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LtM

『ねえ、ずっと長く感じてた夜を超え、
 きっと、遠くまできたよ。』
という歌い出しに心が抉られた。そうだね、そうだよね。と零しながら目を瞑ると、出会えてから今日までの毎日が、走馬灯のように流れた。こんなにも全てを鮮明に覚えているのに、なんだか長い夢を見ていただけのような気がしてしまう。曖昧な輪郭のそれらは、指でなぞればふわりと消えてしまいそうで、揺蕩わせておくことにした。

全てが"あの頃"になってしまった。たくさん泣いたり笑ったり、愛したり、愛されたりした日々を思い返す。もう二度と戻らないけれど、変わりなく煌めく掛け替えの無い時間に、いつも後ろ髪を引かれながら、見えない形でそっと背中を押されている。あなたが昔言っていた、『また何年後かに読み返したり、聞き返したりした時に、今日感じている想いや景色や、もしかしたら匂いまで思い出させてくれる、そんな言葉や音楽を届けたい。そしてそれが、未来で嫉妬するくらい、幸せな思い出であってほしい。』というそれは、辛いほどにその通りになっているよ。

どこにでも落ちているような、私の身の上話に泣いてくれたことが嬉しかった。私の言った、馬鹿みたいな一言に笑ってくれたことが嬉しかった。私はあなたに、嬉しい気持ちを幾つあげられていたのだろう。

「一緒にがんばろうね。絶対に大丈夫だから、ね、私がいるから。大丈夫、絶対だよ。」と言って握ってくれた手を、本当はもうずっと離したくなかった。

いつもの速度で終わる夏。あなたに会えなかったという事実は、季節をこんなにもつまらなくさせた。来年の夏こそは、と息巻いてみたが、あなたと私の両者に、等しくまた夏が訪れるという奇跡は起こらないかもしれないな、とふと思った。永遠なんてないのだ、と謳い続けてきた人との永遠をいちばんに望んでいるなんて、何とも皮肉な話である。

秋は深まっていくと言うけれど、自分がゆっくりと何処かに落ちていくような感覚に近くて、少し苦手だ。

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