かわいい私の彼は佐久間くんって言います ☆8☆

「夜の海ってさ、怖いよね」
果てしない感じはある。宇宙みたい。

昼と夜で、こんなに雰囲気が変わる場所もない
知らない場所に置き去りにされた子どものように不安になる

「俺さ、時々夜の海に来るんだよね。一人で」
一人で?誰かと一緒じゃなくて?
「うん。一人で」

「たまにさ、ほんと、たまにだけど、どうしても笑いたくないって言うか笑えないって言うか、そんな事もあるわけよ。
そんなの誰にも見せられないし見せたくないし」

いつもとは少し違う口調で、静かに言葉を紡ぐ彼の横顔を闇が隠す

「海に向かってなんか投げながらバカヤローって、夕方の海なんだよなぁ」

「夜の海は、素のまんまの自分で居られる。むしろ闇が丸裸にしてくる。偽らせてくれない」

「波の音がシャワーみたいに何かを流してくれてしばらく海を眺めてると、ふとこれでOKっていうタイミングが来てさ、スイッチが入るって言うかリセットボタン押したみたいな感じ」

どこまでも続く夜の海を静かに見つめている
一人で来るという『夜の海』の邪魔にならないように気配を消して、ため息と深呼吸と、波の音に耳を澄ます

よしっと小さく呟くと手に付いた砂を払い、うーんと伸びをした

波の音のシャワーが乱した彼の髪にそっと触れて整える
「ありがと。じゃあ行こっか」

車に向かって数歩歩いたところで、くるっと海に向き直ると「ありがとうございました」とご挨拶。
そして私に向かって「一人にしてくれて、ありがと。あんまり静かだからさ、ほんとに隣にいるかちょっと不安になったわ」
スイッチ、ちゃんと入ったわね。よかった。
「うん、よかった」
たまには一緒に来よう?お供します。
「うむ、よかろう」

アンテナのメンテナンスは自分でできる、かわいい私の彼は佐久間くんって言います

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