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その他の手段/地下クイズに寄せて

【不快になる表現を含む可能性が多分にあります。閲覧注意】








初めて知ったのはテッド・バンディだった。

10歳そこそこだったわたしに、母は事件の概要とその顛末、そして「シリアルキラー」という概念を教えた。
「この人は電気椅子で処刑されたんだよ」そう言われた時の顔は、もう思い出せない。


家の本棚は、歴史書のとなりに快楽殺人の本が並んでいる。東京を離れてから話が出来る人間に飢えていた母は、わたしにファンタジー以外も与えるようになった。
『タイガー・マザー』や『Itと呼ばれた子』からはじまったそれは、佐世保であった某事件のルポだったり、『殺人犯はそこにいる』だったりした。子どもの吸収力は凄まじいもので、わたしは異様な詳しさをもって犯罪について語ることができた。

 いくら凄惨な事件を読んでも、苦しくなることも怖くなることもなかった。世界は本質的に冷たいもので、現にわたしが殴られていることは誰も知らないのだ。留守中に読む『完全自殺マニュアル』は、どんな温かい言葉よりも自分にとって確からしかったと思っている。

その日も普段通りに、どこかであった事件の話をしていた。
「なんであなたは、そんなに加害者の立場にばっかり立つの」
鋭い声が飛んできて、わたしは口を閉じた。

少年事件が報道される度に、母は「わたしもあなたに殺されるかもしれない」と言うようになった。
異常であると認識してからは何も語らなくなって、「いつか床の上でボコボコにされて死ぬんじゃないか」と思っていたけど普通に月日は流れていって、佐世保ではもう一度事件が起こり、わたしはセンセーショナルな報道に未来の自分を見てただ怯えた。
ちゃんとした人間になれるように、と色々なものを詰め込むうちに記憶は薄れたけど、時々想起される知識は未だにどこかが壊れている、と示唆しているような気がした。
何年も経って地下クイズを始めたとき、やっと息が吸える、と思った。


地下クイズが好きだ、と思う。この場にある限り、わたしは「ちょっと犯罪ジャンルが得意な人」でいられるからだ。というより、それ以外にこの経験を安全に意味づける方法が分からないのかもしれない。
どこかのネットアイドルもいつかの名大生も、わたしと質的な差異はない。ただ自分はまだ殺しても死んでもいない、というだけだろう。

この競技が、わたしにとっての「その他の手段」になればいい。


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