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CoDA全日本決勝 1AR再考

はじめまして。
東京大学1年の齋藤優季です。
高校・大学の先輩である可奈留先輩にアドベントカレンダーのお誘いを頂いた時は自分に書くのは難しいと思っていましたが、同期が書いているのに触発され、筆を取らせていただくことになりました。執筆が大変遅くなり、ご迷惑をおかけしました。

一院制論題を経験するのは、全日本で気付けば3回目を数えておりました。
まず、高校1年の夏にディベート甲子園(1AR,1NR)。そして2021年秋には彗星チームとしてJDAで、第二立論を担当させて頂きました。続く冬の全日本では、AKSの一員として、1AR,NC,NQを担当しておりました。

本記事では、CoDA全日本決勝の肯定側第一反駁を再考し、どうすれば、否定側のチームに勝ち得たかを考えていきたいと思います。
肯定側立論の改善について触れないのは、①Caseの完成度は高かった(ジャッジ陣からの評価が高かった)②Caseが変わることで、否定側の出方が変わる可能性があることが理由です。

決勝1AR

では、見ていきます。まず決勝の1ARの文字起こしです。


文字数は、私の読むスピード的にもこれ以上は厳しいと思われるので、議論の差し替えをしながら検討したいと思います。
以上の原稿と決勝での主審の方のコメントを踏まえながら1ARを再構成していきます。

主審の方の個別議論に対する大まかな評価は以下のとおりです。
Caseは①政権交代が容易になること②ねじれの解消で法案がスピーディーに決定できる、の二つの筋が存在しましたが、
①政権交代については、a) 解決性とCPを比べて解決性の方が政権交代をしやすいという立証が足りていない, b) 政権交代しやすくことによるインパクトが不明瞭という評価を
②ねじれ国会による法案決定の妨げについては、1NRの統計の解釈のプレゼンテーションとCPの再可決要件緩和で大きく減じられているという評価を受けています。
一方、DAについては固有性1が比較的残っているという評価でしたので、これらの3つの論点について個別に改善点を探してみようと思います。最後の原稿だけ見たい方はページ下部までスクロールして頂ければ、ご覧になれます。

【改善ポイント① 政権交代(AC)】

まず、改善が簡単な政権交代の話から直していきます。
否定側からは政権交代の前提となる問題発覚機能が一院では失われるので、政権交代からむしろ遠ざかってしまう、というT/Aが出ており、これが発生を怪しくする原因でした。そこで、固有性2への反論を援用しながら、エンドクレームで補い、以下のように改善しました。

BEFORE: 
これは解決性1のT/Aにも当ててください。問題発覚は衆院でもできるので、二院制により政権交代可能性が高まることはありません。
これは固有性2の3枚目でも一緒で、一致国会でも問題発覚して政権交代につながっている訳ですから二院固有の問題ではありません。

AFTER: 
2点目、政権交代のT/Aについて。
そもそも、スペインは、二院制の前は独裁国家で政権交代のしようがないので、比較の対象が不適切。
その上で、問題発覚は衆院でもできるので、二院制により政権交代可能性が高まることはありません。現状では、問題発覚、ねじれ、政権交代という形で行われていたのが、問題発覚からダイレクトに政権交代に行ける訳だから可能にはなる。

ただ、主審の方の指摘の通り、政権交代に関する筋はそもそもインパクトが怪しいので、試合全体への評価を変えうるほどではなさそう。

【改善ポイント② ねじれ(AC)】

次に、Caseの主な争点となった、ねじれ国会による法案決定の妨げに関する論点に移ります。個人的には、CPのキャプチャーへの対策に時間を割きすぎて、統計の解釈に関する反駁へのケアが疎かになっているのが反省点です。
まず、いらないエビデンスを抜く作業から始めます。リーマンショック対策はN/Aとの評価が主で、なくても大勢に影響は与えなさそうです。
次に、成立率の話は分が悪い(肯定側が都合の良い年のみを持ってきていて、違う年を見るとねじれとの関係はない、という1NRの指摘は妥当)ので、重要法案に絞って守るのが良さそうです。内因性の1枚目の田村の資料「目玉法案の否決」や内因性の最後の事例は残っているので、その話を伸ばしていく方向で考えてみます。

BEFORE:
4点目、これを全部取れなかったとしても内因性で述べた出し控えの話は残っています。これは再可決が可能な状況でも重要性2点目につながる被害を生んでいます。麻生政権におけるリーマンショック対策の例。
日経新聞 08
日本はねじれ国会の与野党対立で政策の実行が持ち越されたままだ。二次補正予算案の臨時国会提出が見送られ、二兆円の定額給付金など追加経済対策のメドが立っていない。(中略)年末に向け、世論は中小企業の資金繰り支援など景気対策の早期実施を求めているのに、このままでは周回遅れになりかねない。(終わり)

AFTER: 
内因性2の2枚目、統計の解釈について。
成立率の話がありましたが、成立率自体は問題ではありません。内因性2の3枚目で述べた通り、法案の提出そのものがねじれで妨げられているので、率で比べても意味ない。
成立件数については、内因性の頭の資料見てください。重要法案が否決されるというロジック自体は否定されていない。
内因性の最後の事例も結局返ってない。海賊法とか電気事業法がねじれのせいで通らないという話は全く否定されてないし、実際、1NR自身が読んだ田中さんのエビデンスでも年10本程度の差があることは認められてる。
少なくともここの解決の差分はある。(ここまで全部追加)

4点目、これが全部取れなかったとしても内因性で述べた出し控えの話は残っています。これは再可決が可能な状況でも重要性2点目につながる被害を生んでいます。

目玉法案が狙って止められているという逃げ方は、CPの返しで読んだ「スペインでも目玉法案が流れている」という分析とも相性が良いのではないかと感じております。


【改善ポイント③ 少数派の反映(NC-UQ1)】

ここに関しては、当初の反駁の狙いとしては、ロジックとしては認めるけど、インパクトを減じる方向で作成していました。
ただ、ジャッジの評価としては、「武力行使の事前承認を求めるなど一定の変化はあり」、「それが意味のない譲歩かはわからない」という感じだったので、大きく方針を変え、少数意見の汲み取り自体のインパクトを叩く方向にしてみました。

BEFORE: 
固有性1点目の「参院で少数派を反映している」に対して、
1.参院で議席を持っても、少数派の意見は意思決定に大きな影響を及ぼせません。
東工大 橋爪 01
比例代表制や中選挙区制は、政党のバラエティが増すので、さまざまな考えが議会に反映されるように感じられる。(中略)しかし、さまざまな政党が議席を持ったとしても、その大半は少数派ですから、彼らの意見がそのままのかたちで全体の意思決定に採用されることはない。国会での論議に多少なりと影響を与えるとしても、基本的には、無視される存在でしかない。(終わり)2.安保の事例についても、否定側が述べている修正は、与党が強行採決との批判を避けるために、小政党に対して若干譲歩したにすぎません。
京大 待鳥 15
衆参両院で与党が過半数を確保している以上、与党・内閣が成立に全力を挙げている最重要法案について、野党第一党からの全面的な修正案をのむはずはない。(中略)与党・内閣は、一方的に法案を押し通したという非難を回避するために多少の譲歩をするつもりはあっただろうが、それは小政党の賛成を得られれば事足りる(終わり)

AFTER: 
固有性1点目の「参院で少数派を反映する」に対して、
1、そもそも全ての法案に対して民意を集約して反映すること自体、複雑化した現代社会では不可能ですし、むしろ政治が不安定になります。
京大教授 佐伯 11
民意といっても、一人一人の意見や利害は違う。選挙や多数決で集約しても、必ず不満が出てくる。その不満にもまた応えようとするので、結果的に政治は迷走する。民主主義が進み、より民意を反映させようとすればするほど、政治は不安定になってしまう。(終わり)
2、そして、誰もが負担を負う世界においてあるべき民意反映の姿は、選挙を通じて政権に政策を委任することです。
立命館大 上久保 12
日本政治では、少数意見が過度に尊重され過ぎてきた。(中略)今の日本政治に必要なのは、財源を考慮してさまざまな政策の優先順位を付けた包括的な政策パッケージを作る「政権担当能力」を持つ大政党であり、大政党に議会での安定多数を与えて円滑な意思決定を可能にする小選挙区制なのである。(終わり)

改善後の1AR

最終的には、以下のような原稿に組み替えました。文字数としては150語程度の微増なので、ギリギリ読めるかもという感じです。大きく方針を変えたところは少ないですが、細かな表現の差異で評価が変わるかもという期待も込めて再考しました。

まとめ

決勝1ARに関する再考は以上となります。Caseは残りそうでしょうか。2NRはどんなスピーチをするのでしょうか。1票でも肯定側に転がり込むでしょうか。皆様のご意見・ご感想を頂けたら幸いです。

さて、当初はスペインの事例を掘ることで勝ち筋を探そうと考えていたのですが、優勝したたぬきの先輩方に原稿を見せて頂いたところ、返しの返しまで潤沢に用意されており(参考)、スペインの事例での勝負は諦めて違う筋での改善を考えました。

余談ですが、記事の写真はJDAの打ち上げの際にチームメイトにご馳走して頂いた肉の写真を使わせて頂いています。シーズン中も含め大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。

最後となりましたが、本記事の執筆過程では、創価大学の佐藤正光君に多大なるご協力・アドバイスを頂きました。本当にありがとうございました。

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