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"Difficult to Prove"

 《要するにこの段落のポイントってさ……》と言ってみたけど、なかなか言葉が出てこない。ごめん、とペアに謝った。そもそも木曜一発目の授業が英語のディスカッションなのが間違いだって。
 《アイデンティティと見た目の話ではあるんだけど、えーっと、もっと大きいと思う》何とか単語を絞り出して、教材のエッセイをもう一度確認する。チェロキー族とアイルランド人両方のアイデンティティを持つ筆者はNative American Literatureの大学講師を目指し、”白人っぽい”見た目をしているらしい。友人からは「仕事が欲しいなら、もっとIndianっぽく見えた方がいいよ、伝統的なアクセサリーをするとか」と”悪意なく”言われている。超グロテスク。
 《外からジャッジされることだと思うんだよね》と言うと、ちゃんと頷かれてほっとした。《マイノリティだって認めてもらうためには、外で作られた基準とかイメージとかにマッチしなきゃいけない》調子に乗って言葉を重ねる。《個人的にはすごく現代によくある問題だと思った、たとえば……スマートフォンを持ってるなら難民じゃないとか、あとは本物のLGBTQはこうだとか》
 ちょっと言い過ぎたかも。ってか、そもそもちゃんと英語で伝わってる?脳内反省会を開いていると、相手は迷いながら話し出した。
《そうだな……LGBTQの場合はさ、この話のNative American以上にハードだよね》
《なんでそう思うの?》
《証明するのが難しいから》

 
 何かを「証明」しようと頑張っていた時のことを、今でも時々思い出す。髪がもっと短くて、服の系統は限られていた頃。
 女子である、というだけで目立つフィールドにいた。コントロールできるのは自分の扱い方であって、他者からの扱われ方じゃない。理解してはいたけど、”強い女子” ”紅一点”として注目された時は逃げ出したかった。
 分かりやすく”それっぽさ”を示せばどうにかなる気がして、見た目も振る舞いも変えることにした。「かわいい」と「かっこいい」の2軸があるとすればどちらも好きだったけど、前者を積極的に消していくことが必要だと思ったから。持って生まれた身長の甲斐あって”それっぽく”なり、人々が納得していく様子を見ていた。
 どこで疲れてしまったのかはよく分からないけど、もう頑張る気はあまりないらしい。考えてみれば「ノンバイナリーらしさ」ってなんだよ、という話だし。結果として疑いなく「女子」として認識されることが多いみたいだけど。
 まあ言ってしまえばそりゃそうだと思う。物事をグループ分けするのは、情報を扱うための一般的な営為だし。「グループに当てはまらないことを考慮してほしい」と伝えるのは、個人的にちょっと気が引けてしまう。まるで「あなたの認知リソースを分けて下さい」と要求しているみたいで。個別具体的にきちんと人間を認識する余裕なんて、大抵の人にはないんじゃないだろうか。
 誰かのために分かりやすくいる必要は別にないんだけど、「証明」することで生まれていたメリットが懐かしくなったりもする。ままならないな、と思いながら、取り敢えず好きな服を選ぶことにした。

 
  

 


サポートエリアの説明文って何を書けばいいんですか?億が一来たら超喜びます。