友情旅津軽①

高校卒業ぶりの友人と駅の地下道で再会した。
「バッタリ」と言う表現がこんなにしっくりくる再会ははじめてだった。
それはもうほんとにバッタリ、不倫相手との逢瀬の帰りに会ったのだ。

その日の朝私は急にSさんに逢いたくなった。逢うという漢字がぴったりな位、熱烈に『逢いたく』なった。ロマンチックに見えるがこの気持ちは生理現象に近く、私は「催す」感覚と同等にみている。眠い、腹へり、うんこと同じ感覚である。
すぐに逢いたいと連絡した。
一言、逢いたい。
そう言われるのに弱いのだ。sさんは。わかってるから色々な理由を言いたい自分、グッグッと押し込めて一言だけ送るのである。
「貴方に逢いたい気持ちが抑えきれなくて言葉が出ないの」そんな気持ちが嬉しいのだろう、一言だけ送った日は返信がやだら早い。
そんなこんなで新幹線ダブル切符でお得に早く逢いに走り、準備70分、滞在時間1時間半を終えた涙涙の帰り道にバッタリQ君に会ったのだ。

Q君はお堅い仕事をしていて、その日はスーツだった。靴から頭までお堅い仕事の人という出で立ちだ。私は約ひと月ぶりの再会で少しでも可愛いと好感をもってもらうべく、レースのトップスを着ていた。sさんが好きなスカートも履いていたが靴だけはスニーカーだった。
それがやけに恥ずかしくて、暗い車内に何度も何度も感謝した。化粧もバッチリだったが帰りの新幹線でほろりほろり零したせいで、ほぼ素肌の私だった。それはお世辞にも美しくはない、枯れた花というフレーズがピッタリの私だった。
心も肌も枯れ果て、傷心の私に会ったQ君はとても嬉しそうだった。
「ほんとに久しぶりだね、いや、今会えて嬉しいよ」
喜んでもらえて嬉しくない人はいないだろう。私もこのままでは帰りたくなくて、そのままご飯に誘った。駅前の鳥料理のおみせだった。ノンアルビールと本物ビールで乾杯し、えらく話も盛り上がった。何度も「嬉しい」と言ってくれるQ君をみて、枯れた心はあっという間に潤った。sさんへの当てつけ半分で誘ったご飯だったが、思わずいい夜となった。Q君と来年の美術館の企画展を見に行こうなんて口約束をして、実家までおくってやった。

終始嬉しそうなQ君に悪い気はしなかった。
新しいなにかがはじまってほしかった。あった後に名残惜しく連絡してしまう自分をごまかせて誇らしかった。
そんな夜だった。

寝る前に思う人はsさんだった。

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