【観劇メモ】ボノボたち

2020年10月19日(月)14時公演(Bキャスト)@シアターX
にて、鑑賞しました。

軽快で非常に楽しいお話でした!
身体的障害を持つ青年たちが主役の物語とあって、少々重いテーマも感じられましたが、全体的に明るくライトで、物語をマクロに捉えると非常に感情移入しやすいストーリーだったかなと思います。

以下、詳細です。

▼きっかけ・観劇前の印象

きっかけは、私が特撮モノが好きで、出演者の中に松田賢二さんのお名前があったことでした。

また動物が好きなのもあり「ボノボたち」というタイトルにも惹かれ公式HPであらすじを読んだところ、「目が見えない・耳が聞こえない・口がきけない」つまり見ざる言わざる聞かざるの三賢猿になぞらえた障害を持つ青年たちが彼女を作るために奮闘する物語…とのこと。

風刺…とまでは言い切らないですが、そういう「なぞらえる」とかの比喩表現を読み解いたり自分なりに噛み砕いたりするのが好きなので、どんな話をするんだろうと非常に興味を持ちました。

▼劇場について

シアターX(カイ):東京・両国駅から徒歩5分程度の小さな劇場でした。

初めて訪れる劇場に入る時はいつもワクワクします。
サンシャイン劇場などの大きめの劇場はよく行くんですが、小規模の劇場の独特の雰囲気が好きなので、ロビーの雰囲気をもうちょっと楽しんでこればよかったな〜と今更ながら思っています。
自由席での観劇も初めてで、どのような席区分になっているのかきちんと見てこなかったんですが、左右のブロックの最前列も自由席として取られていたのでちゃっかり最前列を陣取って鑑賞させていただきました。
最前列からステージまで、かなり広めの空間があったのも印象的でした。これは常時…?ああだったんでしょうか。本当はもっと席数が詰められたりするのかな…?


コロナ禍での上演は、劇場の方々も劇団の方々も、常にセンシティブな状態を迫られたかと思いますが、入場前の検温やフェイスシールド、チケット回収箱の設置(自分でもぎって入れるシステム)、1席ずつ空席を設けた客席、場面転換中の扉の開放など、対策はしっかりされていました。稽古中など観客に見えない範囲でも様々な対策をされていたことと思います。
この情勢において大変な中、劇場でエンターテイメントを提供してくださる皆様には感謝の念が尽きません。本日もありがとうございました。

▼ストーリーと感想

以下、全体的にストーリーの詳細なネタバレを含みます。

まずはメインの三賢猿こと障害を持つ幼馴染3人組、目の見えないアレックス、耳の聞こえないダニー、口の聞けないベン。
アレックス発案の作戦で、いつもの風俗ではなく、正式にカノジョを作るために、ネット上にアレックスが作った偽のマッチングサイトに登録した3人の女性と会ってみることになる3人。
それぞれのハンディキャップのため、ダニーは話者の口が見えていないと何を言っているか"聞こえず"、ベンはサイン(手話)でしか話せない、アレックスはベンとダニーが手話での密談やいたずらをしていても見えないので気づけない…など、序盤では3人の特徴を掴むのに十分なやりとりがありました。
個人的にはダニーのキャラクターがめちゃくちゃ好きです。口が回る人が好きなので……
そして女性と会うには1対1にならなきゃいけないのに、そのハンディキャップをどうカバーするのか。それもアレックスがすでに作戦を考えており、いざ当日…まるでトムとジェリーのようなやりとりでうまいことカバーしているのにはなるほどな〜と頷きながら見入っていました。

目の見えないアレックスには、別室でモニタリングしているベンとダニーがイヤホンを通して指示出し。耳の聞こえないダニーには、通訳が映っているテレビ番組をダミーとしてベンが別室からサインを送る。そして口の聞けないベンには、事前に12の台詞が録音された装置を用いて必要な時に適切なボタンを押して対応。

まずアレックスの家を舞台に、3人の女性と出会うターンではこのやり方では色々と課題があるように見え…そしてそれぞれの男女としての相性も見え、と言った印象。
そこからさらに、次はダニーの家、最後はベンの家…と3人×3人総当たりでのやりとりは見ていてとても楽しかったです。アレックスの家、ダニーの家でのやりとりを見て、対策を立ててくる男性陣VS事前に情報を得てると知らずに罠にハマる女性陣。
個人的に、1対1の関係性ひとつひとつの違いを見るのが好きなタイプなので最終的なマッチング結果もそれまでの過程を思うと納得だなあという感じでした。

まず最初に出てきたのは靴屋(エルメス)の売り子をしているレア。デートはアレックス→ベン→ダニーの順番。
衣装もふわふわのガーリーな感じで、アラフォー設定とは思えない"少女感"溢れる女性でした。理想の男性像を具体的に持っていて、それにぴったり当てはまる人が現れると途端に盲目になってしまうような…そんな夢見がちな女の子。

次は男勝りなぽっちゃり系麻薬取締警官・ジュリー。マリノア犬が大好き!
デートはダニー→アレックス→ベンの順番。
すぐに敬礼してしまったり、ついつい人に質問すると尋問みたいになっちゃうところなどなど、警官という役職が極端にキャラクタライズされていてわかりやすいしハキハキしていて、声質とかも個人的にはめちゃくちゃ好きでした。たぶんダニーの家で着ていた全面マリノア犬プリントのTシャツが一番インパクトあって好きです。女子会議の時かな…?
男勝りでルールや規範が大好き。葉っぱをやるダニーとは相性最悪…と思いきや…
マリノア犬が大好き!(←このフレーズめっちゃ好きだな〜って思いました)

最後はアレックス情報によると何度か悪い男に弄ばれたらしいアンジェリック。モダンで細身のスタイルを強調する衣装がとてもお似合いでした。デートはベン→ダニー→アレックスの順番。
非常に聡明な女性、という印象を持ちました。結局最後もアンジェリックがいなければきっと丸く収まらなかったのでは?
アレックスとの最初の「俺は目が見えないんだ」「私は足がないの」のやりとり、ヒヤリとしたんですが最後の最後、本当に義足だったのがわかった瞬間のウワーッてなる感覚がたまらなくよかったです。というかあの二人の舌戦…とまではいかないけれども、ああ言えばこう言う対決、みたいな頭の回転の早い人同士の会話が面白くて、どこまでが本当でどこからが嘘なの?と見ていて振り回されるようなシーンがとても印象的でした。
ダニーとのやりとり…というか、ダニーが一方的にアンジェリックのことを言い当てる(事前情報を元に喋る)シーンも、どんどんアンジェリックのダニーへの好感度が上がっていくのがわかって面白いな〜と思ったんですが、アレックスの最初の目が見えない足がないが作中で一番好きでしたね…

最終的に3人対3人で会うことになった3組の男女。そんなに女の子とSEXしたいだけなら風俗に行けばいいじゃない!と詰る女性陣と、ハンディキャップを隠して一瞬でも夢を見られたと言う男性陣。
レアも、ジュリーも、アンジェリックも、ハンディキャップがあるから何?と言わんばかりにベン、ダニー、アレックスと今度こそ本当に対話をする……その対話に至るきっかけも女性陣三者三様で、キャラクターがしっかりしているのがよくわかるシーンでした。

ジュリーがサインができると知って急に掌を返すダニー、チョロくてめちゃくちゃ好きだな〜って思いました。
「初めから言ってくれりゃ、バカ女だなんて言わなかったのに!」サインを使える人が少なくて、どうせコミュニケーションが取れないと頭から決めつけて、視界の狭い世界でダニーはずっと生きてきたんだなと言うのが一瞬でわかる台詞でとても好きです。

3人の中で一番の性欲の塊だったベン。女子会議を経てベンに裏切られたと思っていたレア……この二人は、なんかフィーリングかなって…そんな印象でした。だってたぶんベンはまだ懲りなそうだし、レアはベンが浮気しようものならまたヒステリックに感情を爆発させそうだし……でもなんやかんや雰囲気で愛を語ってお互いごまかされるのかな〜って感じがしましたね……前日にピル飲まずにヤっただけで赤ちゃんが動いた…!っていうレア、恋に盲目な女の子すぎてすごい好きです。

そして、アンジェリックが最初にハンディキャップを暴こうとしたアレックス。ベーコン、カルパッチョ……そんな画家いる?ジュリーに突っ込まれながらも二人の間では暗黙の了解があるみたいに言葉の応酬が続くの、頭のいい人たちの悪ふざけ感が出ていてとても好きです(2回目)
アレックスが、アンジェリックと抱き合った時に感じたことを心のままに話すことでアンジェリックもありのままでいることを選ぶ流れ……この二人が一番情緒的…というか綺麗な物語かなという印象でした。

非常に軽快でコミカルながらも、「他人とわかり合うために必要なこと」とは…みたいな大きいテーマを、3種のハンディキャップを三賢猿に喩えてそれぞれの男女の受け入れ方を描いているお話だったなあと全体を振り返って思います。

ここから先は少し野暮な話にもなるんですが…
この女性陣の三者三様の彼らのハンディキャップの受け入れ方、この記事の冒頭に書いた「物語をマクロに捉えると感情移入しやすいストーリーだった」っていうのに繋がるんですけど、三賢猿をモチーフにしているだけで実際に「目が見えない」「耳が聞こえない」「口が聞けない」という身体的障害を抱える人は、アレックス・ダニー・ベンのようにうまくカバーしあうのは難しいだろうし、アンジェリック・ジュリー・レアのようにそれぞれをうまく包み込んだり対話したり共感してくれる相手が傍にいるとも限らない。
設定をあまりリアルに見すぎると、物語の本質を掴み損ねてしまいそうだなとも思いました。

私の勝手な解釈ではあるけれども、”障害者と健常者がわかり合う話”というよりは”他人と他人がわかり合う話”という大きな枠で考えた方がしっくり来ると思うのです。
ハンディキャップがあろうがなかろうが、わかり合えないと思い込んでいればわかり合えないし、お互いがお互いを尊重しあって少しずつ言葉を交わしていけばわかり合えることもある。
それがこの作品の一番のテーマかなあと思いました。

単純に三賢猿をモチーフにしたのは皮肉っぽくて面白いなと思いましたし、作者のバフィ氏のプロフィールをフライヤーで拝見したところ、前作の『TOC TOC』は強迫性障害の患者たちの待合室が舞台…ということで、そういう目で見てわかりやすい欠落・異常性をモチーフに扱うことで、自分が健常者だと信じ込んでいるだけで、欠落や異常性は誰にでもありうるし、障害者と健常者の間に壁があるのではなく、そもそも自分と他人の間にある壁と一緒なんだ、ということを描いているのかなと感じました。
バフィ氏の作品に触れるのは今回が初めてでしたが、前作にとても興味が湧いたので、今後いろいろとチェックしてみたいなと思います。

今日は生憎の雨で気温も急に低くなりましたが、また良質な芸術・エンターテイメントを摂取したな!と足取り軽い帰路でした。
「ボノボたち」とってもおもしろかったです! ありがとうございました!

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