキャラには奇妙である理由があったり(解決してもやっぱり変なキャラだったり)してキャラたちをチャーミングにしています。
会話・ストーリーも量的にはあって無いようなもの。多くを語らず、ユーモアも忘れず、切ない感じの結末は、短い本作を印象付けるものだと思います。


終わりに
レビューというか、本作の数十分という限られた時間の中で楽しい戦闘と心に残るささやかな冒険を演出してくれる要素を説明してみましたというかんじ




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